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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

【書評】本当のブランド理念について語ろう

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ブランドといい理念といい、自分の会社やビジネスとはあまり関係ないと思う人も多いかもしれない。

僕も、自己ブランディングなどと言われても、これまであまりピンとこなかった。

また、キレイゴトの理念を作っても見透かされるだけだから、せいぜい仲間のために頑張るというスタンス(これは変わっていない)ぐらいで十分だろうと考えていた。

しかし、ジム・ステンゲルの『本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50 』(以下、前掲書)を読んで、以下のように考えが変わった。

  • ブランドも理念も僕のような個人事業主でも持ち得るものであり、また持つことを目指すべきものである
  • 理念は、決してキレイゴトではなく、人間の基本的な価値観に基づくものである
  • 理念は、ビジネスの羅針盤であり、持たないとどこへ行ってしまうか分からなくなる

以上3点を中心に、前掲書を評してみたい。 

 

■ 人間にとって大切な5つの基本的価値

著者ジム・ステンゲルは、P&Gの元グローバル・マーケティング責任者。パンパースなどのブランドを立て直し、P&Gの各ブランドが世界中同じ理念で販売されるようなしくみを作った。現在は、ブランド確立のコンサルティングを行いながら、UCLAアンダーソン経営大学院の非常勤教授としてマネジメントを教えている。

まあ、輝かしい経歴の持ち主で、書いてあることも自信に満ちている。経験も事例も豊富で、言うことに説得力がある。

彼は言う。企業の成長のためには、顧客に共感されるブランド理念が存在することが重要であり、実際にブランド理念がブレない企業が飛躍的な成長を遂げている、と。 

よく聞く話なのだけど、日本で議論されるときには、感動だとか夢だとか社会貢献だとか、言葉自体は美しいのだけど、語っているのは何だか胡散臭い人、というようなことが多いという気がしている。

たしかに、感動も夢も社会貢献も重要であり、これらを真剣に追求している人には共感する一方、本当にこれだけだろうかと疑問に思うのである。その辺が何だか、胡散臭さにつながっているのではなかろうか?

この点、ステンゲルのいうことには胡散臭さを感じない。

彼は、成長している会社のブランド理念は、人間にとって大切な5つの基本的価値と結びついているという(下図)。

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このすべてと結びつく必要があると言っているわけではなく、1つあるいは2つぐらいと結びつくのがいいだろうとのこと。

夢・感動・社会貢献などだと、うちの会社なんかどうすればいいんだと思うようであったとしても、上の5つのどれかだと言われれば、何らかの結びつけが可能なはずだ。

 

■ 何かするときにはブランド理念と相談する

メソッドという会社の事例が、詳しく紹介されている。自然材料だけで作ったエコな洗剤を売る会社だ。一方では容器のデザインの美しさでも知られている。

メソッドのブランド理念は、「幸せと健康を生み出す家庭革命の触媒になる」だ(ただし、著者とリサーチチームが言語化したもの)。

高邁な理念だが、会社を作ったきっかけは高邁な理想に燃えたからではない。 

大学を出たばかりの男5人が共同生活を送っていた家を掃除しようとおもったのが、そのきっかけだった。 

かなり不潔だったらしい。強力な洗剤が必要だった。ところが、よく落ちる洗剤には有毒な成分が含まれていて、ゴム手袋が必要だったし、近くに子どもやペットがいると窓を開け放つことができない。大掃除は不快極まる作業となった。

一方で、自然にやさしい洗剤は、汚れが落ちない。

だったら、自然にやさして、汚れがよく落ちる洗剤を自分たちで作ろうということで始めたのが、メソッドだったのだ。

しかし、それだけでは面白くない。彼らはパッケージのデザインにも徹底的にこだわり、また仕事自体に遊び感覚を取り入れる(前掲書では「キテレツ」と表現されている)ことにもこだわった。

要するに、美しいものでなければ人を幸せにできないし、社員が楽しくなければ顧客も楽しくないと、彼らは信じているということなのである。

彼らは、製品開発も、リクルートも、人材育成も、広告宣伝も、社員の評価も、すべて「幸せと健康を生み出す家庭革命の触媒になる」というブランド理念に相談して実行する。

理念に合わない製品は開発しないし、理念を共有できる社員しか雇わないし、理念をより高い次元で実現するための教育に力を入れるし、理念にそわない広告宣伝はしないし、そして理念の実現に貢献した社員を高く評価するのだ(ただし、成果が出なくてもいいという意味ではなく、理念にそっていれば必ず高い成果が出るという確信に基づいている)。

理念を挙げている会社は多い。どこでもいいから有名企業のHPへ行けば、立派な企業理念が掲げられているはずだ。

一方で同じ会社の社員が、2ちゃんねるなどに、自社の悪口を書くためのスレッドを立ちあげていたりもする。

そういうスレッドを見ていて分かることは、企業理念と違うことを経営陣がしていると社員が思っているということだ。特に評価の面で不満に思っている人が多いようだ。

こういうスレッドを見て、自己責任感がない連中だと眉をひそめる人も多いようだが、僕は理念と経営の食い違いのほうをより強く感じてしまう。

 

■ 個人にも応用できる

ブランド理念にそった経営など、大企業にしかできないことだと思うかもしれない。

しかし、メソッドは急成長しているが、今でも社員はあまり多くないし、わずかな従業員しかいなかったときから、ブランド理念に沿って事業をしていた。なので、中小企業でも応用可能なはずだ。

また、個人レベルでも応用できるだろう。自分の仕事を前述の「人間にとって大切な5つの基本的価値」に結びつけることは、それほど難しいことではないはずだ。

特に1番目の「喜びを感じさせる」ということであれば、ほとんどの仕事がそれに接続できるのではないだろうか。

これは、僕のような個人事業主だけでなく、会社員でもできることだ。

もしかしたら、あなたの会社の理念は絵にかいた餅になっているかもしれない。しかし、社員であるあなたの仕事が人間にとって大切な5つの基本的価値と結びつくことを邪魔する者はいない。

あるいは、メソッドのように、仕事のやりがいを与えてくれるような会社に転職したいと思うかもしれない。

しかし、メソッドのような会社は、会社にやりがいを求めるような人間は入れてくれない。他の社員あるいは会社全体にやりがいをもたらすためにあなたはどんなことができるのか?――こういう問いに明確に答えられる人にしか門戸を開いていないのだ。

だったら転職を考える前に、この問いに答えられる人間になる必要がある。そのためには、自分の仕事を「人間にとって大切な5つの基本的価値」に結びつけることから始めなければならない。

あなたがそうしたいと考えるのであれば、 本当のブランド理念について語ろう』は、この上ないガイドブックになるであろう。

 

記事に共感した方は、ぜひ下記のサイトにもお立ち寄りください。

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