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ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

日用品公害【前】機器が壊れる、ヒトが壊れる ~嗅覚センサーを見直そう(19)~

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身近な日用品に含まれる化学物質が、大気汚染や海洋汚染を引き起こす。その環境中にある機器やヒトは曝露のリスクに晒される。
気付かぬうちに、蝕まれる日常。
新型コロナウィルスに力を奪われつつあるこの国に、日用品公害が忍び寄る。

技術革新を進める前に、故障リスクを否定せよ

起こりうる、ハードウェア・トラブル

本ブログ第12回「ITエンジニアが香害問題を知るべき、2つの理由」で述べた、考えたくもない未来。

その冒頭で、回路設計エンジニアであるg-horibata氏のブログを紹介した。オーディオアンプのボリューム内部に、柔軟剤の香りカプセルが侵入した一件を綴った、怖いことへの前奏曲かも 芳香性柔軟仕上げ剤(2018年11月14日10時28分公開)g-horibataブログ」である。

その同氏のブログに、「基板屋の倒産が相次ぐ事態に!」という記事がある。その中には、さらに驚愕の情報が綴られている。

記事自体は、IT業界用語でいうところの、「オッサンホイホイ」だ。
技術革新による業務変化については、プリント技術が進化を遂げた何年も前から言われていたことであって、むしろ、2年前までフィルムが生きていたことに感慨さえ覚えるものだ。

問題は、本題の業務変化ではない。記事の末尾で触れられている、部品の故障についての記述である。

「接点部品は国産品が入手が困難になってきたですし、香り柔軟仕上げ剤の機器内部侵入で『接触不良事故』も多発するようになりました。(引用、原文ママ)」

「多発」しているというのである。

筆者自身が、機器の故障を確認しているわけではない。詳細を問い合わせることも考えた。が、ほかの記事を拝読すると、g-horibata氏は現在闘病中とのことで、見合わせている。

そこで、他力本願で申し訳ないのだが、もし日用品が原因とおもわれる事故部品に遭遇した方がおられたら、ブログやtwitterなどで発信していただけるとありがたい。

事は重大だ。エンジニアなら分かるはず。たったひとつの部品にも、社会基盤を揺るがすリスクがあることを。

出荷される機器は、安心安全なのか?

g-horibata氏が経験されたトラブルは、完成品への侵入、部品への付着、というふたつのケースである。
これ以外にも、いくつかのケースが考えられる。

ひとつは、製品梱包時の付着である。
完成品にせよ部品にせよ、梱包を担当するスタッフの身体や衣類から付着するケースだ。第16回で紹介した、新品炊飯器の「外ではなく中に移香」していた例も、これに該当するものと考えられる。

そのような事態を回避しようにも、経営者が、従業員の使う日用品まで管理することは難しい。
アンダーウェアも含む全衣類を支給するとしても、従業員数が多ければ、費用がかさむ。中には、プライベートへの侵襲に異を唱えるスタッフもいるだろう。
仮に合意を得られたとしても、髪や身体に付着した物質の影響を、完全に排除できるとは限らない。
ひょっとしたら、クリーンルームでの製造工程でさえリスクを避けられないのでは?と、訝しんでしまう。

もうひとつは、梱包よりも前の付着である。

新品、中古問わず、パソコンの不具合に関する報告が、SNS上に散見される。
移香した住宅内で使用したパソコンのファンから香料が拡散した、中古パソコンの内部から移香が漂ってきた、キーボードのキートップがべとつく、などなど、少なくない嘆きの声がある。

筆者自身、柔軟剤スプレーのユーザーの来訪があったころは、移香除去に苦戦中の衣類を干した居室で、ノートパソコンを使っていたところ、キーがべとつく現象に戸惑った。VDT労働をして30年以上になるが、こんなことは初めてだ。

出荷前のテストや設定時に、スタッフの衣類や手指から端末に付着する可能性を、完全に否定できるだろうか?

さらに、製品の原料そのものへの付着、というより、混入も、考えられるのではないか。
なにしろ、海水から作られた塩に、マイクロプラスティックが含まれている時代だ。
製造に必要な物質のみ抽出するのであれば問題は軽微だろうが、不要な物質を除去する方法ならば多少の不安が残る。この分野に関して筆者は門外漢であるので、杞憂であることを祈りたい。(ただし、それが機器ではなく食品ならばありうる。食材そのものへの混入を疑うツィートはしばしば目にする。)

故障リスクの否定は、低レイテンシ推進に先んじる

IoTの時代、あらゆる機器が、ネットを介して制御される。
そして、回線の高速化により、瞬時に信号は伝わり、命令はリアルタイムで実行される。ヒトに気付く間も与えないほどに。
レイテンシがゼロに近づくほど、トラブル対応の難易度は増す。「安定稼働」という四文字は、数年前とは比べものにならないほど重みを増している。機器の故障リスクを否定しておく必要があることは、いうまでもない。

それだけではない。台風は大型化し、豪雨は都市部をも襲い、地震や噴火が各地に迫る。機器の設置場所の気温も変わる。
自然の猛威の前に、ヒトはあまりにも無力だ。たとえば令和元年房総半島台風によって倒れた、千葉県の信号機や電柱。その1枚の写真は、起こりうる未来を内包している。そのような混乱のなかで、さらに、原因を特定しにくいトラブルまで発生する事態は避けたいところだ。
全国各地で天災が同時多発したときには、ハードウェアとソフトウェアの両面でエンジニアの供給が追い付かなくなる可能性がある。単発の故障で単独の機器が停止するにとどまらず、対応が追い付かないがために、単発の故障が多重トラブルを引き起こす可能性を懸念する。たとえていうなら、コード中の一か所のバグが関連する複数の処理に影響をおよぼすかのごとく。

