船中八策と維新八策を比べてみよう
大阪維新の会の「維新八策」は、坂本龍馬の「船中八策」にヒントを得ているのは間違いないでしょう。
そこで、この二つを比較してみようと思いました。
船中八策は、慶応3年(1867年)6月、京都に上洛していた前土佐藩主の山内容堂に対して大政奉還論を進言するため、参政の後藤象二郎に対して口頭で提示したものと言われています。文章が残っているのは、海援隊士の長岡謙吉が書きとめたからとされています。
内容は以下の通り。
一、天下ノ政権ヲ朝廷ニ奉還セシメ、政令宜シク朝廷ヨリ出ヅベキ事。
一、上下議政局ヲ設ケ、議員ヲ置キテ万機ヲ参賛セシメ、万機宜シク公議ニ決スベキ事。
一、有材ノ公卿諸侯及ビ天下ノ人材ヲ顧問ニ備ヘ官爵ヲ賜ヒ、宜シク従来有名無実ノ官ヲ除クベキ事。
一、外国ノ交際広ク公議ヲ採リ、新ニ至当ノ規約ヲ立ツベキ事。
一、古来ノ律令ヲ折衷シ、新ニ無窮ノ大典ヲ撰定スベキ事。
一、海軍宜シク拡張スベキ事。
一、御親兵ヲ置キ、帝都ヲ守衛セシムベキ事。
一、金銀物貨宜シク外国ト平均ノ法ヲ設クベキ事。
以上八策ハ方今天下ノ形勢ヲ察シ、之ヲ宇内万国ニ徴スルニ、之ヲ捨テ他ニ済時ノ急務アルナシ。苟モ此数策ヲ断行セバ、皇運ヲ挽回シ、国勢ヲ拡張シ、万国ト並行スルモ、亦敢テ難シトセズ。伏テ願クハ公明正大ノ道理ニ基キ、一大英断ヲ以テ天下ト更始一新セン。
なかなか格調高い文章です
上から順番に、後の政策との結びつきを簡単に示します。そうすれば原文が読めなくても、言っていることはなんとなくわかるでしょう。
- 大政奉還
- 国会の開設
- 人材の登用
- 条約改正
- 憲法制定
- 海軍力の増強
- 親兵(のちの近衛師団)の設立
- 金銀交換レートの改正
「之ヲ捨テ他ニ済時ノ急務アルナシ」とあるように、当時の喫緊の課題に絞っています。
そして、すべて実現されています。
維新八策の全文はネット上では日経新聞オンラインにしかありません。元々、大阪維新の会が提案しているものだし、彼らも広く知ってほしいと思うので、全文コピペしても道義上の問題はないと思ったのですが、どういう経緯で日経新聞にしか載っていないのかよくわからないのが不気味なので、やめました。
また、かなり長い。よって、全文確認したい方は、日経新聞オンラインを見てください。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC3103B_R30C12A8000000/
※ID、パスワードが必要ですが、無料で登録できます。
ここでは、維新八策の8つの項目と構造が分かるような引用をします。
1.統治機構の作り直し~決定でき、責任を負う統治の仕組みへ~
【理念・実現のための大きな枠組み】(8)
【基本方針】(12)
2.財政・行政・政治改革~スリムで機動的な政府へ~
【理念・実現のための大きな枠組み】(4)
【基本方針】(16)
3.公務員制度改革~官民を超えて活躍できる政策専門家へ~
【理念・実現のための大きな枠組み】(4)
【基本方針】(17)
4.教育改革~世界水準の教育復活へ~
【理念・実現のための大きな枠組み】(5)
【基本方針】(17)
5.社会保障制度改革~真の弱者支援に徹し持続可能な制度へ~
【理念・実現のための大きな枠組み】(9)
【基本方針】(9)
[年金](5)
[生活保護](8)
[医療保険・介護保険](4)
6.経済政策・雇用政策・税制~未来への希望の再構築~
~経済政策~
【理念、基本方針】(18)
~雇用政策~
【理念、基本方針】(9)
~税制~
【理念、基本方針】(9)
7.外交・防衛~主権・平和・国益を守る万全の備えを~
【理念、実現のための大きな枠組み】(4)
【基本方針】(10)
8.憲法改正~決定できる統治機構の本格的再構築~ (5)
カッコ内の数字は、その下に並んでいる箇条書きの項目数です。僕が目検で数えたので、間違っていたらごめんなさい。
たとえば、話題になった「衆議院の議員数を240人に削減」というのは、「2.財政・行政・政治改革」の【基本方針】の1つです。
まず分かるのは、八策などというシンプルなものではないということです。
僕はずっと誤解していたのですが、船中八策のように喫緊の課題を8つ取り出して、これだけは命に代えてでもやる、というようなものだと思っていました。
もちろん、慶応3年と平成24年では、世の中の複雑さが違いすぎます。項目が多いからダメだとは言いません。
でも、多すぎるのではないでしょうか。
橋下氏はことごとくやりぬく覚悟なのかもしれませんが、すぐにできそうなものもあれば、これは無理なんじゃないかと思うようなものもあります。
次に、構造がすっきりしていません。
【理念・実現のための大きな枠組み】と【基本方針】という構成で貫かれているのかと思いきや、例外がありますし、また「枠組み」―「方針」という階層構造なのかと思いきや、その辺もどうもすっきりしません。
「最終案」なんだそうですが、本当に練りこまれているのか?
もちろん、これだけのものを作る努力は称賛に値しますし、かなりの時間をかけていることは想像できるのですが、読んでいるほうとしては、重複なく・漏れなく(MECE)なものなのか心配になります(同じ言葉が出てくる場合は「再掲」と書いていますが、そういう意味ではなく、表現は違うが同じ意味のものがないか、ちょっと見ただけでは分からないということです)。
また、項目の粒度もそろっていません。やたら大きい話もあれば、そんなに細かく書かなくてもいいのにというものまで千差万別です。
もっと心配なのは、これだけの項目を挙げていて、全部賛成という人ばかりが集まるということがあり得るのでしょうか?
それともこれは橋下氏に全幅の信頼を置くのかどうかを試すための踏み絵なのでしょうか?
たとえば、「TPP参加、FTA拡大」については反対だが、「道州制が最終形」には賛成という人はどうしたらいいのでしょうか?
橋下氏の考えは、これを見ればよくわかります。しかし、日本のこれからを示す献策ということであれば、前文と8つのタイトル、それと大きな枠組みを文章で書くだけでも良かったのではないかと思います。
国を建て直すための献策であれば、「これだけは絶対譲れない」というレベルで考える必要があるのではないでしょうか。となれば、あまりの具体案(衆議院240人とかTPP参加とか)は入れないほうがいいということです。
揚げ足取りだと言われればそれまでですが。
のちにことごとく実行された(つまり重要度が高いものが並んでいた)ことを理由に、僕は船中八策のほうがより素晴らしい献策だと評価したいと思います。
記事に共感した方は、ぜひ下記のサイトにもお立ち寄りください。
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