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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

値上げはなかなか難しい

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今回は、ライターが単価を上げるということに関する僕の考えを書きます。

2015020901.png▲クリックすると拡大図。この表の全体はこちら

◆単価を上げるメリット

ライターが単価を上げるメリットは、その分(生活のための)執筆量を減らせるということです。そうなると、余暇の時間ができたり、人と会ったり勉強したりする時間が増えます。最終的には、仕事の質の向上につながります。

たとえば、1ページ1万円の雑誌の仕事で、正社員の平均年収442万円(「フリーライターは食えるのか?」参照)を稼ごうと思えば、年間に442ページ書かなければいけません。1本4ページ平均として、110本です。

雑誌の記事は結構大変です。サイズが大きいからです。B5判の雑誌だと1ページあたり書籍4ページ分ぐらいのボリュームになります。図や写真が必要な場合もあります。

ですので、4ページぐらいの記事だと、取材や調査を入れると、1日8時間労働だとして、なんだかんだで3~4日ぐらいは掛かります(もちろんもっと速い人はいますが、平均するとこのぐらいでしょう)。

3日掛かる人だと年間330日働きづめです。4日掛かる人なら、徹夜などもこなさないと正社員の平均年収に届きません。

これが2万円になるとどうでしょうか? もちろん半分で済みます。年間115日の労働で、正社員の平均年収に届くのなら、稼ぎのいい仕事と言っていいでしょう。

働きづめに問題があるとすれば、まずは余暇がないこと。人生にうるおいがなくなります。

「いや、自分は余暇なんかいらない、仕事が好きなんだ」という人にとっても、勉強する時間や人と会う時間がないというのは、ライターとしては良いこととは思えません。

稼ぎうんぬんだけでなく、余暇や勉強する時間や人と会う時間を取るためにも、単価は上げたい。また、このような時間が取れないと、仕事の質も向上しないので、それこそ単価が上げる材料がない――これは、まさにジレンマです。

◆しかし、単価は上げにくい

しかしながら、雑誌やWeb媒体などで単価を上げるのは、かなり難しいことです。

これは一般企業でも難しい。以前、中小企業の経営コンサルティングをやっていたときに「どうやったら単価を上げられるか」という相談を受けました。このときに聞いた話がかなりひどい話で、今でも頭の隅から離れません。

リーマンショックのときに、お客から「このままではうちの存続自体も危うい。申し訳ないが、一時的に単価を下げてもらえないだろうか」と言われて、「一時的なことでしたら」と引き受けたのだそうです。

ところが、その後5年経ってもずっと据え置き。たまりかねて、「一時的という約束だったはずです。そろそろ以前の単価に戻してもらえませんか?」と頼みに行ったら、先方の窓口の管理職は「単価を上げて、うちにメリットがあるのですか?」と言い放ったのだとか。ひどい......。

単価を元に戻してもらうのでも難しい(このケースはかなり理不尽ですが、理不尽じゃないケースでも言い方が違うだけのことです)。ましてや、上げてもらうのはよほどのことがないと無理です。

この会社の例では、いわゆる「無償作業」が多いため利益がほとんど出なくなっていました。なので、無償作業をやめるか、有償化してもらうよう交渉するようにアドバイスしました。単価を上げるよりは、まだこのほうが交渉しやすい。

単価というのは、それほど上げてもらえないものなのです。無理強いすれば切られることもあります。

ましてや、出版業界が慢性的な不況なのは、誰でも知っています。彼らは出したくても、予算がない。無理強いなど(やさしい僕には)とてもできません。

◆初期段階で交渉しておく

とにかく一度決まった単価は、寄稿をまとめた本がベストセラーになるような僥倖でもない限り、上げるのは難しいでしょう。

そこで、担当編集者と仕事を始めたばかりの段階で、ある程度の単価にしておく必要があります。

そのためには、先方から「いくらでやってくれますか?」と言われたときに、少し高いかなあと思う価格を提示することです。遠慮をする必要はありません。先方が高過ぎると思えば、価格交渉になるだけの話です。

