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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

どん底にあるときの分かれ目

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「具体的にいうと差支えがあるんでね、たとえ話で濁したいんだけど・・・」とA氏は切りだした。

A氏はセミナー講師である。教えている内容には触れない。ビジネスに関することだとだけ言っておく。

「まあ、東大に5回も6回も落ちている人がいると思って。その人がこういうの。『先生の言うとおりに勉強しているのに今年も東大に落ちてしまいました。先生は誰でも自分の言うように勉強すれば東大に入れると言っていますが、それは先生が天才だったからじゃないでしょうか? だから天才の先生にお願いです。来年の東大の入試問題を予想して教えてください。それを一生懸命勉強します』」

「何か論理が破綻してますね」

「まあね。でも本人は必死なんだ。で、たぶんこの人は、僕の言うとおりにはやっていないんだよね」

「わかります。Aさんの教えていることは、東大の入試問題を予想するよりも、もっと予想が難しい話ですもんね」

「そう。ビジネスは入試のようには行かない。でも、答えがあると思っている人が多いんだよね」

「最初はヒトマネをして、それを徐々に自分のスタイルにしようというのがAさんの言ってることですもんね」

「うん。愚直にやるしかないんだよ。でも、答えがあると思いこんでいる人は、なぜかここだけ耳に入ってこないみたいなんだよね」

「愚直」という言葉は、本来はあまりいい意味ではない。臨機応変さがなく、馬鹿正直にやるという意味だ。しかし、「こだわり」が何となくポジティブにとらえられているように、愚直も最近ではポジティブにとらえる人が多くなったように思う。本稿では、ポジティブな意味で「愚直」を使う。「素直に一生懸命やる」ぐらいの意味だ。

 

には、この相談者を批判できない。ビジネスには答えがあると思い込んでいた時期が僕にもあり、当然のようにその時期はどん底だった。

僕にも愚直にやっていた時期があった。会社に入ったばかりの頃だった。文学部出身なのにSIerに入社してしまった僕は、それなりに苦労した。そのときは、本当に素直に一生懸命勉強し、仕事もしたものだった。これはこれで当然のように実力が伸びる。

ある程度分かってくると要領に流れてしまう。そこが僕の一番の欠点のように思う。まあ、わかっちゃいるけどやめらない、のだが。

Software Designの2013年2月号に僕の書いた「忙しいITエンジニアのための超効率的勉強法」(仮題?)が載る予定だ。愚直に勉強していたときのことを思い出しながら書いた。

タイトルを見れば、勉強法のライフハックが載っているように思うだろう。そういう読者に対しては期待を裏切ることになるかもしれない(最初の数行を読めば、そうではないということをわかるようにはしたが)。結局、愚直に勉強するのが一番効率的だということがもっとも言いたいことだからだ。

ただ、愚直にも、希望のある愚直とそうでない愚直があると思う。希望のある愚直を僕は伝えたかった。

 

A氏の話にも出てきたが、うまくいっている人は、みな同じことをやっている。

最初はヒトマネから入り、それを愚直に試す。試しているうちにコツが見えてくる。そのうち自分なりの法則が見えてくる。その法則を自分がもっともやりやすい形で実践する。それが、その人のスタイルとなる。スタイルができれば、うまくいきはじめる。

このパターンで行動できるかどうかだけなのだ、重要なのは。

なお、このパターン以外で成功している人がいれば、その人のことを「天才」と呼ぶ。天才以外は、これしか勝つ方法はない。

ここで重要なのは、スタイルができていることではないのです。このパターンで行動できること。

というのは、スタイルが確立できたら短い絶頂期がやってくるのだが、すぐに衰退期に移行するからだ。長い人でも3年で、同じスタイルではダメになる(会社の中期計画が3年ぐらいというのは、そういう意味では合理的だ)。

そこでまた、ヒトマネ→試行錯誤→法則発見→スタイル確立、というパターンを繰り返さなければいけなくなる。

このパターンで行動することを「愚直」というのだと思う。

 

日取材した事業家主婦Bさんも、愚直を強調していた。

Bさんは、アフィリエイトから入り、その後情報商材を売り、今はコミュニティビジネスに軸足を移している。

聞いただけで胡散臭そうだ。実際、このパターンで胡散臭いことをやっている人は多い。ただ、個別にきちっと話を聞くと、軌道に乗っている人はやはりビジネスの王道を踏んでいるものだとわかる。

Bさんは、産後鬱で一時期廃人に近い状態だった。子どもにおっぱいはやるのだが、おむつは換えない。Bさん自身食事も取れず、水さえロクに飲めない。電気もつけない。ご主人は出版社に勤めていて、3日に1日しか帰宅できないほど多忙。しかし、この惨状を見て、ご主人は会社を辞め、家事と育児を手伝うようになった。それでもすぐには鬱は治らなかったという。

