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根も葉もない噂からまともなニュースまでを取り上げます

米オラクルが日本オラクルを買収・完全子会社化する。こう予想する人がいる。私を含めてたいていの人は、「そりゃないやろ」との感覚で一致するのだが、それは感覚にすぎないし、相手が重鎮なだけに無視できない。きちんと検証して本当にあるのかないのかを判断できれば、(そしてもしTOBがあれば)日本オラクル株の購入で儲けることができるかもしれない。

そこで、読者に以下の判断材料を提示することで、結論を導きたいと考える。もちろん、判断材料そのものが間違っているという指摘も歓迎する(仕事の合間にビールを飲みながら書いているので、相当間違いがありそうだ)。ぜひコメントしてほしい(こいつアホちゃうかとまで書いてくれるとありがたい)。

●材料

-日本オラクルのアプリケーション事業はうまく行っていない
 2005年5月期の第3四半期決算でデータベース・テクノロジーの254億9700万円に対し、ビジネス・アプリケーションは11億8100万円にすぎない。IR資料を見ても、中間期、第3四半期ともに見込み案件の増加がうたわれているだけ。いつ案件がクローズするのやら。

-旧PeopleSoft製品をいまでも新規販売
 米オラクルでは旧PeopleSoft製品群の新規販売をしない方針で意志決定されている。しかし、日本では日本ピープルソフトがいまだにPeopleSoft製品を新規顧客向けに販売している。

-日本ピープルソフトの利益は米オラクルに直接還元できる
 日本オラクルは上場会社であるため、米オラクルは70%を超える大株主であるとしても、そこから入ってくる収入は税引後利益から出す配当と、ソフトウェアのライセンス収入のみ。これに対して、日本ピープルソフトからの収入は、日本の税務当局の目を欺いて「ちょろまかす」ことができる。「日本ピープルソフトとの協力関係は未決定。製品統合など具体的な成果は07年5月期以降か」(東洋経済 会社四季報より)。米オラクルが直轄地を失いたくない意志が見て取れる。

-日本オラクル株は安いか?
 米オラクルの日本オラクル株保有分は9506万株。発行済み株式数1億2819万4662株の約74.15%に相当する。残りの3313万4662株を5000円で取得する場合、必要な資金は1656億7331万円。ピープルソフト買収に要した資金は103億米ドル、リテック買収では5億4000万米ドル。アプリケーション戦略を推進する上で、この金額は適切な投資なのかどうか。

●子会社化しない

-子会社化するための資金が不要
-現状でも米オラクルは、実質的に日本オラクルを支配している
-日本市場において、法人格を持ち、日本で上場していることによる“安心感”は強い
-現時点で日本ピープルソフトから得られる利益を受け取れる

●子会社化する

-いますぐにグローバルなアプリケーション戦略で統一歩調を取れる
-日本ピープルソフトとの統合で日本市場での利益を高めることに期待できる
-上場の廃止で、配当以上の金額を日本から引っ張って来ることができる
-マイクロソフトもSAPも法人格はあるが上場していない。上場メリットはそれほどないのでは?

 最後に現時点での考えを付記する。

 米オラクルがビジネスアプリケーション分野での存在感を拡大したいのは間違いない。また、グローバル企業として戦略を立てたいことも確かだろう。しかし現時点では、戦略の統一歩調が巨額な投資に見合うかどうかが問題になりそうだ。米国のIR資料を見ると、データベース・テクノロジー分野とビジネス・アプリケーション分野の比率は4~5対1程度。これに対して日本は20~30対1であり、大株主の米オラクルとしては大いに不満を感じていると考えられる。なお、アジア全体でもその比率は10対1程度。日本でのビジネスアプリケーション不調は相当に深刻だ。
 日本オラクルを日本ピープルソフトと統合させると、単純に数字を足すことで、一時的に売上と利益は水増しされるだろう。しかし、それは数字にすぎず、日本オラクルがビジネスアプリケーション分野で好調に転ずるわけではない。つまり、統合させてもリストラ効果があるくらいで、そのメリットはそれほど多くないはずだ。
 不満はあれど、介入するほどではない。現時点で子会社化はないと考えている。

#個人的には今の日本オラクル株は割安だと考えている。そのうち買うかも…。

いづもと

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コメント
匿名希望 2005/06/20 03:22

> 米オラクルが日本オラクルを買収・完全子会社化する。こう予想する人がいる。

というのは、誰なんでしょう?

J 2005/06/20 03:34

日本ピープルが米Oracleの完全子会社、日本オラクルは大株主の1人という違いからくる温度差もありますね。それでも、日本ピープルは米本社のコントロールからやや外れている印象がありますが。
日本ピープル、日本オラクル、米Oracleの歩調が合わないことで将来的に一番不利益を被るのはユーザーですよね。何らかの介入は行われるような気がします。

SOU 2005/06/20 10:47

正確な年月は失念しましたが、昨年か一昨年には、直接的に米オラクルからの担当者が国内の一部の部門を統括していたと記憶しています(取締役ではなくて)。homepageやIR情報に公開されていた社内部門の情報を見ると何名かいたはず。何の担当か忘れているので正しい判断とは言えませんが、これらのことを考えると米オラクルによる日本オラクルの買収は「既に検討された、介入された」事項かと思います。それによる結論は分かりませんが、戦略と資金面からPeopleSoft買収、リテック買収の方が優先された=日本オラクル買収はそんなに重要視されていない、と考えることができるのではないでしょうか。

NABENO 2005/06/20 22:00

日本オラクルは確かに米Oracleの自由自在に支配が利く組織では無いかもしれませんね。
製品は決して悪くないと思いますが、やはり人と組織を立て直すのは厳しいと思います。日本のERP市場は既に旨みのある儲かるビジネスでは無くなりつつありますので難しいでしょうね。
そこで提案。いっそのこと日本オラクルはEBSを日本PeopleSoft部隊に一任して経営も製品も日本独自路線を突き進んでみるのは・・・そして米Oracleは日本市場へムダな投資を一切辞めて全ての投資を中国を中心とする大陸へ投入。(米国本社の大手企業は既に日本市場に投資する価値は無いと判断しております。テストマーケットとしてのみ評価だそうです)
井津元さんまた、ご飯食べに行きましょうね。

Manabu 2005/06/20 23:11

米Oracleは日本オラクルの大株主なのだから、業績に不満があれば株主として関与すればいいだけなんじゃないでしょうか。

+ アプリケーションはうまくいってない
+ コンサル系もうまくいってない
+ DB系は価格低下への圧力はあるもののカネヅル
とあれば、その事業の責任者を入れ替えるというあたりからじゃないでしょうか。

日本でのアプリケーション系はピープル方面に一括させたりするってのもアリでしょうね。
「日本オラクル、ERP部隊をピープルに全面移管」っていうほうがすっきりするし。


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プロフィール

井津元 由比古

井津元 由比古

1976年、神戸市生まれ。
京都大学経済学部経済学科卒業後、外資系SIに入社。
2000年、ZDNet Japan(現ITmedia)で主にビジネスアプリケーションを担当する記者に。
退職して2003年より月刊誌編集長。
2005年、有限会社ライトセブンを設立。

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