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 インターネットが関係する新規事業に関しては、ビジネス方法特許を取得して参入障壁を築くやり方は有効ではないのではないかということを説明しようとしつつ、前提のところを多少書いたまま、本論に入れずにいます。先を急ぎましょう。(なお私は、特許全般の価値や意義を否定するものではなく、あくまでもインターネット上で展開する新規事業に関係した特許に限定して、それが事業の発展をかえって阻害する可能性がなくはないかということを指摘したいと思っています。)

 現在構想中の新規事業は、消費者の製品使用経験に基づく非常にユニークな、製造者側にとっても価値の高いナレッジを製造者自身にフィードバックさせる仕組みが柱になります。価格コムなどではボランティア的な好意で披瀝され、「ありがとうございます」という謝意の文字列だけが報償になっているナレッジです。当該製品の製造元には還流しにくいナレッジであり、たとえネットで当該製品の開発担当者が読んだとしても、組織的に活用しにくい性質のあるナレッジです。ここに大きな価値があるとにらんでいます。

 われわれの誰もが実感しているように、インターネットを得て、消費者は大きく変質しました。客観的に消費者を束にして鳥瞰してみても大きな変化が認められるし、自分自身消費者として、90年代半ば頃の購買プロセスと現在の購買プロセスとを比較してみても、その違いがよくわかります。
 製品の選択と製品へのアクセスのために活用できる検索可能な情報がごまんとあることにより、われわれは、まず検索して情報リッチになってから実際の購入を行う人種に変質しました。90年代後半の三石玲子さん(個人的には師匠だと思っています)が「スマートショッパー」と呼んでいたところのものに、われわれはごく自然に変容しています。

 ノードが無数にあるこのネットワーク空間では、情報の新陳代謝は非常に効率よく行われます。われわれは知らぬ間に、情報をインプットするだけの存在ではなく、吸った息を吐くぐらいの自然さでもって情報をアウトプットする存在にもなった。アウトプットの対象領域はありとあらゆるものに及び、企業活動が関わる範疇では、店舗で遭遇した快不快の経験、一物一価には収斂しえない製品価格の現在、使用感、装着感、小ワザ裏ワザ、期待はずれの事実、「壊れてしまったよ」報告、改善要求、製造元への叱咤激励、クレーム、ジュテーム、アスパルテーム。そうしたアウトプットが日々おびただしくネットに投稿されるようになっています。

 その結果起こったのが、企業が従来、価格決定権の重要なよりどころとしてきた情報の非対称性のなし崩し的な形骸化です。過去には、企業はより多くを知っている存在であり、製品の核となるナレッジをキ○タマに至るまでしっかりと握っている存在であり、消費者に対しては圧倒的な優位に立って、ブランドのベールをかぶせて、相応の妥当性のある、しかししっかりと利益の出る価格設定を行うことができました。消費者との間で非常にはっきりとした情報の非対称性があったからできたワザです。

 それが現在では無数の懸命な消費者が、製品が市場に投下された瞬間からパッケージングの詳細を報告し、筐体を開けて写した画像を掲出し、使用レポートを書き、販売店情報を交換し、最安値情報がまたたく間に伝播し、他社の同等製品との比較が行われ、ためつすがめつ検分され検証され書き尽くされ、味わい尽くされてしまう。すべてが明るみに出され、ブランドの余光はどこかへ行ってしまって、情報の非対称性はむしろインターネット上でゆるく連帯した無数の消費者が駆使しうるものになりつつある。

 新製品のプレミアムがすぐになくなり、価格下落が起こり、1年も経たないうちにコモディティの価格となってしまって、利益がとれないまま製品ライフサイクルが終わるような事態になってしまう。そういう状況が起こっていますよね?消費者視点で眺めても、企業のマーケター視点でみつめてみても、この動きは明らかです。

 
 個人的にはこの状況は非常によろしくないと考えています。なぜか?多大なムダが生じているからです。
 商品価値がすぐに剥落してしまう現状では、新製品のまま不良在庫化してしまう事態も大いに起こり得るわけで、その商品の企画、設計開発、マーケティングなどに投入されたリソース全般を思うなら、ものすごい損失、ものすごい価値の流出です。NPVは正でなければならないという、コーポレートファイナンスの教科書の教えにまったく反します。これが現在は1社2社で起こっているのではなく、日本の屋台骨である製造業全体(消費者部門)で見られる現象です。国富の毀損はいかばかりか。

