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米国ジョージア州アトランタに拠点を置く電力会社Southern Company(2009年度売上高157億ドル、従業員2万6,000名)のThomas Fanning CEOが原子力発電所建設を続行する意思を表明しました。同社はオバマ政権の原子力推進政策により、すでに83億3,000万ドルの債務保証を受けています。

Bloomberg: Japan Crisis Shouldn’t Derail U.S. Nuclear Plans, Fanning Says

記事の中でFanning CEOは、米国は日本の原発事故の影響を受けて原発計画を中止させることがあってはならない、石炭(米国の発電の5割を占める)は将来の世代のために取っておかなければならない、天然ガスはあるが決め手にはならない、再生可能エネルギーだけでは足りない、やはり原子力が必要だ、という意味のことを言っています。

■米政府の原子力発電所に対する債務保証

ここで債務保証の背景を説明します。原子力発電所一般に建設の初期費用が膨大であり、それに対して運用費用が低く抑えられるという特徴があります。ベトナムで建設予定の原子力発電所は建設コスト2基で1兆円〜2兆円という金額が報じられています。中国やインドではその半分程度で建設されているようです。いずれにしても巨額であることに変わりはありません。この巨額の初期費用をどうファイナンスするかが原子力発電所を成立させるための鍵です。

インフラ投資案件として発電所というカテゴリーを見ると、電力の卸売を行う発電所であれ、小売で収益を得るモデルであれ、電力販売から得られる収益は比較的安定しており、中長期にわたって予測が立てやすいという特徴があります。投資を行う側からすれば毎年度の配当が予想しやすい、融資を行う側からすれば毎期の返済額が予想しやすいわけです。
原子力発電所にこれを当てはめると、たとえ初期投資が1兆円〜2兆円といった膨大な額に上るとしても、安定的な電力販売収入が10年20年と続くことがわかっているので、投資および融資に踏み込みやすいということになります。ただし融資する側からすると、万一の返済が滞る事態を想定して、財務の大きな主体が債務保証をしてくれると、なおよいということになります。
オバマ政権では二酸化炭素削減の切り札として原子力を考えており、原子力発電所の新設を推進するために電力会社の計画に債務保証を付けるのです。

■計画続行する側は炉型の世代が違うことを強調

福島第1原子力発電所事故により、原子力発電所の安全性が各国で議論されています。未だ原子力発電所を持たない国で計画段階にあったところでは、例えばタイがそうですが、計画中止に動くパターンが多いようです。一方、すでに計画が進んでおり、用地などの手当が済んでいる国では、安全性について再度見直しをかけた上で、計画を進めるパターンが見られます。ベトナムやトルコがそうです。米国もそのパターンです。

どう変化する今後の原発計画? - ベトナム
どう変化する今後の原発計画? - トルコ

最近の報道では、トルコは日本との間で決まった原子力発電所建設計画の実際の進行に必要な作業を一時的に延期することが伝えられています。これは日本側が現時点では余裕がないということが背景にあります。

計画続行を打ち出す国や電力会社では、建設予定の原子炉が福島第1原子力発電所の炉型とは世代が違い、安全性の面で問題がないことを強調します。Southern CompanyのCEOも上の記事でそれを言っています。
福島第1原子力発電所の炉型は最初期の第一世代。現在計画が進められているものは第三世代、ないし第三世代プラス、ないし第四世代と呼ばれているものです。Southern Companyは東芝傘下のウェスチングハウス製の「AP1000」と呼ばれる第三世代プラスの加圧水型の原子炉を採用しています。

AP1000では、外部電源や非常用ディーゼル電源が絶たれた場合でも冷却機能が機能するPassive Core Cooling System(PCCS)と呼ばれる冷却システムを導入しています。PCCSが機能する様をアニメーションで示した資料がこちらにあります。また、箇条書きでPCCSなどの安全機能を説明した資料がこちらにあります。

米エネルギー省では商用運転される原子炉に安全性等をチェックした上で認証を与えており、AP1000は今年中に認証が得られる見込みだと伝えられています。認証が済み次第、着工となります。米国ではスリーマイル島事故以後、長らく原子炉の新設がありませんでした。その長いブランクを破る初めての原子力発電所ということになります。(なお、AP1000はすでに中国の2カ所で2基ずつ建設が進んでいます。)

ただ、これらの動きは、米国政府、電力会社Southern Company、そしてそれにファイナンスをする主体に限られたものであり、地域の住民がどのような反応を示すのか予断を許さないところがあります。

ポイントは、AP1000に組み込まれた安全機能が福島第1原発と同様の事故を起こさないということを地域住民が完全に理解して納得し、さらには、それ以外に想定される危険に対してもAP1000の安全機能はしっかりと機能しうるということを理解し、納得することではないかと思います。今後、原子力発電を推進する国や電力会社では、新しいタイプの広報活動が求められていくでしょう。

なお、先日記したように、原子力発電の経済合理性に関する議論が一部で起こっているということも、念頭に置いておかなければなりません。

dimaizum

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プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

株式会社インフラコモンズ代表取締役。
国内の太陽光、木質バイオ、石炭火力の発電案件。海外の天然ガスに関係した案件の上流部分のアレンジメントを行っている。その他、リサーチ分野として、スマートグリッド、代替的な都市交通、エネルギーの輸出入。電力関連の近著も。

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