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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

必要な訓練を怠るな、と言いたいが少数派なのだろうか?

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「させていただきます」などという言葉を初めて聞いたのは、1987年4月1日のことだった。

その日は僕らの入社式だった。終わってから社員寮に入った。入寮のためのオリエンテーションがあり、寮長の最初の挨拶が「それでは、始めさせていただきます」だった。

僕は、かなりの違和感を感じた。まあ、確かに学生は敬語をあまり使わないが、こんな言葉はテレビや映画や小説などで見たことも聞いたこともなかったからだ。

もしかして、新入社員の態度が気に入らないので、馬鹿丁寧な言葉を使ったのではないかと緊張した(やくざなんかがやりますよね、脅かすのにわざと丁寧な言葉を使うって。ちなみに寮長はこわもてだった)。事実、寮長が着席してもまだおしゃべりしていたバカもいたし。

どうやらそうではないと分かり、会社というところでは馬鹿丁寧な敬語を使わないといけないのだろうと無理に納得した。

会社に通うようになって、そんな変な敬語を使う人は少数派だったと知り、かなり安堵した。

それが今では、どうやら多数派である。

どうして「始めます」じゃあ、ダメなんだろう?

 

がこの手の敬語に違和感を感じるのは、いや、はっきり言って嫌いなのは、何でもこれさえつけとけば敬語になるというお手軽感があるからだ。

実際、若くてモノを知らない感じの人がこれを多用する。まさに初心者向け敬語の感がある。最近は年配の歌舞伎役者なんかも使うので、それがまた若い人に影響を与える。

もちろん本人は謙遜のつもりで使っているのだろう。でも、お手軽感のせいで、あまり謙遜しているようには見えない。返ってバカにされているように感じることもある(特に若い人が使うと)。

このようなインスタント敬語ばかり使っていると、次のような失敗をする。今朝実際に新人女性キャスターがやらかした失敗だ。

「○○が苦手な方も、おいしく頂けます」

「○○が苦手な方」は「方」という尊敬語を使っていることからも明らかに視聴者であり、敬語を使うのであれば尊敬語を使うのが適当であろう。

なのに「頂く」という「食べる」の謙譲語を使っている。正しくは、「召し上がれます」、「召し上がることができます」などだろう。

よくある「貴社の部長が申されていました」というような間違いだ。

僕は何でこんな間違いをするのかがよくわかる。このキャスターも「××させていただきます」が鼻についていた。ほとんどすべての自分の行為にこの簡易敬語を付加していた。なので、肝心なところで「いただく」が出てきちゃったんだろう。

これだって、「○○が苦手な方にもおいしいようですよ」で十分だと思うのだが。

ローラが人気の理由もなんとなく分かる。クソみたいな敬語を使わないからだろう。

 

葉の間違いについて、僕はあまり厳しく言わないほうだ。

文法は変化する。

ら抜き言葉は、そのうち正しい文法になるだろう。「美しいです」がちょっと前まではダメだったが、今はOKなように。

い抜き言葉などかなり公式な場でも許されている感じだ。メダルを取ったアスリートが天皇陛下の前でい抜き言葉を使っていても誰も咎めない(テレビのテロップは「い」を補うが)。

誤用も変化の一つだ。

「絆」は、ちょっと前まで「しがらみ」の意味だった。悪い意味だ。でも、今はいい意味でしか使われていない。「しがらみ」の意味で「絆」を使ったら笑われる可能性大だ。

「敷居が高い」はご無沙汰しすぎて訪問しづらいという意味だったが、今では困難の意味、つまり「ハードルが高い」と同じだ。

「役不足」を自分のことに、しかも謙遜の意味で使う人がもうほとんどになった。昔なら偉そうにと殴られただろうが、今では訂正のモグラたたきになるだけだ。

「明るみになる」なんかだと、どこが間違っているのかわからない人がほとんどだろう。

 

