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「ワクチン臭」の正体を探る(前) ~「嗅覚センサーを見直そう」番外編~

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SNSで「ワクチン臭」という言葉が独り歩きしている。
ワクチンを接種したヒトから、異臭がするという。
「ワクチン臭」は、あるのか、ないのか。あるとすれば、それは何なのか。
香害による異臭が渦巻くこの国で、ヒトが発するニオイを判別できるのか。

ストレス下で放出される、ニオイ物質

コロナ禍で、生活様式は一変した。
帰省できない、見舞いに行けない、慣れないマスク。オンラインの時間が増え、物理的距離も心理的距離も変わった。
そしてワクチン。副反応で発熱するほどの強力な薬剤だ。

個体が耐えうるストレスの限界を超えれば、人体は、平時以上のニオイを放つようになる。いわゆる、ストレス臭と呼ばれるものだ。
その主な物質は、ジメチルトリスルフィド、アリルメルカプタンである可能性が高い。

ジメチルトリスルフィド(dimethyl trisulfide, DMTS)のニオイは、ショウダイオオコンニャクに例えられる。
東京大学大学院 農学生命科学研究科のプレスリリース「世界最大級の花ショクダイオオコンニャクが放つ特異臭気成分を特定」によれば、この花は、「開花時に腐った肉のような強烈な臭気を放つ」そうで、 「匂い嗅ぎガスクロマトグラフ分析で臭気への寄与が強く示唆されたジメチルトリスルフィドや、浸潤性癌の患部が持つ臭気と非常に良く似たパターンを示す」という。

このようなニオイを放つ物質が、人体でも発生する。

静岡がんセンターによる「茶の香りを活用した医療現場でのにおい対策と心の癒し」の研究。これによれば、病臭の原因は二つある。ひとつは「異なる代謝物が生成される」こと。もうひとつは、「組織の壊死」だ。主要なニオイ物質は、トリメチルアミン、ジメチルトリスルフィドだ。ほかにも多くの成分があるという。(PDF、P.382参照)。
緑茶蒸留液は,ジメチルトリスルフィドを「有意に減少させた」(P.385参照)。

もうひとつのストレス物質、アリルメルカプタン(allyl mercaptan, AM)は、ニンニク臭だ。

発生源は、皮膚と、移臭したアンダーウェアか?

ジメチルトリスルフィド、アリルメルカプタン、この2つの悪臭物質は「STチオジメタン」と呼ばれている。
名付け親は、デオドラント製品も開発している資生堂だ。同社のプレスリリース「緊張によるストレスで皮膚から特徴的なニオイが発生することを発見」に詳しい。
さらに、「他人のストレス臭をかぐと、緊張やストレスが伝染する」というから厄介だ(ニュースイッチ by 日刊工業新聞社)。ビジネス界隈の「自分の機嫌は自分でとれ」という言葉の真意は、ひょっとしたら、ストレス物質を放出するな、ということか。なんとも難しいことである。

これらの物質は、皮膚から出るだけではない。着用しているアンダーウェアの移臭も発生源となる可能性がある。
PATM(ペイティーエム、People Allergic to Me)という疾病に共通する部分があるかも?しれない。

「室内環境」2018年21巻1号(J-STAGE)によれば、この疾病では、「皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が 」多く検出され、「ヘキサン,プロピオンアルデヒド,トルエンなどが着用の肌着からも検出された」。 これらの物質により、周囲にいる人に、アレルギー反応を引き起こすことがあるという。

体臭のモトは、STチオジメタン(ジメチルトリスルフィド+アリルメルカプタン)だけではないようだ。
ストレス下でも、トルエン、キシレン、ヘキサン、プロピオンアルデヒド、ノナナール(酸化臭)、インドール(便臭、低濃度では花の香り) などが多く発生しているかもしれない。

「ワクチン臭」という言葉で表現されるニオイ。
その正体は、「コロナ禍+ワクチン追い打ち、ストレス臭」ではないだろうか。

誰でも感知する、含硫黄化合物のニオイ

スルフィド類や、メルカプタン類の含硫黄化合物は、液化天然ガス、都市ガス、LPガスの、漏洩検知のためのガス着臭剤 として使われているという。つまり、この悪臭は、嗅覚がとくべつ鋭敏でなくとも、誰でも感知する可能性がきわめて高い。

Sが3個の、ジメチル「トリ」スルフィド(dimethyl trisulfide, DMTS)。
Sが2個の、ジメチル「ジ」スルフィド(dimethyl disulfide、DMDS)。
Sが1個の、ジメチルスルフィド (dimethyl sulfide, DMS) 。

ジメチルジスルフィドのニオイは、刺激性で、ニンニクに似た硫黄臭、食品が腐ったニオイ、ゴミのニオイ、と言われる。ジメチルスルフィド(ジメチルサルファイドとも表記)は、口臭の原因の一つでもある。口臭は、唾液の分泌量で変わるそうで、舌苔も関係するという。厚労省 e-ヘルスネット「口臭の原因・実態」に詳しい。