鬱が好転したのは、ご主人の勧めでHPを作るようになってからだった。そこでアフィリエイトというものを知る。最初はバナーを張る程度でまったくお金にならなかった。

そんなあるとき英語関連のメルマガを購読したら、それがたまたまアフィリで1億円稼いだ人のメルマガだった。35万円で半年かけてそのノウハウを教えてくれるという。Bさんは、最初は詐欺だろうと思った。でも何か惹かれるものがあった。騙されてもいい、やってみようと思った。それが転機になった。

 

容は実にオーソドックスなものだった。 アフィリで稼ごうと思ったら、いきなりアフィリをやり始めてはいけない。まずは人が集まるサイトを作れ。人を集めるには、人の役に立ち、なおかつ自分にしか書けないことを書け。ターゲットは多くなくていいが、それに当てはまる人がまず来てくれるようなサイトにせよ。

言うは易く、行うは難しの典型例だ。だが、Bさんは愚直にやった。先生がまず100個アイデアを出せといえば、その通りにやった。自分のサイトをYahoo!カテゴリに登録せよと言われたら、登録されるまでやった。1個じゃダメだ、10個登録せよと言われたらその通りにやった。

スキルは必要ないと言う。Bさんも最初は全然ネットのことが分からなかった。しかし、言われるとおりにやっているうちにスキルは身についてしまったと言う(これは僕にも実感としてわかる。僕も最初はITスキルがなかった。先輩の無茶な要求に応えているうちにスキルが身に付いた)。

そこまでやったら、熱心なファンがついた。手応えを感じた。その旨を報告したら、先生が「じゃあアフィリを始めよう」と言ってくれた。

アフィリを始めて半年で、月100万円稼げるようになっていた。

 

た転機が訪れた。

ある日テレビを見ていたら、虐待死のニュースが目にとまった。容疑者が1年前までお隣さんだった主婦だったからだ。

こちらから挨拶しても、目を伏せて、家の中に逃げ帰ってしまう暗い人だった。経験のあったBさんは、すぐに産後鬱だとわかった。

彼女と自分は紙一重だと思った。自分はネットをはじめて、アフィリを知って、今は家族3人で楽しく暮らしている。彼女も知っていれば子どもを殺さずに済んだかもしれない。逆に自分だって知らなかったら、子どもを殺していたかもしれない。

マスコミは子どもを虐待死させる親を鬼畜のようにいうが、ほとんどは"普通の人"がやっていることだ。

少子化なので、一人の子どもに対する親族の期待は大きくなる。ちゃんと育てろというプレッシャーがかかる。それなのに核家族化で教えてくれる人もいない。会社は人を雇わないので夫の仕事はきつく、手伝ってくれないし、相談にも乗ってくれない。プレッシャーはすべて主婦の肩にかかってくる。現在の日本の矛盾をすべて背負ったような気持ちになったとしてもしかたがない。

 

育ての間は働きに出たくても出られない。パートでさえ無理だ。保育園や幼稚園に行くようになれば、パートに出られるようになるが、自給800円ぐらい。月100時間働いても8万円だ。

Bさんは幼稚園のママ友たちに自分がアフィリで月100万円稼いでいることは内緒にしていた。どんな妬みを受けるかわからないからだ。

しかし、虐待死事件以来考えを改めた。まずはママ友たちに無料でアフィリを教えることにした。月100万円は難しいかもしれない。しかし、月5万円から10万円ならほとんどの人が可能だ。しかも家にいて空いている時間に趣味を活かせばそれだけ稼げるのだ。

妬まれるどころか、みんなに感謝された。

それで、主婦にアフィリを教えるビジネスをやろうと思った。それも学校ではなく、コミュニティとして。

 

Bさんの話が長くなった。

Bさんによれば、アフィリで稼げないというのは嘘なのだが、長い目で見ると安定しないのは事実だという(それでも月数10万円程度ならばコンスタントに稼げるらしい)。そこで、情報商材に軸足を移した。そこでも当然愚直にやった。その結果リストが取れるようになった。そのおかげでより安定したコミュニティビジネスに移れたという面もあった。

そして、コミュニティビジネスを始めても、愚直にパターンに従って行動するのである。

「変にスキルがあったり、頭が良かったりしないのが強みかもしれない」とBさんは言う。

決して頭がよくないということはないのだが、これはたぶん頭でっかちでないということだろう。僕などには耳が痛い。

「愚直」を強調するのはBさんだけではない。僕の周りでうまくいっている人のほとんどがそうだ。

そして、面白いことに、だいたいの人がどん底になってから、それに気付くということだ。

冒頭の相談者も、実はいまどん底にいる。

彼がまだ正解を求めるのか、それとも愚直にパターンに従って行動するのか。これが分かれ目だろうと思う。 

 

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