だって、よく間違いを指摘される。だから、なるべくややこしい表現は使わないようにしようと思っているのだが、たまに使うとやっぱり間違える。

なので、文法の間違いや誤用については、うるさく言わないし、僕もあまり言われたくない。どうせ変化していくものなのだから。

昔は、結構うるさかったのだが、それは上司などから怒られることがあったからだろう。自分が怒られると人にも怒りたくなるのが人情だ。

今もコメントなんかで指摘してくださる方はいるが、怒られてはいない(馬鹿にしている人はいるようだが)。こういうのって怒られなくなったら、どうでもよくなってくる。厳しい人は何か怨念があるのだろう、きっと。

だったら、敬語も同じだと言われるかもしれない。しかし、これは断固として違う。

 

語は、人間関係を円滑にするという機能を持った言葉だ。一つ間違えると人間関係を壊すことになる。

言葉づかいが正しければいいというわけではない。慇懃無礼という言葉もあるように、馬鹿丁寧な言葉を使っても態度がなっていなければ、よけい失礼になる。

つまり、敬語は取扱注意の言葉であり、この手のものを扱うには訓練が必要なのだ。

だから、新人研修でも敬語だけは改めて教えるのである。

大卒の連中が、丁寧語・尊敬語・謙譲語(最近はなんか増えたけど、そんなのいいや)の区別がわからないわけがない。

しかし、普段から「××させていただきます」のような簡易敬語しか使っていないと、肝心なところで「召し上がる」と「いただく」が混乱することになる。知っていても、慣れていないのだ。

あらためて頭に叩き込み、練習させる必要がある。

 

般の会社員でもこれぐらいはさせられている。

ましてや、テレビで人前で話すキャスターが、ろくに訓練もせずに本番に臨んでいいものだろうか?

また、終わってから誰も注意しないのだろうか?

注意していないのだろう。キャスターの話し方は新人のときにほぼ完成されていて、その後うまくなる人は少ないように思うからだ。

僕らが子供のころは、テレビのアナウンサーの使う言葉やアクセントは正しかった(少なくとも今よりは)。テレビに習っていれば、間違いないという雰囲気があった。

今は、間違った日本語を広める媒体にまで堕した。

とはいえ、やはりテレビは、日本語の変化に対してある程度頑固であってほしい。

でも、敬語の訓練さえしていない新人キャスターを送り込んでくるのだから、もはやスタンダードな日本語を守る気持ちはないのだろうなあ。

じゃあ、誰がやるんだ・・・・・・。

 

っそ敬語検定とかやったらどうだろう。民間でそんなのがあるようだが、この際国家試験として。

4級は丁寧語を使ってよい。許可制なのがミソ。下手な敬語を聞くより、敬語が使えない人はローラ化してもらったほうがマシ。こちらもすぐに資格がない者が分かって楽だ。その代わり資格なしに下手に敬語を使うものは厳罰だ。

なお、4級が就職の最低条件で、4級以上を持っていない正社員がいる会社には罰則がある。まあ、丁寧語も使ってはいけないのだったら、バイトの口もなさそうだけど。少なくとも接客は無理。

3級になれば、それに加えて謙譲語。

2級になれば、さらに尊敬語。

1級は達人レベルで、これは企業に一人はいなければいけないので、就職に有利になる。

みたいな。

 

後に実用的なアドバイスをしておくと、上の冗談で書いた検定のレベルをみれば分かるように、丁寧語というのは使いやすいわけで、敬語に自信がなければ丁寧語で通せばいい。基本的には、です・ます・ございますぐらいだから簡単だろう。

簡易敬語の最たるものだが、使う際に敬意を態度として示せばいい。僕が嫌悪感を持ち、反対するのは、言葉を大仰にする(例「させていただきます」)ことで敬意を示すことなのだ。

世の中には年配の人とタメ口を聞きながら、好かれている人がいるだろう。こういう人は敬意の示し方がうまいのだ(ローラはやや違う気がするが)。大事なのは敬意であって言葉ではない。ただ、こういうのも高度なスキルであり、下手に真似をするとやけどするので要注意だ。

 

 

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