「ものづくりの呪い」から脱却できるか
日本では、未だに「ものづくり」への支援は多いのですが、サービス業への支援は極めて少ないのが現実です。それがここ3年の飲食店等への助成金の遅れなどにつながっている、という話も聞きます。軽く扱われているような。
2010年にこんな記事がありました。
「ものづくりの幻想から脱却しなければ日本は復活しない」(AGORA)
著者は、この記事の中でiPhoneの成功に言及しています。
ビジネス・ユースの小さな市場でしかなかったスマートフォンを、iPhoneで、一般の人達に、電話の機能はもちろん、音楽も聴け、インターネットを楽しめ、さらに写真も楽しめる、新しいコミュニケーションの価値を売りました。
それで市場の価値を上げたのですが、その裏には技術の裏付けがあったとしても、技術だけを売っていたら、iPodもiPhoneもiPadの成功もなかったでしょう。
iPhoneの技術は素晴らしいものがありますが、最先端技術だけではなし得なかったものだというのは、一般にも知られていることです。最近は、円安のこともあり、「iPhoneはMacに比べて高い」という声を聞くことがありますが、そうではないですよね。
以前、北陸新幹線のデザインを担当された、工業デザイナーの奥山清行さんの講演を拝聴したことがあります。
奥山さんいわく
「日本の新幹線をスピード勝負に持っていってはならない。1分と遅れないオペレーションがあってこその新幹線だ」
まさにそのとおりですね。オペレーションという、人が関わったところがあってこその新幹線。スピードが出るだけでは足りない。時刻表通りに運行されることで、安心して利用できるわけです。
しかし、みんなそれが当たり前になりすぎて、その「当たり前」を実現するためのオペレーション、サービスの大切さを忘れてしまっていて。そこには、たくさんの時間と労力、知恵が集結されている、ということを忘れてはいけないと思うんです。
2012年には、ニッセイ基礎研究所が、こんなコラムを書かれています。
その点、日本は天然資源に恵まれず、資源の呪いとは無縁であった。そればかりか、アジアでもっとも早く工業化が進み、「アジアの奇跡」とも呼ばれた。
しかし、奇跡を起こした日本も、いまや、わずかな成長しか達成できていない。なぜだろうか?
わずかな成長どころか、下降しているとも言われているところの要因の一つに、ものづくりの呪いがある、と記されています。
お金になりやすい財産を得た日本は、付加価値の高い新しい産業を育成することを怠ってしまったのではないだろうか。日本はいわば、「ものづくりの呪い」にかかってしまったと言えるのではないだろうか。
政府や自治体も、ものづくりにはどんどん助成金を出していますが、オペレーションやサービスといったところは軽視されてしまっている、と感じています。
もちろん、サービス業の中には、誰にでもできるようなことが含まれているのは事実ですが、そうではないものがたくさんあります。ノウハウを蓄積しないとできない業務、熟練が必要な業務など、多くの知恵があってこそ実現できるものが少ないないと思うのです。
ものづくりの呪い。考えてみないといけないな、と思う今日この頃です。