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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

AIに仕事を奪われる云々をAI応用技術者はこう考えている

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Facebookなどをやっていると、「このままではAIに仕事を奪われちゃうぞ!!!」みたいな煽り広告がいっぱい出てきてうざいのですが、実際にビジネスの現場にAIを導入している技術者はどう考えているのでしょうか?

僕の狭い取材範囲なので一般化はできないと思いますが、ちょっとした傾向があるようです。


ITに強いビジネスライターの森川滋之です。取材や調査で得た知見を、言えない固有名詞は匿してお伝えしています。

何冊かのAI関連本の編集支援をしております。僕は「ビジネスライター」を名乗っていますので、AI本といってもAI研究者が著者の本ではなく、実際にビジネス現場にAIを導入している技術者(開発者やITコンサルタント)が著者の本になります。

あるいはAIの導入をしているITベンダーにも話を聞きに行きます。こちらもビジネス現場にAIを導入している技術者が相手です。

で、まあ、なんだかんだで「このままではAIに仕事を奪われちゃうんですか?」という定番の質問をすることが多いです。

●AIに仕事を奪われちゃうなんてことはない?

みなさん、だいたい答えは同じです。

「技術革新が起これば、なくなる仕事はたくさんあります。でも、代わりの仕事ができます」

要するに、今どき電話交換手なんて仕事はないけれど、じゃあ、電子交換機が普及して電話交換手が大量に餓死したなんて話を聞いたことがありますか?という論法です。もっともな話です。

ただ、「昔は新技術の普及は徐々に進むものだったから、餓死しないで済んだんじゃないの? 今度のは急激と聞くよ」という反論もあるかもしれません。

そのような問いには、こう答える人が多いようです。

「生産性が今とはけた違いに高くなるので、労働時間がずっと減るはずです。なのでワークシェアすればいいだけのこと」

そんなことを心配するよりは、有り余る余剰時間をどう使うか考えたほうがいいというホリエモンみたいな人もいます。

●どうせ先のことなどわからない

で、実際のところどうなんでしょうか?

僕は正直、心配しても仕方がないと思います。

だって、もはや5年先のことなんか誰も予測できないですから。

僕がこう思うようになったのは、昨年末ぐらいからAIやビッグデータ関連の取材をするようになってからですが、マジで来年のこともよく分からなくなりました。

たとえば。

昨年の正月に、囲碁の世界チャンピオンクラスにAIが勝てると思っていたのは、おそらくアルファ碁の開発チームぐらいだったのではないでしょうか。いつか勝てるだろうけど、将棋盤と比べると4倍以上も広いのであと10年から20年はかかるだろうと思っていた人がほとんどでした。しかし、同年3月にアルファ碁はイ・セドル氏に完勝してしまいました。

とはいうものの、今のところはゲームで人間に勝てる程度で、まだ人間ときちっと会話もできません。でも、それだって3年もすればできそうな気もします。一方で、20年経っても難しい気もします。要するに予想できません。

●「シンギュラリティで仕事がなくなる」なんていうやつは信じるな

2045年に「シンギュラリティ」というものが来て、そのせいで職業がなくなると考えている人がいますが、それは大きな勘違いです。もし、そんな言い方で煽っている業者や自称予言者がいたら、それこそ無視してください。

一般に「シンギュラリティ」と言われるものは、レイ・カーツワイル氏が『シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき』という著作で「予言」したことです。その内容は、職業がなくなる云々なんてレベルの話ではありません。

書くと長いので、Wikipediaの「技術的特異点ー進化の6つのエポック」というところをザッと読んでみてください。

エポック5以降が何のことやらと思うかもしれませんが、これは言い換えると「不老不死」の実現なんです。

頭が痛くなりましたか? では、日本のスパコン界のリーダーの一人、齊藤元章氏の『エクサスケールの衝撃』もぜひ!

こちらは、現在ペタスケールのスパコンがエクサスケールになると、シンギュラリティの前に「プレ・シンギュラリティ」が到来し、その段階でエネルギーは無料になり、そのおかげで食料問題も解決するだろうという超楽観的未来像を描いています。

齊藤氏は、天才ともマッドサイエンティストともいわれる人ですが、僕は彼の文章を読んで僕より15歳以上は年上の人だと思っていたら、実は5つ年下の人だったのでびっくりしました。言い換えると、おじいさんみたいな文章を書く人です。

●割と「明るい未来」を信じているAI関係者

どちらも荒唐無稽でしょう?

しかし、AI関係者の中には、このような未来が5年や10年の時差はあるだろうが、必ず実現すると信じている人が多いのです。

カーツワイル氏はGoogleのAI開発の総指揮者です。つまり、少なくともGoogleは、100%ではないかもしれませんが、カーツワイル氏を信頼し、彼が予測するような未来の実現に向けて舵を切っているわけです。まあ、ラリー・ペイジ氏が好きそうな未来予想図ではありますが。

その証拠かどうかは分かりませんが、Googleは量子コンピュータの研究支援にかなり力を入れています。今はまだ玩具(にしては高いが)みたいな量子コンピュータですが、これが本格化すればディープラーニングの速度が今よりけた違いになる(控えめな予想で何億倍)と言われています。

僕はどうかというと、責任ある未来予測などできないという立場なので、否定も肯定もせず、生きている間にどれだけ変わるかウォッチしていこうと考えています(いい方向に変わればいいなとは思っていますけど)。

●2つのアドバイス

最後に、AIをビジネス現場に導入している人たちがしてくれたアドバイスを最大公約数的にまとめます。大きく2つです。

1つ目は、何があろうとITリテラシーがあればなんとかなるということ。RやPyson、あるいはJAVAでもいいのでプログラム言語が書ければいうことはないが、SQLでもいいでしょう。その上で、実際にはシステム開発をやらないにしても、技術者としっかりコミュニケーションできるだけのIT知識を持ちましょうとのことです。

今でこそ、「IT技術者は専門用語を使って話しやがってけしからん、もっとビジネスに寄れ」みたいな話が通用していますが、今後はIT技術者やデータサイエンティストは不足する一方。専門用語がわからないやつなど相手にしないという傾向が年々高まっていくと予想しているのです。ITの専門用語が分かる者同士がつるんで、富を独占していくというシナリオですね。

そうなったら僕は、専門用語が分からない人のための解説本で稼げればいいなと思っています。

一方でIT技術者もうかうかできません。AIやビッグデータが分からないと、それこそ仕事がなくなるかもしれません(それ以外に必要なのはインフラ技術者ぐらいでしょうか)。それでいてビジネスも分からないとなると、かなり暗い未来が待っていそうです。

もう1つは、情報収集に務めること。ここで重要になるのは、どういう情報を信頼するかの基準です。

あるクラウド関連企業(クラウド上でAIやビッグデータも扱っています)の社長はこう教えてくれました。

「ネガティブな未来予想をする人は信じないことに尽きます」

これがいいかどうかは分かりませんが、何か軸を持たずに生きていくことは、今後は難しいのかもしれません。少なくとも周囲の人の考えに合わせる付和雷同型の人は、周囲の人と一緒に不幸になっていくような気がしています。


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◆立ち読みはこちらで → http://s-morikawa.jp/etc/galley.pdf
 97ページ分(全体の44%)読めますので、お暇ならどうぞ。
 ただ電車で読むのはお勧めできません。


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