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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

勝てるプレゼンと上手いプレゼンは違う

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誤解がないように先に言っておくと、このまとめ記事自体はすばらしいと思う。

人を動かすプレゼンをするために知っておくべき7つのルール
http://matome.naver.jp/odai/2133623036700308001

まとめ記事として模範的だし、読まれるブログ作りという意味でも参考になる。

多くの人が読み、高い評価をしているのも頷ける。

 

のような記事を高く評価するのは、プレゼンを苦手としている人だろうと思う(そして、我々のほとんどはプレゼンが苦手だ)。

中には自分はたいしてプレゼンが上手くないくせに、部下に上手になってほしいと思っている上司などもいるかもしれない(そういう人が部下に、これを読めというわけだ)。

このような上司は論外として、苦手としている人がこの記事を参考にすること自体はいいことだと思う。

ただ、この記事の冒頭にも書いてある。

◎プレゼンとは「人を動かす」ことである

(略)

「なぜそれをする必要があるのか(理由)」「どう実行すればいいのか(行動)」を相手に伝え、相手を動かさなければ、それはプレゼンではなく「説明」です。

だとすれば、プレゼンの勝敗は相手を動かしたかどうかであり、上手に話せたかどうかではないはずだ。

僕も正直に言えば、上手く話すのは苦手だ。プレゼンの巧拙を審査するプレゼン大会に出たら予選も通らないだろう。

しかしながら、会社員時代の提案コンペの勝率が異様に高かったのも事実だ。明訓高校時代の山田太郎の打率ぐらいあった。

何もスティーブ・ジョブズのようなプレゼンができる必要性はまったくない。それどころか、提案コンペのプレゼンでは大衆を相手にするジョブズ式だと負ける可能性も高いと僕は思う(舐めてんのかと思われるから)。

 

を動かすプレゼンをするために知っておくべき7つのルール」に書いてあることは、基本として重要なことが書かれている。ただし、鵜呑みにする必要もない。

いくつか、勝てるプレゼンという観点から批判しておこう。

 

●相手は人間です 

聞き手の理解力はニワトリを遥かに下回ると考えましょう。

これは上手いプレゼンを目指す人の論理だ。聞き手をニワトリ以下だなんて思った瞬間プレゼンには負ける。

とはいえ、(ジョブズがやっていたような)大衆向けのプレゼンでは(ニワトリというたとえは失礼だが)、理解力というよりも前提知識は少ないと考えるのは大切なことである。

だが、あなたの仕事でのプレゼンはプロに向けたものではなかったか?

たとえば、あなたがIT技術者であれば、顧客企業の聴け手には分からない専門用語もあるかもしれない。ただ、相手も勉強してから臨んできているかもしれない。

専門用語を使いすぎても、分からないだろうと説明しすぎても怒られる可能性があるのが、リアルなプレゼンの現場なのだ。

勝てるプレゼンで大切なのは、相手の理解力をニワトリ以下などと決めつけることではなく、相手の知識レベル・理解レベルを正確に見極めることだ。

 

●つかみだけよくてもなあ・・・ 

たとえば、「革命的な薬を紹介します。この薬は、認知症を予防し、うつ病を防ぎ、成人病を防ぎます。しかも、無料です。さぁ、この薬はなんでしょうか?」と疑問を投げかけると、聴衆の興味を引きつけられます。(ちなみに、答えは運動です)

この手の問いかけは、両刃の剣である。

たしかにつかみとしてはいい。ただ、つかみだけよくて、中身が退屈ならば逆効果になる。

こういうのは話すのが上手になれば勝手に出てくるようになる。ただ、それも結局は上手いプレゼンの要素であり、勝てるプレゼンとはあまり関係ない。実際のコンペの場面では、顧客はもっとシビアな判定基準で臨んでいる。

 

●完璧でなくいい 

◎緊張をどうマネジメントするか

(略)

一言一句完璧に話そうとすると、ハードルが上がり、余計に緊張します。上手に話すことではなく「相手に内容が伝われば十分」と考えて、プレゼンにのぞみましょう。

(略)

スティーブ・ジョブズは、プレゼンの前に数百時間練習をしていたと言われています。全てのことに言えますが、完璧をつくる唯一の材料は、練習、練習、また練習です。

矛盾とまでは言わないが、「相手に内容が伝われば十分」なら練習は必要ないよね、と思う。

実際、僕はほとんど練習しなかった。勝てるプレゼンは完璧なプレゼンである必要はないからだ。

これは、テクニックとして使ってほしくはないのだが、上手に話すよりも、助けてやりたくなるぐらい下手なほうがちょうどいい(ただし、性格が悪そうだったり、ただ仕事ができなさそうだったりだとダメ。仕事はできるし、真面目なんだけど、話すのは苦手という人が一番勝てる)。

 

いまとめ記事なんだけど、プレゼンの場数を踏んでいる人のまとめではないだろうと思う(それが悪いとは言わない。僕だってほとんど経験のないことを推理や想像で書くことはたくさんある)。

スティーブ・ジョブズのプレゼン術とか、あるいはテレビドラマの中で見た広告代理店のかっこいいプレゼン・コンペなんかを鵜呑みにして、書いちゃった記事だと思う。

ただ、基本的に重要なテクニックも多いので、そのあたりは取り入れればいい。

文字の少ない資料のほうがいい。結論を先に言うのもいい。そういうのは積極的に取り入れるべきだ。

とはいいながらも、勝つ人は、わけの分からない文字だらけの資料でも、最後の最後で結論を言おうが勝ってしまうものなのだ。

何が違うのだろう。

 

の経験からいえば、次の5つが本当に重要なポイントだったように思う。

  1. キーマンが誰かを把握し、その人の知識レベル・理解レベルに合わせて話す
  2. とはいえ他の聴衆も無視してはならず、対話的にレベルを探りながら、適宜補足などをする
  3. そのためには聴衆に向かって話すというよりは聴衆から聞くという態度を取る
  4. 準備で一番大切なのはコンテンツの充実。あなたが体調不良で倒れたとしても代理人が最後まで務められるところまで準備する。リハーサルもその意味でやる
  5. 話が苦手なら、デモでひきつける

上手く話すことよりも、上記を心がけてみてください。勝率は上がるはずだ。

 

イントにはあえて書かなかったが、最重要なのは提案の中身なのは言うまでもない。

実を言えば、いい提案は伝え方が悪くても伝わるものなのだ。今のコンペはシビアでかつ数多い基準で評価するので、悪い提案はどんなに上手に話しても負ける。

ジョブズならAndroidタブでもWindowsタブでも売るなんて、ありえないでしょう? それに、彼にだって連敗時代もあったわけだし(1990年代半ばには、みんな本気でジョブズは終わったと思っていた時代があったんです。でもプレゼンは昔から上手だった)。

プレゼン術が役に立つのは、提案内容に甲乙つけがたいとき(だいたいはどんぐりの背比べだが)か、プレゼン大会だけなのです(注)。

ビジネススキルとして独立に考えないほうがいい。伝えたくてしかたのないものが作れるようになれば、自然にプレゼンはできるようになるはず。そういうものがないのに、プレゼンスキルだけ磨いても、それはただの話し上手ですよ。

お客さんに、「プレゼンは上手かったんだけどねえ・・・」と言われないよう励んでください。

(注)このように書くと、商品力で差別化できないからこそプレゼン力で差別化しなきゃいけないんじゃないのという反論もあるだろうが、商品力で差別化できなくても提案力で十分差別化できる。そして、その力はプレゼン力の比ではない。また、一番怖いのはプレゼン力だけで勝ってしまったあとのことである。これは後悔しますぜ。

 

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