売っている人たちは具体的なことを言う
ITに強いビジネスライターの森川滋之です。
ITが関係するかどうかに関わらず、一般的なビジネステーマに関する取材も数多くやっています。たとえばマーケティング、経営、資金繰り、人材育成といったテーマで、取材相手にはコンサルタントもいますが、それよりも実際に売上を上げているオーナー経営者が多いです。
コンサルタントとオーナー経営者の大きな違いは、コンサルタントは抽象的なことを言いがちですが、オーナー経営者は具体的・実践的なことしか言わないということです。
実際、コンサルタントは「もの(サービスも含む)が売れるのは、価値があるからだ。価値があれば価格競争にならない」などという話をよくしますが、オーナー経営者からそのような抽象的な話をあまり聞いたことはありません。
では実際に売っているオーナー経営者は、どういうことを言うのでしょうか。私の考えもまじえてお話しします。
ものを買う理由の1つでしかないのでは?
そもそも私には、「価値」という言葉の意味がよく分かりません。哲学の世界ではソクラテス以来の大問題で、いまだに価値とは何かを解き明かした人はいないと、私は認識しています。
哲学ではなく「常識的な意味での『価値』だよ」と言う人もおられるでしょうけど、ならば私にも納得できるように、その「常識」を説明していただきたい。
などと言うとものすごく偏屈な人間だと思われるだけでしょうから、「どれくらい大切か、またどれくらい役に立つかという程度。またその大切さ。ねうち」という辞書的な意味だとしましょう(考えるほど意味が分からなくなるのですけれども)。
仮にこういう意味だとしても、「価値があるから買う」というのは、たくさんある「ものを買う理由」の1つでしかないと思われます。
なぜなら、どう見ても(たぶん)価値があると思えないものを私たちはたくさん所有しているからです。そして、そのほとんどは買ったものです。もらったものや拾ったものはごく一部。
価値のないものをたくさん持っているからこそ、「断捨離」が人の心を捉えるのではないでしょうか?
本当にものを売りたいのなら
私たちは脳でじっくり考える以外のところで購入を決断することが多い生き物です。
それはクルマでも家でも同様で、価格は関係ありません。高いものを買うときはさすがに複数の選択肢から選びます。検討項目も多く、その分検討時間も長くなりますが、結局最後は「エイヤ!」で決めています。だからどんな高価なものでも、買った後に何らかの後悔をすることが多いわけです。
実際、一番合理的な決断をしそうな大手企業でも、何十億円~何百億円かけていろいろと購入して臨んだプロジェクトに失敗することがあります。成功しても、全く後悔のないプロジェクトは珍しいでしょう。価値があるから調達したものばかりだったはずなのに・・・
「価値があるから買う」などというのは、自分たちが価値のあるものを売っていると信じたい(実際は価値があるかどうか分かっていない)売る側の論理ではないでしょうか。
本当にものを売りたいのなら、そんな浮ついた理屈でなく、自分たちがなぜものを買うのか、お客はなぜ買ったのかを掘り下げるほうが早道です――少なくとも、私が取材した実際にものを売っているオーナー経営者たちは、異口同音にこう言っていました。
(注)実際には、「価値と価格の違いを考えろ」という経営者は何人かいました。ただ突っ込んで伺うと、どうも価値という言葉を便益(ベネフィット)の意味で使っているようでした。便益は受け手側の受取方ですから、便益を考えることは「お客がなぜ買ったのかを掘り下げる」のと同じことを言っているのだと考えます。
最新のIT動向やITのビジネスへの応用について、経営者などビジネスパーソンに分かりやすく伝えることができるライターです。
最近いただく主なテーマは下記の通りです。
- AI関係(機械学習、ディープラーニング、RPAなど)
- デジタルトランスフォーメーション(DX)、デジタライゼーション
- デジタルマーケティング
- ビッグデータとアナリティクス(BI、BAなど)
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大手SI企業の基盤&ネットワーク技術者でしたので、インフラ&システム運用関係のテーマにも対応できます(クラウド、データセンター、バックアップ、レプリケーション、HCI等々)。
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