良い仕事をしても単価はめったなことでは上がりません。最初が肝心です。

と言いながらも、僕は署名付きの仕事であれば、基本的に言い値で請けています。特に、こちらがお金の話をする前に、「うちはこれだけですが、いいですか」と言ってくる編集者とは交渉の余地はありません(なお、同じ出版社でも、予算は編集部、下手をすると編集者ごとに違うので、初めての編集部や役職の高い相手となら交渉の余地はあります)。

それでも請けるのには理由がありますが、また改めて書きます。

◆プロジェクト的な仕事を請ける

単価を上げる話を書いてきましたが、ページ単価の仕事というのは限界があります。それだけで食べている人は、今どき小説家でもマンガ家でもほとんどいないと思われます。単行本になってなんぼでしょうし、ドラマ化・映画化やキャラクターグッズの販売等で、ようやく(金銭的な意味での)「成功者」の仲間入りという話ではないでしょうか。

ましてや、ライターを「言語化という技術の専門職」と捉えると、ページ単価の仕事で食べていくというのは、かなり難しい(ほとんど無理)と思うわけです。

では、どうすればいいのか?

1つのやり方としてはプロジェクト的な仕事を請けることです。

たとえば、一昨年ぐらいから、企業の取り組みを書籍化するという仕事が増えてきています。これは、取材先の企業のPRのために出す本で、スポンサーはその企業となります。その意味では、自費出版に極めて近いのですが、一方で「本を売ること」も目指しています。そこで、執筆者も出版社側でプロを用意しているわけです。

しかし、ある程度のビジネス経験が必要なので、元々ライターが不足しています。足りないので常時どこかで募集しています。それに応募するという手があります。

このような仕事は、期限と予算が決まっていて、成果物のイメージも初期段階である程度固めており、またチームで動くので、プロジェクト的な仕事と言えます。

年間442ページという目標感よりは、この手の仕事を年6~8本(もっと書けるなら月1本ぐらい)請けるほうが収入はかなり安定します。

ただし、結構大変な仕事ではあります。書くのがある程度速くないとつらいですし、取材技術なども必要です(とはいえ、これはライターの資質そのものですが)。

実際、文字単価で計算してしまうと、雑誌より下がってしまうこともあります。ただし、年442ページ=110本というやり方に比べると、営業や打合せに割く時間はもちろん減りますし、取材のトータル時間も減ります。

また本1冊書くわけですから、取材や調査自体が、単発の記事とは比べ物にならないぐらい勉強にもなります。同じ業界なら、すぐに応用が利きます。

◆使命感に基づくモチベーションが必要

ただし、このような仕事は使命感がないと務まりません。ジャーナリスト的な使命感とは少し違うのですが、伝えたいという強い気持ちがないと投げ出したくなることもあります。実際、途中で逃げるライターも多いと聞いています。

そういう意味では、ただ宣伝のために本を出したいという人の本ばかり書くのはお薦めできません。そうではなく、取材相手の持つ熱に共感して、ぜひ伝えたいと思えるような仕事を請けるべきですし、もっと言えば、取材でそこまで熱を引き出すことも必要です。

僕の場合は、このような仕事だけでなく、もっと文字単価の高い仕事を組み合わせています。プロジェクト的な仕事は、まとまった報酬が入る分、1件の期間が長いので、キャッシュ化までに時間が掛かります。なので、年収のベースはプロジェクト的な仕事にしながら、もっと単価のいい単発の仕事も入れていくようにしています。

ただ単に複数の仕事をするだけでは、何をしている者かが伝わらず、結果として営業が困難となります。そこで「ビジネスライター」という軸を打ち出し、その軸がぶれないように仕事をいただくようにしているのです。

とはいえ、「ビジネスライター」というキーワードだけでは、ピンと来ない人も多いというのは自覚していて、この場を借りて、ビジネスライターとは何かをお伝えしているのもその自覚からです。

ただ、「ビジネスライター」そのものについては、改めて書くつもりですが、そもそもはどうやって単価を上げて生活を安定させるかということを考えた結果、今の業態になったということはここに書いておきたいと思います。

▼ビジネスライター森川滋之オフィシャルサイト

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