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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

「顧客視点に立て」などと簡単に言うな(2)

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前回のつづきです。

 

下、システム部門の担当者が読者という想定で、しみじみした事例の具体的な順序と書き方を説明します。

システム部門の担当者(以下、担当者)の本当の課題とは何でしょうか?

これは導入効果のチャートとはまったく違うものです。こんなものは結果としてあたりまえ。できなければ大問題です。導入効果のチャートは担当者にとって何ら安心をもたらすものではないのです。

システムの導入を経験したことがない方のために若干の説明をします。

システム導入というのは、実に人間臭い仕事です。

まず、必ずといっていいほど、システム化に反対の勢力がいます。代表的なのはユーザーです。新しいことをおぼえないといけないし、多くの場合仕事が増えるからです(効率化のためにシステムを入れているはずなのに・・・)。

事業部の利害が対立することもあります。ある事業部では賛成だが、一方でこんなものはいらないという事業部長もいる。

経営者が先頭に立って推進してくれればいいのですが、たいていはシステム部門任せです。責任は取るからといいますが、面倒なことはあまりやってくれません。

反対者の説得に成功して導入が決まっても、今度はいろいろな協力を要請しなければなりません。でも元々反対していた人たちは、うまく進まないのを見て、それ見たことかと喜んだりしている始末。

また、いまどき社内開発をしている会社は少なく、ベンダーに任せるのですが、これのコントロールがまた難しい。最初から言っていたはずのことなのに、仕様変更ですねと言われることもしばしば。ベンダーとも交渉ごとだらけになります。

ユーザーには文句を言われず、上司には評価されたい。こういう会社員としての当たり前の気持ちと、そうはいってもいい仕事をしたいという使命感ややりがい。これらを達成したいというのが、担当者の真の課題なのです。

 

い事例は、担当者の真の課題にこたえるものでなければならない。

そうであれば、まずは同じような悩みを抱えていた担当者の姿を浮き彫りにしなければいけない。

「ああ、俺と同じような境遇の人がここにもいるんだなあ」 そのように無意識に感じさせるようなところから入っていかないといけないわけです。

あとの流れは二者択一です。

導入が非常に簡単だったという話か、導入は困難だったがお客様と弊社のタッグチームで乗りきったという話か、どちらかにします。もちろん事実に基づかなければいけませんが、浮き彫りにする必要はあります。中途半端では響きません。

その過程で、製品の選択基準などの担当者の役に立つノウハウもちりばめる。

こういう順序で書いた後に、ようやく導入効果を書く。このタイミングで導入効果が出てくれば、担当者の納得感が高まるというわけです。

このようにPRの文書に関しては、順序が決定的に重要です。

 

は、この順序で書けばいいのでしょうか?

もう一つよくあるのが、(実際はライターが書いていると思うのですが)自社の社員が顧客に取材して、それをまとめたという形式のものです。

これはいけない。

言葉が提供者側の言葉になっています。

事例の読者は、提供者側の言葉には不信感を抱きます。

ここはやはり徹底的に顧客の言葉で語るという形式にしてほしい(注)。

顧客の言葉で語ればいいのだと、担当者が語った結論だけ(それも提供者にとって有利なもの)をカギカッコにいれているものがあります。

これもいただけません。意図が明確で、結局は提供者の言葉を代弁してもらったにすぎない。これも不信感を招きます。

そうではなく、できるだけ具体的なエピソードを語ってもらう。すばらしいかどうかは読者が判断することだし、読者が判断したいのです。

PRにおいて大切なのは印象であり、無意識であれ不信感を抱かせてはいけないのです。

注)インタビュー形式になっていても、インタビュワーが第三者なら使わないような過剰な敬語を使っているのも、客観性がなくなります。たとえば「教えてください」を「お教えください」などというのがその例です。このような言葉は、取材記者なら使いません。

 

入事例の説明になりましたが、このことで顧客視点に立つということがどれほど難しいかお分かりかと思います。

提供者視点というのは、しみついた垢のようなもので、周囲には悪臭を放っているのに、本人は気づきません。

前回冒頭の質問をしてくださった方も、実は我々の営業セミナーに熱心に通ってくださっています。我々のセミナーでは、いきなり商品説明をしてはいけないということを何度も繰り返し発信しています。

しかし、その方が、自社でやっていることがいきなりの"商品説明"だと気づかなかったのです。僕が、以上のような回答をすると、頭をガツンと殴られた気がすると感想をくださいました。

 

まどき顧客志向でない会社は珍しいでしょう。そうでない会社はすぐにつぶれます。なので、顧客の視点に立ちたいと思って、みなさんやっているのだと思います。

ただ、それが結局は提供者視点になってしまっている。

提供者視点とは実に根が深く、顧客視点というものは実に奥が深いものなのです。

 

ころで、「顧客視点に立て」と簡単に言い放つコンサルタントが信用できないなら、どのようなコンサルタントを信用したらいいのでしょうか?

それは、「しみじみとした事例」などという謎めいていて、しかも心に残る言葉をいうコンサルタントでしょう。

僕は、この言葉の意味をいつか分かりたいと思って、ずっと考えてきました。この記事で一つの成果が出せたとしたら、この言葉のおかげです。

コンサルタントの言葉は、クライアントの行動を促すものであり、アドバイスではいけないのです。

 

記事に共感した方は、ぜひ下記のサイトにもお立ち寄りください。

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▼マーケティングで最も大事なことは自分軸を持つこと。
 Who、What、Whyの3Wメソッドで、行き詰まりからの起死回生を!

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▼自社の考えをインタビューして文書化してほしい方は

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