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ビジネスモバイルITベンチャー実録【朝メール】から抜粋します

製品の育ち方のイメージ

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★我々はITサービスを自社開発して提供しています。まるで何もない研究開発段階から新製品を創り出すのは長い道のりです。そこにはかなりのエネルギーを込める必要があります。東レで高機能繊維の開発をやっていたときと共通項も多いです。今朝はそのイメージについて。

【朝メール】20061214より__

□□製品の育ち方のイメージ

あるとき思いつきます。

「そうだ、回転モーメントを利用しながら移動できる手段を作ってみよう!」

そこでものは試し。小さな、コマのようなものを廻します。それはふらふらと頼りなく揺らいでいます。それでも、ふらふらと移動ができています。物体をA地点からB地点に運ぶことができているのです。ひとつではすぐに止まってしまうので二つ目を廻します。二つ目が廻っている間に一つ目を糸で巻いてまた廻します。

一人では廻し続けるのは大変です。人数を増やしてたくさんのコマを同時に廻せるようにします。タイプも紙のものから、自然素材のどんぐりから、たくさんのコマを試します。コマたちは、あちらこちらにぶつかったりはじけたり、ゆらゆらゆらゆらと廻っています。

「なかなか壮観だなぁ。活気が出てきたぞ!なんだかいけそうだ。」

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ところがふと気が付きます。人手がたくさんかかっています。廻すのにコストがかかりすぎます。忙しく活気をもってやっているのですが、一向にこれでいいのだという結論が出ません。これではいけないと、たくさんのコマを廻すのをやめます。

「コマはひとつにしよう。」

選択と集中です。鉄のわっかのついたコマを持ち出します。回転モーメントが圧倒的に大きい鉄のわっかのコマ、これはなかなか見込みがあります。そこに人を集中させます。一度廻すと、さすが鉄コマです。圧倒的な安定性があります。ブレも少なく、持続性がいいです。しばらくは悦に入ります。

「なかなかいいぞ。この原理使えそうだな。」

所詮、コマはコマ。たまに手に取り糸を巻いて廻さなければなりません。継続的に移動できるものではないのです。そこで考えます。

「なんとか廻り続けるものができないのだろうか」

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鉄コマを縦にしたり横にしたり、ひっくり返してして眺めます。はたと思いつくのです。

「そうだ、軸をはめる台をつくってそこにはめて廻してみよう!」

実際に台を作ります。まったく廻る部分ではないところをまず作る必要があるのです。そして、コマを恐る恐るはめてみます。くるっ、手で廻してみると横になった鉄コマは意外にもよく廻ります。続けて弾みをつけることで、コマは止まらずに廻るようになりました。

「ふむふむ、これで廻り続けるコマはできたぞ。
  同じ形のものだけど、それを横にしてみたことで持続性ができた。
  コロンブスの発想ってやつだな。製品らしくなってきた。」

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ところが、この段階ではまだ製品はコンセプトだけです。しばらくそれを廻していると、どうも、台は一箇所にとどまっているため、そもそもの目的だった移動ができないことに気が付きます。製品は求められるものを創ってナンボですから。

台を移動させるために、次の台を作ります。その下には車輪をつけておくのです。鉄コマをはずみ車に使って、その回転エネルギーを少しだけ取り出して車輪に伝える機構を考えます。

やってみると意外にもそこが難しいのです。まずはどうやら圧倒的に回転モーメントが不足しています。鉄コマをもっと重い、はずみ車のようなものに代えてみます。それを取り付ける台も強化します。当然重量が重くなるので、軸がはまっている部分の抵抗は大きくなります。最初は油をさすのですが、どうもそれではいけません。ベアリングという機構があることを知ります。最適なベアリングを探してきてはめてみます。なんとか重いはずみ車は廻せるようになりました。

「よし、これではずみ車を廻すと車輪が動いて、
  じわりじわりと必要な場所に移動できるようなものになったぞ。」

理屈上は完成しました。姿・形を見てみます。当初のコマとは全く違っています。回転モーメントを利用して移動する、というコンセプトは同じなのですが、今やまるで戦車のような重量感です。それでも、しっかりとした台からベアリングから、車輪への伝達機構も備わっています。いけるはずです。でもまだまだなのです。この段階ではプロトタイプのようなものです。

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でも、これでいくしかありません。あとは、信じてはずみ車を廻すだけです。手で廻します。ずしりと重くてなかなか廻りません。それでもそれを廻します。今やお金は最初のコマやプロトタイプまでで使い切っています。人手が足りず、それでも廻して動かすしかやり道はないのです。

廻す人たちの手には血が混じります。半端じゃない繰り返し作業、それを正しいと信じてやるしかないのです。くるっ、くるっ、重いはずみ車は少しずつ廻り始めました。廻り始めると最初の大きな静摩擦係数が比較的小さな動摩擦係数へと変わります。

だんだんと慣れもでてきます。廻す力持ちの専門家なんかもでてきます。

「もうやっていられないぞ」と向かない人もでてきます。

メンバー交換は日常茶飯事です。

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恐る恐る車輪にエネルギーを伝えてみます。そろり、そろり、動き始めました。舵もおぼつかない状態ですが、動くことが証明できました。方向を決めて動き始めます。場所が変わるにつけ、雨がふったり風が吹いたりします。その場所に適応するように、幌をつけたり、それを強化したりします。設計の専門家も育ちました。

それぞれの部品はどんどんトラブルを起します。トラブルは地道にひとつひとつ対処するしかありません。プロトタイプからすでに1000項目は改善しているでしょうか。それでもまだまだトラブルは出てきます。勝負は根気です。ひたすら改善を進めながら、はずみ車を廻し続けます。そして、色々な場所に移動してみるのです。

たまにいい場所に着くと、はずみ車を廻す効率が高いことに気がつきます。効率が高まれば動きもよくなってきます。それなので適確な場所に移動して、適確な食料を得たりしながら、頑張りが続くのです。今やメンバーは家族同然、信頼感でつながっています。

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場所をうまく選ぶようになってきます。すると、はずみ車を廻す力が外か効率的に得られるようにもなってきました。はずみ車にエネルギーを追加することで回転モーメントには加速度がついてきます。回転モーメントが蓄積されえれば移動も容易になってきます。移動が容易になればまたいい場所に進んでいくことができます。場所を選ぶのが得意な人も現れてきます。

場所が変われば土台から強化しなければいけないようなことも発生します。でも、ノウハウは段違いに構築できています。改善すればいいのです。大きな方向転換も必要によっては実施します。この装置で進んでいくことができるという実感がすでにあるからです。

以上、製品開発ってこんな感じかなと、個人的な見解ですが思っています。コマのようなアイディアが実際に市場に出るときにはまるで違う姿になっていっている、そんなことが実感されている体験をしています。

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