ちなみに、科研費研究「天然由来の温度感受性TRP受容体アゴニストとアンタゴニスト」によれば、クサイ果物の代表である、ドリアン。その香気成分は、ジ「エチル」スルフィド、ジエチルトリスルフィド (diethyl sulfide, diethyl trisulfide)で、これには、TRPA1・TRPV1活性があるという。

香害感知者たちが、ワクチン臭に気付かない事情

誰でも感知しやすいニオイなら、嗅覚の鋭敏な香害情報の発信者たち、とくに化学物質過敏症者たちにとっては、さぞかし悪臭にちがいない。
ところが、「におったことがない」と言うヒトが少なくない。ワクチン臭について懐疑的な声すら聞かれる。
なぜ、このような現象が発生するのか?

あたり前のことだが、いくら嗅覚が鋭敏でも、ニオイの発生源に接近して、ニオイ物質を吸い込まなければ、感知することはない

多数の人が集まる場所には、香害が充満する。そのような場所では、彼らは通常、サージカルマスク以上の高性能マスクを装着する。
砕ければナノサイズにもなる香害由来の物質の方が、STチオジメタンよりも、マスクを通過しやすい。高性能のマスクを装着しているほど、香害由来の物質をより感知することになる。

それ以前に、すべての接種者が、ニオイを発しているわけではない。ストレスが許容範囲なら、体臭に大きな変化はないだろう。
たとえば、我先にと予約して、副反応の少ない高齢者の場合、接種はストレスになるだろうか。

また、職種による、ニオイの解釈の違いもある。医師や看護師や介護福祉士たちは、人体が発するニオイを嗅ぎ慣れている。もし感知したとしても、彼らにとっては、未経験の異臭ではない。ニオイが強まったとしても、常識の範囲内の変化にすぎないだろう。

おそらく、もっとも感知しやすいのは、柔軟剤や合成洗剤のユーザーの集まる場所で、マスクを外しても、体調に影響のないひとたちだ。つまり、嗅覚は標準以上に鋭いが、香害による健康被害は生じていないか、まだ軽い段階のひとたちである。

そして、感知したとき、もっとも驚いて慌てふためくのは、体臭を嗅ぐ機会の少ないひとたちだろう。
在宅オンライン業務で、家族以外の人と接する機会も少なく、終日画面を眺め続けているITエンジニアは、この部類にちがいない。

合成洗剤臭が、ワクチン臭と誤解されている可能性

SNS上で囁かれる「ワクチン臭」、その言葉の指すものが体臭「のみ」であるとは限らない。
香害由来のニオイ、あるいは、香害由来のニオイも含めたニオイを、ワクチン臭という言葉で表現している可能性、なきにし もあらず。

今では、高残香性柔軟剤、柔軟剤入り合成洗剤、除菌・抗菌系合成洗剤の使用者の衣類から放たれた物質が、大気中に 残留している。人体の発するニオイだけを、明確に嗅ぎ分けることは、容易ではない。

ワクチン臭に関する情報の中には、「合成洗剤臭」に言及した情報は、わずかしかない。一方で、「柔軟剤臭」に言及した情報は目立つ。かといって「柔軟剤臭」は、どの製品も一括りの「柔軟剤臭」だ。メーカー名や製品名を特定した情報は、実に少ない。

かたや香害に関する情報はといえば、「柔軟剤臭」「合成洗剤臭」ともに、多くの情報がある。両者は、異なるニオイとして、明確に区別されている。
メーカー名や製品名まで特定して発信された情報も少なくない。
さいきんでは、合成洗剤のリスクを訴える情報が増えている。

このことから考えると、ワクチン臭の情報の中には、合成洗剤の抗菌系の異臭の情報が、かなりの割合で、紛れ込んでいるのではないか。 twitter内を検索したところ、次のような結果も得られている。(本稿執筆時点)

「ワクチン臭」と「柔軟剤」両方の文字列を含むツイートは、多数ある。
「ワクチン臭」と「洗剤」を含むツイートは少数で、ほぼ香害啓発者によるもの。
「ワクチン臭」と「抗菌」を含むツイートは、香害啓発者によるものだけである。
「ワクチン臭」と代表的な抗菌系洗剤4種類の「製品名」を含む結果は数件で、香害啓発者によるものだけである。

以前「日用品公害(前)/『香害』を超える『日用品公害』の脅威」で述べたように、柔軟剤の香りは感知しても、抗菌剤のニオイは感知しないという個体が少なくなかった。そこで、香害啓発者のあいだでは、「香害」の上位概念として「日用品公害」という言葉が発案された。上記の検索結果は、それを裏付けた格好だ。

