東京電力、みずほ銀行……今、目を向けてほしいたった1つのこと
原子力発電所の課題で
「危険な現場で働いているのは、社員よりもパートナー企業の人が多い」
「大企業の丸投げ体質」
などの批判記事を目にするようになりました。
みずほ銀行のシステムトラブルでも、似たような記事を目にします。
国家的な危機、影響が広い大手銀行のシステムトラブル……
「こんな危機的状況なのに、作業を外注にやらせるなんて……」
「社員が率先して現場に行くべきだ」
きっと、多くの方がそう思われるでしょうし、それが理想なのかもしれません。
もし、今、この瞬間にその理想が叶うのなら、私もそうあるべきだと思います。
一方、個人的な意見では、それはおそらく不可能なのではないかとも思います。
なぜなら、普段、直接現場に立っていない人にとって
「危機的状況の今、現場で作業せよ」と言われても
何をしたらいいのか分からないのが現実ですし
もっとも早く問題を解決できるのは、現場で関わっているエンジニアたちだからです。
たとえば・・・
IT業界では情報システムの管理をパートナー企業に任せている企業がたくさんあります。
私も、大企業のシステムを管理する外注要員として働いていました。
システムのトラブルがあった際
まず、呼び出されるのは現場でシステムを担当している人です。
それがパートナー企業の人なら、その人です。
社員はシステムの概要を理解していても、すべてを詳細に把握しているわけではないので
細かい部分まで分からないのです。
それが大きなトラブルであればあるほど、精通した人でないと問題は早く解決できません。
私自身、夜間にトラブルが起きて、呼び出されたことが幾度となくあります。
対応は外注まかせで、社員は出社すらしないという現場にも、何度も携わってきました。
現場で働く立場からすると、心情的には
「あなたの会社のシステムでトラブルが起きているのに、
なぜ、外注まかせで、あなた方は出社すらしないんだ!」
というのが、正直な気持ちです。
一方で、こんな気持ちも抱きます。
「現場のことは、現場が一番よく分かっている。
現場を知らない人が理想論で指図するのなら、今は、現場に任せておいてほしい」
多くのエンジニアも、似たような気持ちを抱いた経験をお持ちなのではないでしょうか。
数年前、IT業界の雑誌には、「アウトソーシング」という名称で
「いかにコストを下げて実務をまわすか」という特集が組まれていました。
それは、決して悪いことばかりではなく
社外の専門家に仕事を任せることで、任せた企業も業務を回せ
それを請け負った企業も利益になっていたのです。
そうです。お互い、それで幸せだったのです。
けれども、いったんこのような課題が起きると
「丸投げ体質が悪い」
「危機管理がなっていない」
という議論になりがちです。
「トラブルが起きた今こそ問題点を洗い出し、リスクを考えておくべきだ」
「企業側の体質や対応を改めるよう、議論するのは大切なことだ」
確かに、そうなのかもしれません。
問題点に目を向けるがゆえに、批判的な記事が増えるのだと思います。
また、批判的な記事は読者の興味を誘います。
問題が大きければ大きいほど、怒りの矛先を企業に向けたくなる気持ちも分かります。
けれども、今、大切なのは、企業の体質を批判することではなく
問題を早く解決することのはずです。
国家的な課題が突きつけられている今、現場で働いている人たちは
私たちが外側で見ている以上に
「この場をなんとかできるのは、私たちしかいない」
と、相当の覚悟と、強い意志と、勇気を持って働いているはずです。
企業の体質を議論するのも大切ですが
危険も顧みず、寝る間も惜しんで現場で働いているエンジニアのみなさんに
もっと目を向けてほしいと思います。
今、私が望むのはこのことだけです。
現場で働くエンジニアのみなさんに、深い感謝の気持ちと、尊敬の念を表します。
本当に、本当にありがとうございます。