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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

べき乗則というものがありますので、見切りをつける前にとりあえずこれだけの時間やってみましょう

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ITに強いビジネスライターの森川ミユキです。

私はいわゆる「意識高い系()」があまり好きではなく、彼らが口ずさむ「あきらめなければ成功する」みたいなことわざに、「それは成功した人はあきらめなかった、でしょ?」と突っ込みたくなります。

どうも、意識高い系()は必要条件と十分条件を、たぶんわざとだと思うのですけど、ひっくり返すことが多いです。世の中には必要条件と十分条件の区別がついていない人がけっこういて、そのような人たちをターゲットに感動を与えたりすることが成功の秘訣なのでしょう(知らんけど※1)。

まあ、「あきらめなければ成功する」なんてことはないのです。人間の寿命が無限大ならばほとんどの場合そうかもしれませんけれど、たとえそうであっても成功しない人はゼロではありません。

世を貫く法則はたいがい非情でして、大成功した人と失敗しかしなかった人を右から左にならべれば、釣り鐘状の分布をとるようになっております。そこに情などなく、あるのは確率だけです。

ただ運だけで成功するなんてこともなく、もちろん努力が必要なのですけれど、その努力を向けた分野が自分に合っているかどうか、そこに運があるわけなんですね。

「好きこそものの上手なれ」と「下手の横好き」という一見相(あい)反することわざがありますが、これは別に矛盾しているわけではありません。好きになったものに対する運のありなしを言っているのです。でも「下手の横好き」でも楽しければいいはずで、私もたくさんの横好きを持っています。ただそれで成功しようとも思っておりません。

もし成功したいのであれば、いろんなことを試してダメなら次に行くというサイクルを回すのが一番ではないでしょうか。自意識を捨てて、とにかく数打てとこちらの投稿でも申し上げております。ですから、「あきらめなければ成功する」などという粘着質(パラノ)な考え方は好きではなく、「成功したいなら向いてないことには早く見切りをつけて次に行こう」という枯淡(スキゾ)な考え方が好きなんですね。

とは言うものの、「あきらめなければ成功する」と力説する人たちに共感したくなるぐらい、見切りが早すぎる人たちも多いです。1回ぽっきりの体験で、「もういいです。私には無理っす」と言うのはやっぱり早すぎる気がします。

ではどの辺で見切りをつけたらいいのでしょうか?

いろんな人が異口同音に言っていますが、「1万時間の法則」というのがありますよね? 

1万時間取り組めばプロになれる、ってやつです。これも私に言わせると、「プロとして独り立ちしている人は1万時間やった人だ(1万時間はプロになる必要条件)」となるんですが、しかし何となく真理っぽくはあります。

何のビジネスでもいいですよ。たとえばITエンジニアにしときましょうか。あれは雑用が多い仕事なんで、まあ1日に4時間を本業に当てられたいいんじゃないですか? すると月22日働いたとして88時間。年間では約1,000時間。つまり約10年働けば1人前のプロ。おお、何となくそんな感じはします。

もちろん10年働いたってダメな人はダメ(前述の「下手の横好き」ですね)なんで、こんな言葉を簡単に鵜呑みにして10年働いちゃうと人生を半分棒に振るようなことになることもあるわけです。

だから1万時間働いてから考えましょうなんてことを言うつもりはありません。

私が考えるに100時間。あなたがやりたいと希望することを、まず100時間やりましょうというのが私の言いたいことです。

というのはべき乗則というものがあるからです。先ほどの釣り鐘型の分布とこのべき乗則は、世を貫く2大鉄則ともいうべきもので、したがって「非情」さも同程度。つまりまったく身も蓋もないものです。

知らない方は、下の動画がとてもわかりやすいです。

上達度の法則【べき乗則】スキル習得に必要な練習時間は何時間?スランプから抜け出すには?

簡単に説明すると、人間それに打ち込んだ時間に応じて上達していくものです。ただし波がありまして、昨日より今日が上達しているということでもありません。むしろ退歩している日もあります。しかし傾向としては右肩上がりになります。そして初期の頃はぐんぐん上達しますが、その後は伸び悩みながらも少しずつ上達していくという感じになります。

その伸び悩みの感じを数学的に表現すると、縦軸に上達度(※2)、横軸に回数や時間の対数を取ると、ほぼ比例するようなグラフを描けるというものです(上の動画を見れば一目瞭然です)。

具体的に言えば、1万時間あることに打ち込んだときの上達度は、100時間打ち込んだときのわずか2倍だということです。つまり100時間もやってみたら、1万時間やったときの自分の姿はだいたいイメージできるということなんです。

嫌々やっていることならそれこそ1時間でやめちゃってもいいと思います。ですが、もしかしたら「自分に向いているかもしれない」、「自分はこれをやりたいのかもしれない」と思うことであれば、まず100時間(※3)、一生懸命やってみましょう。そこで見切りをつけても遅くはありません。

脚注

※1:本当は知っています。意識高い系()自己啓発ビジネスのやり口はこの目で見てきましたから。詐欺まがいの教えに引っかかりやすい人の特徴の1つは、必要条件を十分条件と取り違えることなので(あるいは因果関係がよくわからない人と言ってもいいかもしれません)、まずそのあたりを反射的に見極めるトークが得意です。「あきらなめなければ成功する」という言葉が典型的な試金石で、これを聞いて「目からウロコです」なんて言う人がカモにされるのを何回も見ました。でもその人に、「それは必要条件と十分条件を取り違えている(騙されているかもよ)」とやんわり指摘しても、「あなたは斜に構えていて、人の言うことを素直に聞かないからダメなんだ」と涙目で反論されますので、誰一人救うことはできませんでした。

※2:この定義は取り組む内容で変わってきますが、複雑な仕事になるとどうしても曖昧になります。スキルを定義するための項目が数多く、しかも定性的(5段階評価など)になるからです。とはいえ、AさんはBさんよりITエンジニアとしては2倍能力がある、って何となくイメージできなくもありませんよね? ただ年収が2倍にならないところに様々な人間模様が発生するようです。

※3:その意味では10時間でもいいかもしれません。1万時間やったときの4分の1の上達度ですから、将来をある程度イメージできます。たとえばデジタル系の仕事につきたいというのなら初心者向け研修を10時間受けてみて、それでちんぷんかんぷんならあきらめたほうがいい。でも何となくいけそうだと思ったら、次は90時間の実践をすればいいと思います。さすがに1時間は少なすぎると思いますが、1時間どころか最初の5分で見切りを付ける人もいて、それじゃあ何1つものにならないよなあと思います。


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