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メンタルヘルス業界の「安易な商品化」への警鐘 ― 良かれと思って始めたことが異なる結果を生み出す前に

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こんにちは、しごとのみらいの竹内義晴です。

普段、ネガティブなことは書かないようにしているのですが、今日は、問題提起という意味も込めて、少しネガティブなことを書きます。

以前、ある会社の営業の方から電話をもらったことがあります。

「しごとのみらいさんでは、労働者のメンタルヘルスに関わる研修をされているそうですが、情報共有をさせてほしい」

(情報共有って何だろう?)

次の瞬間、直観的に思いました。

(あっ、ひょっとしたら、メンタルヘルスの研修かパッケージを販売している会社で、状況を探っているのかな?)

ボクはこう聞きました。

「情報共有って、具体的にはどういうことですか?」

「実は、労働者のメンタルヘルスをサポートするためのサービスを展開させていただいているのですが、その件に関して情報共有させていただきたいと思いまして」

(う~ん、まだ何か隠しているな。もう少しハッキリ言ってくれたらいいのに。しかたない、こっちから言ってみるか)

「情報共有とは、つまり、営業的なことで現状を教えてほしいということですか?」

「まぁ、そうですね……はい」

「すいません。少し悪い言い方をすれば、それなら御社はボクらと競合ということになりますよね。それなら、私たちが教えてほしいぐらいです……というのは冗談ですが、残念ですが私たちは営業自体していませんし、ご依頼があったときにご提供している感じなので、ご期待されているような情報はないと思いますがが……」

「そうですよね……そこを何とか。実は、竹内さまのお名前は○○さんからお伺いしまして……」

連絡をしてきたのはある知人の紹介だと言います。邪険に扱うわけにもいかず、会うだけ会ってみることにしたのです。

~~

あるカフェに出向いて待っていると、男性と女性の2人が現れました。名刺交換を済まし、席に座ってコーヒーを注文すると、ボクはこう切り出しました。

「情報交換されたいということですが、今日はどのような件で……」

すると男性は、透明なファイルにとじられた、きれいなパンフレットをボクの目の前に差し出しました。

「労働者のメンタルヘルスが大きな社会問題になっているのはご存じのことと思いますが、実は、このような商品を中小企業のメンタルヘルス対策として展開したいと思っているのですが、現状を知りたいと思いまして……」

「現状……とおっしゃいますと?」

「実は、いくつかの会社様を回らせていただいているのですが、反応が悪いと言いますか、”うちはまだいい”という経営者さまが大半でして……」

「まぁ、そうでしょうねぇ……」

と言いながら、パンフレットを手に取りパラパラとめくってみると、次のような言葉が並んでいました。

  • メンタルヘルスが社会問題になっている
  • メンタルヘルスはもはや経営のリスクだ
  • 今なら100%助成金で講座が受けられる
  • 経営者のリスクは一切ない

(まぁ、経営者視点に寄り添って書けばこうなるのかな。表面上の言葉は「社会の問題を解決したい」って言ってるけど思いが伝わってこないんだよなぁ。「商品を展開する」だとこうなっちゃうのかなぁ)

そんなことを思いつつ、ボクは無言でパンフレットをテーブルの上に置きました。

「それで、どんな情報を交換したいと?」

「このような業界に関する現状と、竹内さまが、どのようにして研修などのお仕事をされているのかなぁと思いまして」

この後は、「営業はしていないこと」「情報発信を中心に行っていること」「情報を観た方からご連絡をいただく機会が多いこと」などをお話して、あとは雑談……という感じで終わりました。

~~

おそらく、業界(っていう言い方も変な感じですけど、今日はあえてこう呼ぼうと思っています)的にはこんな感じなのだろうと思っています。メンタルヘルスが1つの商品であり、パッケージであり、商売の道具になっているという意味です。それを営業して、企業に導入していただいて、利益がでる……そんなイメージ。

しかも、厚生労働省がストレスチェックを義務化しようという動きがあります(今は少し変わってきたので「ありました」かな)。「ストレスがチェックできるシステムを作る」「それをサポートする仕組みを作る」というのは、ある意味、ビジネスチャンス以外のなにものでもないでしょう。

こんな書き方をすると、「困っている人がいるのにビジネスチャンスとは何事だ!」と思われる方もいるかもしれませんが、問題が解決して、お互いがうれしくてハッピーになれるのなら、何を商売の道具にしようが、何を機会にしようがいいんです。医師が患者さんを治療して対価を受け取るように。

けれども、ボクが違和感を覚えるのは「安易さ」です。「メンタルヘルスが社会問題になっているから……」「このサービスを導入すれば……」「このパッケージを導入すれば……」という感じ。

