「こうすれば間違いなく儲かる方法」に感動した
僕は事例取材の仕事もしている。
守秘義務があり、取材を通して知り得た秘密などは書いてはいけない(あたりまえだけど)。
明確にオフレコと言ってくれる場合はもちろん、言われない場合でも慎重に取り扱う必要がある。
なので、多少感激してもあまり取材の話には触れないように心がけているのだが、先日の取材ではあまりに感動(この言葉もめったに使わないようにしている)したので、差し支えない形で共有したいと思う。
なので当然匿名だし、具体的な数字等企業が特定される情報は出さない。それでも伝わるものはあると思う。
事例取材の発注元を○社、取材先(つまり○社の顧客)を△社とする。
○社は、超優良企業で、驚異的な経常利益率と社員の高給で知られている。
こういう会社はいくつかある。
ここは一般論として聞いてほしいのだが、我々がこういう会社に抱くイメージは、「優秀な社員を高給で集めて、厳しい業績管理で働かせている」というものであろう。また利益率の高さは、「徹底したコストカットと効率経営の賜物に違いない」と感じるものだ。つまり、人情味のない冷酷な会社で、それに耐えうる精神力と高い能力がある社員だけが生き残れる。
まあ、一言でいえば、生き残りをかけた殺伐とした職場環境と高給を求めて人生を切り売りする社員という図式だ。
となると社員も能力は高いけれど、人情味がなく、我々のような業者側の人間にはとても厳しい、と思いがちだ。
僕も、そこまで図式的ではないが多少そんな想像をしていたので、取材のときにはじめてお会いした○社の方が現れるまでは少し緊張していた。
ところが、実際には人当たりがよく、言葉づかいや立ち居振る舞いも丁寧な人だった。
このあたりで、すでに何か勘違いがあるぞと気づき始めていた。
△社は○社の×××という商品のユーザーだった。取材前には当然調査をする。×××に関してはデモ動画があったので、それも見ていた。
一見してすごい商品だというのが分かった。
×××はソフトウェア製品である。
管理職や事務職の人であれば、毎日いろいろな事務処理をしている。会社から提供されているITシステムを使う場合もあるだろうが、多くのことはExcelなどのオフィス製品で済ませているはずだ。
オフィス製品で済ませているような処理は、人手でやるため入力ミスが多い。しかし、定例報告会で使うような資料の多くは、そのようなデータを元にExcelで作ったグラフなどだったりする。社内への報告でもミスは怒られるが、社外が絡むとなると責任問題にまで発展する。
こういう事情があるので、管理職や事務職の仕事の多くの時間が、データのチェックに割かれている。そう言われるとうなづく人も多いのではないだろうか。
なので、このような事務処理は、できれば(入力チェックなどのある)ITシステム化してほしいと思うのだが、業者にオーダーメイドでの見積もりを頼むと、最低でも数百万円からということになる。それでも要望がきちっと伝わって、満足できるシステムが出来上がることはマレだったりする。
そもそも稟議が通らない。なので、みな本来業務に時間が割けないという不満や危機感を抱えながら、泣く泣くデータのチェックのような本来業務でない仕事に時間を割いているというのが実態なのだ。
×××はこのような問題を解決してくれる商品なのである(これは一例で、オフィス製品のファイルからだと必要な情報を探し出すのが大変という問題なども解決してくれる)。
だから、△社から喜びの声が聞けるのは、取材前から予想はついていた。
ところが、△社の担当者の喜びようが尋常でないのである。
僕は数十社の事例取材をしたが、ここまで喜んでいるインタビュイーをはじめて見た。というより、世の中にこんな喜びがあるとは想像もしていなかったというのが本当のところだ。
見ているこちらまでうれしくなり、ノリノリの取材になってしまった(こういうときこそ、あくまで客観的な記事を書くよう心掛けないといけない)。
さらに驚いたのは、△社の担当が、○社も大好きなのだが、それ以上に○社の担当営業(取材に同行してくれた方とは別の人だ)が大好きで、最近忙しくて来てくれないのが不満だということだった。
事例記事に書くような内容ではないのだが、興味があったので、どういう人なのか聞いてみた。すると、極めてコミュニケーション能力の高い人だと分かった。
お客に対して追従はしない。月1回大量の資料を送ってくる(普通はお客にうっとうしがられる)。接待なども一切しない(これは○社の内規だ)。それでもお客は会って話をしたくなる。モノの言い方がズバズバしていて気持ちいいのと、お客が知りたいことを的確なイメージで伝えることができるからのようだ。
お客は、営業に対して、一言でいえば何なんだということを常に求めているということだ。
担当営業だけでなく、○社の顧客サポートは本当に素晴らしいようだ。コールセンターに任せず社員が対応している。当然レスポンスが速い。速いだけでなく、必ず解決案を書いてくる。また、上司だったらマニュアルを読めといいたくなるようなことでも、懇切丁寧に答えてくれる。
しかも、チームで対応する。当然担当営業が窓口なのだが、多忙でオフィスにいないことが多い。なので別の人が受けるのだが、誰が受けようが△社の状況が分かるようになっているのだという。担当でない人にいちいち説明しなくて済むのだ。
このようなことを、△社の担当者氏は熱く熱く語ってくれるのだった。
感心したのは、○社の同行者のことである。まあ、お客が喜んでくれて喜ばない人はいないのだが、まるで自分のことのように喜んでいる。
なるほどな、これは儲かると僕は思った。
×××という商品は、現場で何に困っているかということに対する想像力が働かないと出てこない製品である。
○社は現場主義なのである。現場に実際に足を運んで、徹底的にニーズを吸い上げる。それをユーザーの使いやすさを追求して提供する。さらに組織的サポートもある。商品開発もサポートも高速レスポンスを心掛ける。
このような会社の作った商品が売れないわけはない。ITにはかなりすれている僕だって、欲しいと思った。
経営資源が「顧客の歓び」ということに完全に集中している。社員も「顧客の歓び」を自分の歓びと感じている。そのために全力を尽くす。
結局、この不況の中でも卓越した業績を上げようと思ったら、ここまで顧客側に立って考える必要があるのだろうと思った。
「ここまでやるか!」ということをPRの手段にする「感動経営」というものの在り方に、僕は何度か疑問を呈してきた。
しかし、○社のやっていることはまさに「ここまでやるか!」だと思った。ただ、実際に社員やその顧客に会わないと、そのことは分からない。「感動」をウリにしているのではなく、それを当たり前のこととしてやる。そこが、市場から高く評価されているのだろう。
僕は、このことに感動した。
○社の方は別れ際に「今まで何人かの方に取材をお願いしたが、ここまで速く商品の本質をつかんでくれた人は初めてで、原稿が楽しみです」と言ってくれた。
ちゃんとやれよというプレッシャーとも単なる社交辞令とも取れる言い方かもしれないが、僕は素直にうれしかった。今日初めてあったライターにここまで言ってくれる人は珍しい。気配りを感じた。
同時に若いのに苦労人だなあとも思った。ただ、それは良い苦労なんだろう。
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