イノベーションは技術革新とは違う
ITに強いビジネスライターの森川滋之です。
「イノベーション」という言葉がもてはやされているのは今に始まったことではないと思うのですが、今でもまだ誤解している人が意外と多いような気がしています。
「オープン・イノベーション」の時代と言われる昨今、イノベーションの意味を正確に押さえておきたいとところです。
たとえば「イノベーション」でググると、検索結果ページの先頭に、こんな表示が出てきます。
イノベーション
(経済発展の一因としての)技術革新。
▷ innovation (=新機軸)
イノベーションと技術革新は似て非なるもの、というよりは「イノベーション⊃技術革新」と言った方がいいかもしれません。
技術革新は確かにイノベーションを引き起こすことがありますが、技術革新以外にもイノベーションを引き起こすものがあるということです。また技術革新だけでは、イノベーションを引き起こせないこともあります。
Wikipediaはかなり正確で、次の通り説明しています。
イノベーション(英: innovation)とは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。一般には新しい技術の発明を指すと誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す。
ただちょっと抽象的で長い説明なので、ポイントがよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
具体例を示すとわかりやすいかもしれません。
イノベーションの例としてよく挙げられるのが、19世紀後半のアメリカのサイラス・マコーミックの分割払いのアイデアです。
マコーミックは従来の5倍の性能を持つ刈り取り機を開発しましたが、収入が少ない農家は高価なため買うことができませんでした。そこでマコーミックは分割払いを提案し、収入が少ない農家でも買えるようにしたのです。
これがなぜイノベーションなのでしょうか?
それは、イノベーションとは「社会や利用者に大きな変化をもたらす」ことだからです。
従来の5倍の性能を持つ刈り取り機は確かに技術革新です。しかしそれだけでは一部の金持ちの農家以外には変化は起こりませんでした。金持ちが得するのはいつものことで、それでは社会的な変化とは言えません。
分割払いのアイデアこそが、社会に変化をもたらしたのです。
Wikipediaの長い説明の中にも含まれていますが、イノベーションかそうでないかを見分けるには、「社会的に大きな変化を起こ」したかどうかに注目すればいいのです。
P.F.ドラッガーは主著『マネジメント』の中で、イノベーションを極めて正確に説明しています。
イノベーションをイノベーションたらしめるものは、科学や技術そのものではない。経済や社会にもたらす変化である。消費者、生産者、市民、学生その他の人間行動にもたらす変化である。イノベーションが生み出すものは、単なる知識ではなく、新たな価値、富、行動である。(上田惇生訳、太字は筆者)
ですので、以下のようなことは、イノベーションそのものを目指しているということになります。
博報堂DYグループが"生活者データ・ドリブン"マーケティングで目指すのは、企業のマーケティング活動の支援を通じて生活者にとっての価値を創造することだ。(https://seikatsusha-ddm.com/article/05140/ より)
「生活者にとっての価値を創造する」ためには、生活者の行動(もっと言えば生き方)に変化をもたらす必要があるからです。
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