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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

えー? FIREってそんなことだったの? それって日本だけ??? どっちにしろ私はやりたくありません

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デジタルとマーケティングに強いビジネスライター森川ミユキです。

VUCA時代の新しい生き方の本の制作をお手伝いしているのですが、そろそろ終わりそうです。

その中でFIREについて触れる箇所があったので、改めて調べたんですね。で、FIREはお勧めできないという結論に至りました。

FIREの定義もなかなか曖昧なところがあります。というか最近、明確な定義のある言葉のほうが珍しく、これがVUCAということなのだなあと思うことが多いです。

間違いないのは、FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った言葉で、「投資の運用益で生活することを前提に早期退職すること」といった意味で使われているということです。曖昧なのは、たとえば準備期間も含めてFIREというのかとか、仕事を続けていてもFIREと言っていいのかとか、そんなあたりです。どんな生き方なのかも良くわかりません。

言葉だけ一人歩きしている感があります。たぶん「早期退職」という言葉が、仕事に疲れた会社員にとても響くからでしょう。

しかし実態を知ったら、検討する気にもならないのではないかと思います。

まあ他にもいろいろ手立てがあり、もっと魅力的なやり方もあるのかもしれません。見逃していたら申し訳ないのですが、一般的に投資銀行などが勧めているFIREのやり方は「年間支出の25倍のお金を貯めて、それを年4%の利回りで運用しよう」というものです。

説明に使われるモデルケースは、年間支出300万円というものです。まずここで驚きます。月平均25万円ということで、独身ならまだしも家族がいたらちょっときついです。独身でも都心はきついでしょう。家賃だけで半分は使います。独身で地方暮らしなら何とかという額だと思います。

もっと少ないお給料で切り詰めた生活をされている方が多数いらっしゃるのは存じております。もし不快に思われたら、本当に申し訳ありません。ただ少なくとも「悠々自適の早期退職」というイメージとはちょっと遠いなあと思うのですよ。そもそもFIREを考える人はある程度の高給取りと思いますので、今より生活レベルが落ちる人が大半でしょう。

年金も貰っていれば300万円でも悠々自適かもしれませんが、それじゃあ「早期退職」とは言いません。

なのでモデルケースは、限られた対象がカツカツの暮らしをするという前提なんです。既に夢がないですが、でも「今の仕事を続けるぐらいなら、のんびり田舎で暮らしたい」と思い詰めている人には、響くのかもしれません。本心からそう思うのなら応援したいですが、逃げならやめたほうがいいと老婆心ながら思います。

で、そのカツカツの暮らしのためにいくら貯めないといけないかと言えば、その25倍、つまり7500万円です。

おいおい。早期退職じゃなかったのかい。ニューヨークの法律事務所で年収が手取り4000万円の人だったら4年ぐらいで貯められるかもしれませんが(しかし年間支出300万円の生活をしたいとは思わないでしょうけど)、日本の年収500万円ぐらいの平均的会社員には早期退職はちょっと無理だろうと思います。

ですので、FIREするお金を作るために投資と副業を勧めたりするんですね。何か、この時点で本末転倒感が漂ってきます。

ところで何で25倍かというと、運用の利回りが4%に設定されているからです。実際には手数料や税金というものがありますので、本当は4%じゃダメなんですが、そういうことは「細かいこと」(後で揉めると思うんですけどね)なので割愛されるのでした。

何を言っているか、わかりますよね? つまり7500万円を年4%で運用すると300万円の利益が出るわけで、これは年間支出額と同じですから(25倍の4%だから当然です)元金が減らないでずっと運用できるということなんです。

だから年利10%であれば、年収の10倍でもいいわけです。これもお分かりと思いますが、○倍と□%で、○×□が100になればいいのです。

それでも3000万円貯めないといけません。ちょっと現実的になりましたが、やはり年収500万円では「早期」はつらいかと思います。

さらに年利10%の運用はかなりリスキーです。「10%を超える儲け話は、まずポンジ・スキームと疑え」と言われています。そのレベルの投資です。やめときなはれと強く申し上げます。

株式投資をしている人や会社の売買などをしている人だと10%以上の運用益を上げている人もいると思いますが、これはもうプロのお仕事で、「退職」とは言えません。

※ですから「数百万円の貯金で早期退職する方法を教えます」なんてセミナーには行かないほうがいいです。ポンジ・スキームの集客の可能性がむちゃくちゃ高いので。ただ私がお手伝いしている本は、タイトルだけ見たらこんな感じなので悩ましいです。私は、そのタイトルには反対なんですけどね。

4%になるとかなりリスクが減るので、「25倍×4%」というのはかなり現実的なんだと思います。それでも7500万円貯めて、年300万円しか使えません。少なくとも私はまったく魅力を感じません。

さらに言うと、VUCAの時代、お金の価値はどんどん下がると考えられます。たぶん高級店のお話なんでしょうけど、ニューヨークではお蕎麦1杯が4,000円ぐらいするらしいです(聞いた話なので、違っていたらごめんなさい)。本当だとしたら、円安では説明できない額です。日本でもお蕎麦1杯1,500円ぐらいのお店はあるでしょうけど、1ドル250円になったわけではありません。

要するにドルの購買力も落ちている、つまりお金の価値が落ちているわけですね。日本ではそれに円安も乗ってくるわけで、ちょっとした地獄になっています。私などは、もう2度と海外旅行にはいけないなと諦めています。

だから年間支出を300万円に定めたとして、今はそれで良くても、10年後には極貧生活になっているかもしれないわけですよ。

これだけ労働市場が労働者に有利になっているのだから、お仕事がつらいのでしたら、転職するほうがよっぽどいいのではないでしょうか。


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