 これはですね。消費者に「賢くなるのはもうおやめなさい」と言って済む問題ではありません。消費者がよりスマートになり、より効率的に情報をインプットする術を覚え、よりインフルエンシャルにアウトプットを伝播させる手法をマスターするのを止めることは誰にもできません。それがネットワークの本質です。いわゆるネットワーク外部性というやつ。

 ”企業の側が”何もしないでいれば、情報の非対称性はどんどん消費者サイドに有利に働くようになり、利益はなおいっそう流出するようになります。簡単にいえばちょっとやそっとでは儲からなくなる。
 これはどうしたもんでしょうか?解答はあるのでしょうか?次回に乞うご期待!

 はーこうして熱を入れて書くと時間がすぐ経ちますね。約90分。

dimaizum

 ヤフオクで特定ジャンルの商品の売買を精力的に続けていると、おそらく誰であっても、市場メカニズムの何たるかを深く理解するようになると思います。すなわち、価格形成メカニズム、情報が価格に与える影響(過去の落札価格情報と、当該商品関連情報の2種類ある)、買う側が負うリスク、素人商売の限界、市場参加者の信用の重要性、そして、流動性についてです。

 ヤフオクでは多種多様な商品が売り買いされており、他のジャンルの商品では別種の市場特性が明らかになるのかも知れませんが、私の場合は、とりあえず中古オーディオ機器に限定して話を進めます。

 

オーディオ機器は、“それがなくても生きていける商品”の典型で、まぁぜいたく品に属します。その意味で、仕事に使うパソコンや、移動の実利を提供するクルマなどとは一線を画します。

なかでも、中古オーディオ機器は、マーケティングや流通機構が確立されている“新品”に比べて、元々のメーカーが関与するマーケティングはないに等しい、流通機構はジャングル状態だ、という特徴があります。つまり、まともな企業プレイヤーが近代的な経営の観点で営業効率や利益率を考えて売買を行うという動きは一切なく、売り手と買い手のバトルロワイヤルにも似た、自然発生的な売り買いがその都度生じるという状況にあります。そこに、ヤフオクがすこーんと現れました。

 念のため、商品ジャンルとしての中古オーディオ機器が持っている特徴をすこし挙げてみます。

1.      

個体ごとにコンディションのリスクがある。

中古CD、中古DVD、古本などは、ネットショップやネットオークションで購入しても、コンディションの良し悪しにさほど開きはなく、よほど悪くてもコンテンツそのものが楽しめないということはまずありません。

中古オーディオ機器の場合、販売から何年経過しているか、出品者は何番目のオーナーか、喫煙者がオーナーだったことがあるか、過去オーナーは丁寧に扱っていたか、熱やホコリなどで劣化していないか等々の条件が11台でまったく異なるため、コンディションはほんとうに千差万別です。また、見た目はきれいであっても、内部のコンデンサなどが経年劣化でダメになっている場合もあります。

ヤフオクの出品欄の記述と写真だけでは、「この個体はどの程度ダメになっているか?」、言い換えれば、「オレはこの個体を買う際にどの程度のリスクを負うことになるのか?」ということが非常にわかりづらく、最高価格をつけて落札する行為は、常に冒険でもあります。

2. 深い満足感に関わる商品である。

 オーディオマニア=音楽マニアということにはならないようですが、少なくともオーディオにそこそこ凝る人は、美音を愛でます。美音の定義や基準は人さまざまとしても、オーディオ機器をいくつか買ってつなげて鳴らしている人は、タイプA「これが美音というものだろう」、タイプB「いつかは美音を実現してやる」、タイプC「美音探求中につき、ぼくにその定義を聞かないで」のどれかに属します。

ヤフオクで中古オーディオ機器を購入するのも、それによって美音を出して深い満足に浸るためです。落札できた価格が数千円であれ数十万円であれ、落札した瞬間は、「これでオレの美音生活がますます豊かになる」というものすごい期待で胸がはちきれんばかりになっています。

