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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

なぜ「経営」と訳さなかったのだろう?

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ITに強いビジネスライターの森川滋之です。最近はAIとマーケティングが得意分野です。

「経営視点でものごとを見よ」と従業員に要求する経営者が多いようですが、僕は何だかなあと思います。なぜでしょう?

そもそも経営者が経営とは何かをわかっているのか?

すばらしい企業はたくさんある。取材する機会も多いし、仕事がら事例も渉猟しているし、取引先もある。

そういう会社は経営者もすばらしい。年齢は関係ない。むしろ若い人の方がすばらしい。初老に差し掛かっている僕は複雑な気持ちになるが、人類が進歩しているのだとすれば、それは必然だから仕方がない。

僕の感覚に過ぎないが、すばらしい経営者は従業員に対してあまり「経営視点でものごとを見よ」などと言わないように思う。そういう実感がある。

むしろ経営とは何かをよく分かっていない経営者が、そんなことを言うようだ。

そもそも経営とは何だろうか?

自分の取材・調査・執筆経験で言わせてもらえれば、今どきのすばらしい企業における経営とは「価値を生み出すこと」に尽きるのではないか。

商品を磨き上げること(不要な機能を削るのも含まれる)、広告宣伝を効果的にすること、ブランド力を高めることなどが価値を生み出すことだ。

優れた経営者は、価値を生み出すこと自体にも長けているが、それだけではなく、従業員が自然と価値を生み出すことに注力するしくみ作り、価値を生むことへの集中、価値を生まないことの排除といったことにも長けている。

こういうことが得意な人が優れた経営者だとすれば、優れた経営者が「経営視点でものごとを見よ」と従業員に要求するだろうか。

こんなことをいう経営者は、「自分は仕組み作りができないので、現場の運用でなんとかして」と言っているようなものだ。

何だかなあと思うゆえんである。

なぜ「マネジメント」などと訳したのか?

経営をこのようなものだとみなすことは、僕のオリジナルではない。

今から45年ほど昔に、みんな大好きなP.F.ドラッカーが本に書いたことを僕なりにまとめたものだ。ドラッカーは、「価値を生み出すこと」を「イノベーション」と、広告宣伝を効果的にしたり、ブランド力を高めたりすることを「マーケティング」と呼んだ。

そして、企業がやるべきことはイノベーションとマーケティングだと主張した。

返す返すも残念なことは、"MANAGEMENT: TASKS, PRESPONSIBILITIES, PRACTICES"を『マネジメント 基本と原則』と訳してしまったことだ。

なぜずばり『経営』と訳さなかったのだろう。

日本人はマネジメントと聞くと、課長から部長ぐらいの中間管理職の仕事だと思うのである。あるいはプロジェクト・マネージャの仕事と思うのである。でも、この本には中間管理職の管理術のようなことは書いていない。まさに経営の話が書かれている。

『経営』と訳してくれていたら、日本の経営者は経営とは何かについてもっと理解できていただろう。

「自分は仕組み作りができないので、現場の運用でなんとかして」というようなことを言う経営者は、マネジメント=経営を中間管理職の仕事だと勘違いしてしまったのである。


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