ところが、コロナ禍で、状況が一変した。手洗いや消毒が推奨されるようになり、除菌・抗菌のニーズが高まった。これに呼応するように、複数のメーカーが、抗菌剤の配合量を増やした新製品を相次いで発売している。
そのニオイたるや、これまで人類が経験したことのない強烈な合成化学臭である。
殺虫剤のスプレーを顔めがけて噴射したような、衝撃的な刺激臭を放つ。
この強化された合成洗剤臭に、これまで感知しなかったひとたちも、気付き始めたのではないか。

製品ライフサイクルは短くなり、複数の合成洗剤の発売時期と接種時期が重なり合う。
合成洗剤の異臭を感知したひとが、相手に接種状況を尋ねると、接種済みだという。SNSでは、ワクチン臭なる言葉が目に付く。これまで嗅いだことのない異臭。きっとこれが、そのニオイに違いない―――といった早合点が起こりうる空気事情だ。

香害が、「ワクチン臭」と呼ばれるニオイの特定を阻んでいる。

物品移香や人気のない場所での異臭は、香害の可能性大

コロナ禍で増えたのは、合成洗剤臭だけではない。
癒し効果のニーズに呼応するように、新しい香りの柔軟剤も発売されて、もはや、カオス。
抗菌臭や消毒臭のうえに、合成香料、そのうえに、変化した体臭。ミックス悪臭による大気汚染。

これまで香害をやり過ごしてきたひとたちが、クサイ!と叫び、人体や物品への移香に気付くのも無理はない。
集団接種会場など香害の渦巻く場所に、短時間でも滞在しようものなら、移香をそのまま自宅へ持ち帰ることになる。

柔軟剤の香りは、付着すると、ほぼ、そのままのニオイを放つ。
一方、除菌・抗菌系の合成洗剤に含まれる物質は、付着すると、刺激のある、生暖かいニオイに変わる。衣類へ移香した場合、洗濯を繰り返した後には、タバコがくすぶったような、熱した樹脂のような、野焼きのようなニオイが残る。

柔軟剤の香りも洗剤の抗菌臭も、大気中に滞留する。筆者が感知した最長不倒距離は、2019年夏の時点で100mを越え、いまや200mだ。住宅街の路地を、抗菌臭の巨大な空気のカタマリが、ゆっくりと移動している。
香害啓発者のブログ「無香料生活」を読めば、2018年4月時点で山も柔軟剤臭に満ちていたことが分かる。
これらの現象は、コロナ禍以前からあったものだ。接種が始まってから出現した現象ではない。
いまでは、「無人状態の八溝山天然林でもマイクロカプセルが飛んでいる(2020年11月5日)」という緊急事態だ。

物品への移香や、人気のない場所での異臭を感知したのであれば、香害の可能性がきわめて高い。

高残香性柔軟剤や抗菌系合成洗剤のニオイがワクチン臭と混同されることを、筆者は危惧する。なぜなら、消臭のために、柔軟剤や合成洗剤がさらに消費され、悪循環に陥るからだ。
ワクチン臭は時間とともに減衰するが、それら日用品の成分は環境中に蓄積する。両者を区別して、日用品公害を止めなければ、大気汚染はさらに進む。

嗅覚を維持するために、無臭の空気を取り戻そう

優れた嗅覚センサーをもつ医師や看護師は、ニオイで疾病に気付くという。
これを「嗅診」という。

逆に、ニオイを全く感知しない個体もある。ニオイに疎い個体もある。ヒトの嗅覚は千差万別だ。
早期発見の確率を上げるために、他の生物の嗅覚を借りる研究が進む。線虫はガンを嗅ぎ分けるという。日本医科大学による 「がん探知犬」の研究もある。

健康状態の変化に、いちはやく気付くには、自身や身近な者の嗅覚を研ぎすませる方がよい。

だが、その嗅覚の精度を、香害は破壊する

ウィルスを排除するために、除菌・抗菌製品。体臭が気になり、防臭・消臭製品。香りに癒されたいから、それがマナーだという誤解から、高残香性柔軟剤。
その結果はといえば、抗菌・除菌・防臭・消臭の成分と、香料の拡散。
使えば使うほど、汚染される大気。ヒトの嗅覚は鈍っていく。

化学物質に依存してはいないか。
掃除・洗濯の方法を見直す必要があるのではないか。
シンプルなメンテナンスに、高い価値を見出す暮らし。それが健康の礎となる。
それでも病に倒れたら、そのときは、科学技術を頼ればいい。
科学技術の発展と、自然回帰。どちらか一方に偏るのではなく、バランスを考えて、できるだけ環境汚染に加担しない製品を選ぼう。

ここに書いたことは、あくまで、筆者が自分の嗅覚を頼りに探り当てた情報でしかない。本稿の情報を、これからの健康維持に、どう役立てるかは、読者の皆さまの活用方法次第だ。

次回、後編では、筆者の感知した異臭が「ワクチン臭」と結びついた経緯について。

おことわり:本稿は「ワクチン臭」という「ニオイ」をテーマとするもので、「接種の是非」についての記事ではありません。誤解を招くリスクを避けるため、作為的な情報の切り取りは控えてください。大意の把握をお願いいたします。

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