実はボク、Web上にある新しい「メンタルヘルス」「ストレス」みたいな言葉の記事を拾ってるんですけど、そこに流れてくるのは「ITベンダーがストレスをチェックできるシステムを開発した」「メンタルヘルス対策のパッケージの販売を開始した」「メンタルヘルスの検定試験がある」みたいなものが、意外なほど多いことに気づきます。

ストレスチェックも、パッケージの開発も、検定試験も、それはそれですばらしいことだと思うけれども、ちょっと待ってくれと。本当にそれで解決できるのかと。ボクは個人的に「このテーマは何かを導入すれば解決できるほど簡単じゃない」と思っています。

「それは、お前が勝手に思っていることだろうが……」と言われそうですけど、まぁ、もう少し聞いてください。

メンタルヘルスの問題というのは、ちょっと風邪を引いたときに風邪薬を飲めばいいとか、指を切ったときにはばんそうこうをはればいいとか、そういう感じじゃないと思っています。けれども、一般的には、「チェックしましょう」「早めに病院へ行きましょう」という感じです。

これが本当に正しいのかな?と。もちろん、自分の意志ではどうにもできないような場合は、迷わず医師に相談したほうがいいと思いますが、それでも、いろんな課題があると思っています。

たとえば、ボクの友達にうつの人がいるんですけど、その人によれば、1回30錠、1日に90錠もの薬を飲んでいる人がいるんだそうです。なぜなら、薬の副作用の相談をすると、それを抑える薬が追加で渡されて「薬の連鎖」が起こっているのだとか。まぁ、これはごく一部の例かもしれませんが、それでも、1つの例だと思っています。

他にも、いろんな課題があると思っています。

たとえば、最近、メンタルヘルス業界(やっぱりこの言い方は違和感があるな(笑))では「ストレスチェック」という言葉をよく聞きますが、これらも含めて少し考察してみましょう。

  • 「チェックしよう」っていうけど、「ゆううつだ」「眠れない」みたいなことは、多くの人が経験あるんじゃないの?
  • そもそも、ストレスチェックをして「あなたはストレスが多いですよ」と言われなくても、多くの場合何かしら気がついているんじゃないの?本当の問題は、それを周りに言えない、改善できないことにあるんじゃないの?
  • ストレスチェックで起きるリスクってないの?(個人的には、安易なラベリングには問題があると思っています。たとえば、うつと診断されてうつになる……のような)
  • ストレスチェックした後、自分や人事、労務はその情報をうまく活かせるの?安易な首切りに使われないの?
  • 「チェック」→「診断」→「医療」って流れが本当に正しいの?そもそも、医療の現場はどうなっているの?どうして増え続けるの?どうして減らないの?
  • もし、メンタル的に問題があるとされた人が職場に戻ってきたとき、環境が変わっていなければまた同じことが起こらないの?
  • そもそも、どうしてメンタル的な問題を抱えるの?それは、個人の問題だけ?職場には問題がないの?
  • メンタルヘルスは経営のリスクなの?経営のリスクだからメンタルヘルス対策をするの?そもそもどうしてそうなってしまうの?

と、ざっと挙げただけでも、周辺にはいろんな課題があると思っています。

間違わないでください。「チェックは無駄」「医療がダメ」「薬は危ない」ってことを言っているのではないですよ。それぞれは大切なんです。だけど、「○○のときは、○○すれば解決できます」と言うほど簡単?ということを問いたいのです。その証拠に「メンタルヘルスは社会問題だ」と言われているじゃないですか。簡単に解決できないことを「社会問題」と言うのです。

でも、今ある結果をミクロ的に見ると、それを解決しようと思うのは当然のことです。だけど、その前にあるものとか、その後にあるものとかをマクロ的に見ると、いろんな課題が見えてくるし、「本当にそれでいいの?」という感じがしてならない。だからこそ、「チェックしましょう」「パッケージを導入しましょう」だと安易な感じがするのです。もっとマクロ的な視点で観る必要があるのではないかと。

もちろん、マクロ的な視点で考えている方もたくさんいらっしゃると思います。そういう考えをもとにサービスや商品を開発されている方もいらっしゃると思います。目の前で困っている人を救うために、医療現場でご尽力されている方もいらっしゃると思います。この内容は、現場で頑張っておられる方を批判するのものではありません。

だけど、ミクロ的な視点で見ることで、良かれと思って始めたことが異なる結果を生み出すことは防げればいいなとは、切に思います。

後ろに行けば行くほど対応が難しい。だから、ボクはできれば、「メンタルヘルス対策」よりももっと前の、「もっと気軽に話せたら全然違うんじゃないの?」とか、「社内で話すのは難しいだろうから、ちょっと外の人と話せる仕組みを作らない?」とか、っていうところを考えています。詳しいことは誠Biz.IDの中小企業のメンタルヘルス対策に、今、必要なことに書いてありますので読んでみてください。

みんなが楽しく働ける仕組みが作れたらいいな。

長くなっちゃいました。読みづらいですね。

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