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戦前に政党政治が放棄された理由

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東大の日本史の入試問題はこんなことをきいてくるんだそうです。

  • 藤原道長は、なぜ関白にならなかったのか?
  • 北条氏は、なぜ将軍になれなかったのか?
  • 伊藤博文は、なぜ憲法制定を急いだのか?

3つ目あたりは、正解に近い答えを出せる人も多いかもしれませんが、上の2つに即答できるのは、かなり日本史に強い人ではないでしょうか。

東大のディープな日本史』(相澤 理、中経出版)という本が、なぜか駅前の5坪ほどの小さな本屋で平積みされていました。1ヵ月前ぐらいに買ったのですが、つい数日前も平積みされていました。

東大の日本史の入試問題で、歴史の本質を知るという趣向の本です。これがなかなか勉強になる(受験参考書としても使えますが)。

先ほどの問いの答えを知りたい方は、ぜひ同書で。

※画像はAmazonから拝借しました。画像や書名などからのリンク先は、Amazonアソシエイトですのでご注意ください。

 

● 刺激的な問題

 

さて、前掲書の一番最後に「『憲政の常道』はなぜ終焉(しゅうえん)したのか?」という刺激的な問題が取り上げられていました。

「満州事変以後政党解消に至るまでの時期、政党がその力を次第に失っていった」要因を述べよ、という問題です。

昨年度の入試問題なら、実にタイムリーで皮肉も効いてるなと思ったのですが、1982年度の問題でした(なんと、僕が高3の年!)。

これに対する、著者相澤氏の解答例は次の通りでした。

政党内閣は明治憲法において制度化されたものではなく、昭和初期には元老の西園寺の推挙によって慣例的に二大政党時代が続いていたにすぎなかった。慢性的不況に抜本的な解決策が打ち出せなかったことや、独占資本である財閥との癒着により国民の支持を失うなかで、満州事変を機にテロ・クーデターが相次ぎ、政党内閣の終焉後には軍部と官僚が手を組んで内外の危機に対応する新体制をつくる動きが加速して、政党は影響力を失った。

東大からは解答例が出ていないので、これが満点かどうかは分かりませんが、僕は一つの見識かと思います。とりあえずは、この解答をベースに論を進めてみたいと思います。

諸要因を箇条書きで並べると以下の通りとなります。

  • 政党内閣は憲法で制度化されたものではなかった
  • 元老の推挙によって慣例的に続いていた
  • 慢性的不況に抜本的な解決策が打ち出せなかった
  • 財閥との癒着で国民の支持を失った
  • 満州事変を機にテロ・クーデターが相次いだ
  • 軍部と官僚が手を組み内外の危機に対応する新体制をつくる動きが加速した

これって、現在の状況に似ていると思いませんか?

1つ1つ見ていきましょう(注)。

(注)なお、以下の話は、戦前に政党政治が終焉を迎えたときの状況と現在の状況が似ているということを指摘しているだけであり、政党が弱くなった理由を分析しているわけではありません。その点、誤解なきようお願いします。

 

● 政党内閣は憲法で制度化されたものではなかった

 

これは、驚くべきことに、現行の日本国憲法でも同じなのです。

嘘だと思ったら、日本国憲法を読んでください。

なぜだか分からないけど、衆参の二院制だということは明記されています(なので一院制にするのには憲法改正を伴います)が、政党という言葉すら出てきません。

ただし、政党を規定する法律はあります。それは、政治資金規正法(規制でないのに注意)です。

この法律は1948年に、あまりに変な政党が乱立するものだから、見かねたGHQの指示で作られた法律です。この法律の基準を満たすものが「政党」と呼ばれるものです。

ただ、今の時代も変な"政党"が乱立するので、効果があるのかどうかは不明です。

さて、あらゆる法律は、憲法に違反しないのが前提ですから、日本国憲法下で政党政治が規定されてないというと言い過ぎかもしれません。ただ、政治資金規正法で決められているのは政党の定義だけであり、政党政治がいかなるものかについては何の規定もありません。

これは、政党政治という形態が日本国憲法と矛盾すると言っているわけではありません。日本国憲法の規定では、政党政治以外の政治形態もある得ると言っているのです。

ただ、日本国民が戦後、民主主義を進めるにあたって政党政治を当然のものとし、それを望んだということは言えるでしょう。だからこそ、戦後すぐに政党が乱立したのです。

 

●  元老の推挙によって慣例的に続いていた

 

