AIの未来は「オープン」か「独占」か?
Linux Foundationの新組織が投じる一石
序文
自ら判断し、計画を立て、外部ツールを使ってタスクを遂行する「AIエージェント」。
この技術への期待が高まる一方で、ある既視感がよぎります。
それは、
OS戦争、ブラウザ戦争、クラウドAPIによる囲い込み――
革新的な技術が、最終的に巨大ベンダーの"プロプライエタリなサイロ"に閉じ込められてきた歴史です。
AIエージェントもまた、
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特定ベンダー独自のAPI
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独自SDK
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独自ツール連携方式
に縛られた世界に向かうのではないか。
この問いに対し、オープンソースの総本山 Linux Foundation が明確な意思表示をしました。
「Open Source Summit Japan」で発表された
Agentic AI Foundation(AAIF) の設立です。
1. 「オープン」の旗の下に集結した意味
AAIFの設立でまず注目すべきは、その参加メンバーです。
OpenAI、Anthropic、Block----
本来であれば、モデル性能やエコシステムで覇権を争うライバル同士が、同じテーブルにつきました。
これは単なる理想論ではありません。
彼らは**「APIやモデルそのものでは、もう勝負は決まらない」**ことを理解しています。
AIエージェントの価値は、
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どのAPIを使うか
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どのモデルを呼び出すか
ではなく、
異なるモデル・異なるツール・異なるサービスを、いかに"安全に""一貫した方法で"連携させられるか
という上位レイヤーの問題に移行しているからです。
REST APIの覇権争いを再び繰り返すよりも、
APIの上にある共通レイヤーをオープンにした方が、市場全体が拡大する。
AAIFは、その冷静な戦略判断の結果と見るべきでしょう。
2. 新しいAPIではない。「エージェント協調のための共通レイヤー」
AAIFが目指しているのは、
「APIをどう呼ぶか」ではなく、「AIエージェントがどう振る舞うか」を揃えることでしょうか。
そのために寄贈されたのが、次の3要素です。
■ Model Context Protocol(MCP)
Anthropicが提供するMCPは、
REST APIを置き換えるものではありません。
MCPは、
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どのAPIを
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どの形式で
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どの権限で
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どの文脈(Context)で
呼び出すのかを、エージェント視点で抽象化するプロトコルです。
つまり、
MCP = APIを包む"振る舞いの標準"
REST APIが「通信の契約」だとすれば、
MCPは「仕事の進め方の契約」と言えます。
■ AGENTS.md
OpenAIが提供するAGENTS.mdは、
エージェント版のREADME、あるいは職務経歴書です。
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何ができるのか
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何はできないのか
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どんな制約があるのか
を人間にも他のエージェントにも読める形で明示します。
API仕様書では表現できなかった
"役割"と"責任範囲"の標準化が、ここで初めて可能になります。
■ Goose(リファレンス実装)
Blockが提供するGooseは、
MCPとAGENTS.mdを使うと、実際に何が作れるのかを示す模範解答です。
理論だけでなく、
「こう書けば動く」「こう設計すれば連携できる」
という実装レベルの共通認識を、コミュニティに与えます。
3. 狙いはAPIの統一ではなく「サイロ化の防止」
AAIFの最大の目的は、
APIを統一することでも、競争を止めることでもありません。
狙っているのは、
AIエージェントが
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特定ベンダーのSDK
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特定クラウドの実装
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特定モデル前提の設計
に閉じ込められることを防ぐことです。
これが実現すると、世界はこう変わります。
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今日Anthropicのモデルで動いていたエージェントを
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明日はOpenAI、あるいはOSSモデルに差し替える
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それでも「振る舞い」は変わらない
競争軸はAPI仕様ではなく、
モデルの品質、コスト、信頼性そのものに戻ります。
Linux Foundationが掲げるのは、
「APIの上に、ベンダーニュートラルな"行動レイヤー"を置く」
という、極めて現実的なアプローチなのです。
結論
Agentic AI Foundationの設立は、
APIが無数に存在することを前提にした、次の秩序づくりです。
AIエージェントは、
もはや単一APIのクライアントではなく、
**複数サービスを横断する"主体"**になりました。
AAIFは、その主体が
誰かの檻に閉じ込められないための、最初のルールブックです。
この「オープンな枠組み」は、
真に技術を解放するのか。
それとも、新しい支配構造の土台になるのか。
答えは、
この標準をどう使い、どう育てるかに委ねられているでしょう。