したがって、送られていた機器が何らかの原因によって、かすかに音が歪んだり、時々ビリビリ言う音が出たり、ステレオ音像に乱れがあったりといったことがあるとすれば(いずれもオーディオ機器にはあるまじき大欠陥です)、深い満足感は一瞬にして崩れ落ち、「この非美音を出すあるまじき個体!」という深い深い不満足感に変わってしまいます。

通例、ヤフオクの中古オーディオ出品者は私を含めてオーディオの素人であり、音の良し悪しがわからない人が6-7割ぐらいいます。古いピアノを鳴らしてみて、「あ、この音びびってる」と感じる程度の耳もないような人であっても、比較的安易に「完全動作品です」と出品してくるので、すごく厄介です。

3.       複数の機器を組み合わせて楽しむものである。

オーディオ機器は最小限の構成であっても、CDプレイヤー、プリメインアンプ、スピーカーの3種が揃わなければ音が出ません。各機器はそれぞれ分化発展の途上にあり、たとえば、CDプレイヤーがCDトランスポートとデジタルアナログコンバーター(DAC)の2つに分かれて高級品なら各50万円、プリメインアンプがプリアンプとパワーアンプの2つに分かれて一級品なら各80万円、といった風に、組み合わせる機器は多々あります。

 組み合わせている機器を1つ取り替えただけでも、音がまったくよくなるということがあるため、組み合わせを変化させながら、自分の狙った音に近づけていくという行為が楽しみになります。

 したがって、投下資本が限られているなかで、多種多様な機器を取り替えて聴く機会が与えられれば、オーディオマニアは喜びます。ヤフオクができてはじめて、その楽しみを自分のものにしたという人は少なくないと思います。

 4. 発売時は比較的高額品である。

オーディオ機器はどの水準からまともなものと言えるか?議論もあることでしょうが、単体の機器で発売当時定価が20万円以上がひとつの目安だと考えています(スピーカーの場合は2本で40万)。CDプレイヤー、プリアンプ、パワーアンプ、スピーカー2本を揃えると、まぁ100万円程度。このぐらい出さないと、オーディオだなぁという音にはなりません。 

現実に、ヤフオクでそこそこの入札者を集める中古機器は、発売当時定価が20万円前後というのがすごく多いです。前回書きましたが、「発売時定価総額が150万円を超えるあたりからハイエンドの音がし始める」というのはまったく事実であり、そのひとつ前のレベルが発売当時定価総額が100万円というところ。

こうした高額品をヤフオクで揃えると、モノが中古ですからかなりお安い水準で大丈夫になる。これは大きいです。ただ、お安くなりやすいブランド(DENONなど)と、あまり安くならないブランド(アキュフェーズなど)とがあります。

 5. 数多くコレクションして意味があるジャンルではない

 実はある時期、プリアンプが6台程度、パワーアンプが5台程度、それからCDプレイヤーが3台、スピーカーがでかいの中ぐらいの合わせて4セット、その他もろもろで計30台近い中古オーディオ機器が自分の部屋であふれかえっていました。

 どれもまぁ13万円程度でお安く買えたものばかりですが、調子こいて、いろいろ組み合わせる実験と称して何台も買い込んで多種多様な組み合わせを試していました。

 で、結局、悟ったのが、多数の機器を買い込むなら発売当時定価が一番高いのに絞り込めということでした。オーディオはほんと価格が音に如実に現れる世界です。これは、オーディオ機器が本来は楽器であり、パーツに高級品を使えばよほどダメな設計でない限り、素直によい音がするということから来ています。

 機器が何台あっても、鳴らすことができるのは1つの組み合わせだけであり、ミニカーのように何百台も集めて、その台数の多さによって喜びが増すという商品ではありません。

取引的には、何かを買う場合には、何かを売ることが想定されているということが多いわけです。つまり、ヤフオクで繰り返し売買している人は、上述の美音追及のため、売りつつ買う、買いつつ売るということをやっています。このへんは株でリターンを稼ぐというのに多少近いです。

 本論に入れませんが、今日はこのへんで。

dimaizum

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プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

株式会社インフラコモンズ代表取締役。
国内の太陽光、木質バイオ、石炭火力の発電案件。海外の天然ガスに関係した案件の上流部分のアレンジメントを行っている。その他、リサーチ分野として、スマートグリッド、代替的な都市交通、エネルギーの輸出入。電力関連の近著も。

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