この元老というのは、西園寺公望を指しています。明治維新の最後の生き残りで、高潔な人格を持った人だったと伝えられています。

戦前の政党政治は、ある意味徳治政治だったんですね。徳のある元老がいて、その人の理想を政党が代行して実現化するという意味で言っています。

ちなみに、前掲書の著者の相澤氏は、政党政治の"民主性"の方にスタンスをおいています。憲法に規定されているかどうかよりも、政党政治の民主的な運用は戦前も可能だったが、それは憲法外の元老の力が必要だった、という意味で「明治憲法において制度化されたものではな」いと言っておられるようです。前項の僕の主張とは多少論点が違います(論点が違うだけで、どちらも間違ったことは言っていないと思います)。

それはさておき、今の日本の政党政治が元老の推挙で慣例的に続いているわけではないのは、明らかです。

ただし、総理大臣の決定に国民の意思など関係ないのは、戦前と変わりません。

また、国民の喫緊の課題と、国会での重要な論点が食い違っているのも、戦前と変わりません。

「関東大震災後の政治過程の主たる政治焦点は震災からの復興の問題ではなく、普通選挙・新党問題の方にあった」(関東大震災と後藤新平・復興院の挫折)などというところも、そっくりで不気味なほどです。

 

● 慢性的不況に抜本的な解決策が打ち出せなかった

 

これについては、説明不要ですね。まったく同じです。

 

●  財閥との癒着で国民の支持を失った

 

「財閥との癒着」というのは、さすがに現在はありません。

「財界」との癒着はありそうですが、それよりも今の政党は特定団体との(癒着とまではいいませんが)関係が強すぎるように思います。

良い悪いは別として、そのようなことで国民の支持を失っている面はないと言いきれません。

 

● 満州事変を機にテロ・クーデターが相次いだ

 

満州事変は、外交の失敗の一つの形態と言えます。

どことの外交かというと、まずはロシアと中国。裏ではアメリカやイギリス。こういった国との外交がうまくいかなくなり、軍部が打って出たら、その後収束できなくなり、泥沼の戦争につながっていった。

イギリスは別として、今の国境問題で出てくる役者が勢ぞろいです(南北朝鮮も日本が満州へ向かう路上にあったという意味で関連深い国々です)。

たとえば国境問題に関して、自衛隊が出兵するという事態は、現時点では妄想に過ぎないでしょう。

しかし、武力行使も辞さずに国境問題を解決するぞという人が政権を握ったら?

僕は、今の日本の空気を見ていると、意外とこんな人が支持されるのではないかと危惧しています。また、このような人が権力の座についたときは、真剣に亡命を考えよう思っています。

国境問題を平和的に解決できる政治家と官僚が出てこないと、最悪のストーリーもあり得るのではないでしょうか。

 

● 軍部と官僚が手を組み内外の危機に対応する新体制をつくる動きが加速した

 

いまさら、軍部と官僚が手を組むということはないでしょう(と信じたい)。

ただ、「内外の危機に対応する新体制をつくる動き」は加速しているように思います。

FNNが最近行った世論調査でも明らかです。

9月1、2日(2012年)に全国の有権者男女1000人を対象とした電話による調査で、いちばん多かったのが「大阪維新の会」で23.8%、次が自民党の21.7%、続いて民主党の17.4%だった。(http://www.j-cast.com/tv/2012/09/04145051.html?p=allより)

既成政党への不信感とともに、「新体制」への期待があらわれた結果です。

とはいえ、橋下氏は、政党政治を壊そうとはしていないようです。その枠組みで政権を取ることを狙っていると思われます。

だとしたら怖いのは、仮に維新の会が政権を取ったとして、「維新八策」がこけたら、多くの国民が政党政治に絶望するだろうということです。

 

● まとめ

 

今までの議論を下表にまとめました。

クリックすると拡大図

いろいろな前提が違いますから、まったく同じような状況と言うつもりまではありません。ただ、構造的にはとてもよく似ています。

そして、既存政党は国民からどんどん魅力のないものになっているというのは、世論調査などで数字としてあらわれています。

それが維新の会への期待となっていますが、維新の会が政権をとってもしこけたら......。日本の政党政治は終わるかもしれません。

その後、どうなるか。今は想像もつきません。

ただ、安易に政党政治を終わらせてはいけないと思います。政党政治に変わるより良い政治体制が思い浮かばない間は。

 

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