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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

新入社員研修の「変わらない」部分の意味みたいなものを考える

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先日、DECの1986年入社組で20数年ぶり(人によっては初めての)飲み会があった、という話はすでに書きました。

この時集まった面々は、「新人研修のうち”合宿研修”が一緒だった」という関係もあり、「ああ、生産性で受けたよね」というのが合言葉。(富士の生産性、ってなんでしょう? たぶん、合宿研修施設の名称なんだと思うのですが、ある期間、DECに新卒入社した人には、かならず通じる「合宿は生産性だった」という言葉。)

同じ釜の飯を2泊3日(だったはず)食った、というそれだけで、20数年ぶりに再会できるというオモシロさ。外資系なのに、この合宿は、「昭和」の香りぷんぷんで、朝はラジオ体操とジョギングがあるし、居眠りしていると後ろから叩かれるし、グループの発表の準備が終わらないと眠れないし、とキツイものだったことは覚えています。

「新人研修」・・しかも「困難を伴うタイプのもの」というのは、いつまでもこうやって同期をつなぎとめる要素になるんだなあ、というのがこの時の感想。

さて、話変わって、中原淳さん編著の最新作 『経営学習論』(東大出版会)に挑戦中です。 学術書なので、いつもの中原さんの本よりはうんと難しい。読みでがあります。 でも、面白い。

そこに「組織社会化」の話が出てきます。

新しい組織になじむよう人に知識や技術や、あるいは、そこでのお作法とか暗黙の了解的規範を注入していくこと。学び手からすれば、それらを学んで、自己の内面に取り込んでいくこと。

それが「組織社会化」だそうです。

日本では、これまで4月に一括採用一括入社するスタイルが主流だったので(もちろん、今でも)、新入社員という”組織にとっての新参者”を「組織社会化」するため、「新入社員研修」が大きな役目を持っていた、というのですね。なるほど。

新人研修の「厳しさ」の効果というのが確かにあると。

たとえば、学生から社会人への意識変革というのは、「今までの常識」を否定され、「新しい常識」を注入させることによって行われる。

それから厳しいことによって、同期同士の連帯感が生まれる。さらに、それを乗り越えると「自己効力感(私にもできる、できたじゃん!という思い)を抱くこともできる。そして、その結果、組織へのコミットメントも増す、というのです。 (新人だって、1か月もしないうちに、「うちの会社」「俺の会社がさあ」と言うようになりますね)

新人研修の「厳しさ」以外に、新入社員研修の「不変性」も「組織社会化」に役立つ面がある、とも書いてあります。

毎年技術も知識もあれもこれも変化している現代において、新入社員研修が昨年と1mmも変わらないスタイルと内容で進行することはもはや皆無だと思いますが、それでも、あるプログラムだけは、10年前からずっと同じスタイルで講師が行っている、なんてこともあると思います。
あるいは、ある程度は変更を加えているけど、基本は、同じ。(たとえば、合宿があって、そこで同じ釜の飯を食って、何か問題解決をするために苦労する、とか)

その「不変性」をもってして、

「ああ、あの研修ね、おれたちのころもあったよぉ」

と上下感に「連帯感」が生まれる、「共通言語」が生まれるという効果がある、というのですね。

ああ、なるほど。

冒頭で例に挙げた「生産性の合宿」「合宿は、俺たちは生産性だったけど」(会場が2か所に分かれていたので、こういう言い方になります)なんてのがその「共通言語」の例ですね。

「居眠りしてたら、人事の●●さんに頭叩かれた」という「厳しさ」を「乗り越えた」同期の連帯感みたいなのも、この会話に潜んでいるというわけです。

「組織社会化」は、どの「社会」にも必要なものですが、新人研修の「不変性」という要素が意味を持つ、というのは、斬新な切り口で、「ほぉ」とうなってしまいました。

この本はまだ半分しか読めていませんが、「職場での学びと成長」に関する様々な知見が紹介されていて、大変興味深いので、またおいおいブログで紹介していきたいと思います。(たぶん、です)

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