この問題は、第14回で述べた、プラスティック削減と商品包装の問題に似ている。
プラスティック削減のために食品包装の簡易化や廃止を推進すると、移香が食材に直接付着して、食の安全性を損なうことになる。したがって、香害問題の解決は、プラスティック削減に先立つ。
同様に、機器の故障の原因となりうる日用品からの物質の付着問題の解決は、低レイテンシの普及に先立つ。高速エリアを全国津々浦々に拡大するよりも先に、この国の大気事情を、すくなくとも高残香性製品発売前の状態に戻すべきだろう。

最新科学技術の「迅速な」研究開発は、多大なベネフィットをもたらす。それは強引にでも推進する必要がある。しかし、「拙速な」民間への導入は、長期的に見れば、リスクを増大させて、ベネフィットを帳消しにしてしまう可能性が高い。これは慎重に検討する必要がある。
IT業界は、拙速を戒めつつ、迅速に動く姿勢を持たねばなるまい。なにごとでもゼロリスクは不可能、とはいえ、ゼロに近づけるアイデアと試みは必要だ。

利便性と短期的な利益を追求するあまり、考えられうるリスクから目をそらす姿勢は、長期的には、IT業界のみならず、この国の、ひいては人類の、利益を遠ざける。維持管理を軽視した設計は、後年、必ずトラブルを引き起こす。そのとき、昼夜問わず対応するのは、現場のギークたちであって、スーツではない(ギークスーツなら助っ人に早変わりするけれども)。そして、現場には疲弊が蓄積し、閾を超えれば崩壊する。COVID-19と戦う医療や介護の現場で起こっていることを、なぞるように。

方針を決定するスーツは、過去のトラブルシューティングに学ぶべきであろう。

「香害」を超える「日用品公害」の脅威

「におう」の概念が揺さぶる、ディスコミュニケーション

先に紹介したg-horibata氏の記事では、部品から「フレグランスな香り」がしたことにより、機器内部への柔軟剤の侵入に気付いたとある。 ではもし、香らなかったら......?

機器への物質の付着に、気付くことができるだろうか?
もし、気付くことができず、そのまま使い続けたとしたら、どうなるだろうか?

第14回に書いたとおり、昨夏から、環境中の香りが一変している。
人工香料の「香り」は薄れ、「化学薬品臭」―――除菌剤を鼻に集中噴霧したかのごとき刺激臭で、移香した衣類を洗濯した後には燻したような野焼き臭に変化する―――が席巻している。
SNSを見る限り、筆者の住む地域だけではなく、全国的な傾向のようだ。

この化学薬品臭は、「香らない」。
だが、「におう」。

困ったことに、すべてのひとが、この化学薬品臭を感知するわけではない。一部のひとは「におう」が、感知できないひともいるのだ。あらゆる感覚器には個体差がある。嗅覚も例外ではない。
そのにおいを発生させているのでは?と筆者が見当をつけた商品について(それが筆者の見当違いで、同種のほかの商品が原因だという可能性もないとはいえないが)、Amazonでのコメントを閲覧する限り、感知するひとは、おそらく3割程度。感知はするが気にならないひとが2割。感知しないひとが半数、といったところだろう。
これは、購入者に限定しての割合なので、「感知するから購入しない」ノンユーザーも含めれば、感知するひとの割合は、もう少し多いかもしれない。

感知しないひとに、におう現象を伝えることは難しい。

どうにかして伝えたいのだが......次のようなたとえなら、イメージできるだろうか。

プログラムのレビュアーが、コードを一瞥しただけで、「におう」と直感する行がある。そこには、バグが潜んでいる。
コードは香ったりしない。だが、レビュアーは、そのコードに潜む、バグの存在を感知しているのである。
それを「におう」と表現する。香りはなくとも「におう」のだ。

これに似て、嗅覚センサーの機能するひとたちが「におう」と表現するとき、周りの大気中には、得体のしれない物質が漂っているのである。
端的に言えば、「わかるひとには、わかる」ということだ。

問題は「香り」のみにあらず

「香害」ということばが、広く知られるようになってきた。これは、人工香料による被害を「公害」の音にかけて表現したものである。普段何気なく使う日用品にもリスクがあることを知らしめるには、大きな役割を果たした。

ところが、香る製品に加え、「香らないけれども、におう」製品の消費が、拡大している。
香らない製品に起因する問題を、「香害」とは呼びづらい。しかしながら、大気中に漂う物質による被害であるから、「公害」ではある。

この1年余、SNS上では、「香害」に代わることばが模索されてきた。
そして、「日用品公害」という言葉が用いられ始めている。使いやすい言葉だと評価する声がある。

この言葉については、「日用品公害(旧・香害)にNO!」さん、「mtn」さんに、ご教示いただいた。おふたりのtwitterも参照されたい。

筆者は、「日用品公害」という言葉を、「香害」の上位概念として捉えている。

「香害」は、高残香性柔軟剤、柔軟剤入り洗剤、香水、化粧品、ハンドクリーム、染髪料、芳香剤、ヘアケア製品など、人工香料を含む製品によって引き起こされる。
「日用品公害」は、それら香る製品だけでなく、除菌・抗菌・消臭・防臭等を目的とする高機能性日用品、スプレー類、殺虫防虫剤、煙草とその代替品、その他、廃棄時に有害物質が発生する製品などでも、起こりうる。

また、乳幼児が口にすると危険な素材の玩具、ベビー用品、食品に物質が漏れだす危険性のある素材を使った食器やカトラリー、屋外で使用する風化しやすいプラスチック製品、なども含めることができると考えられる。

「日用品公害」は、包含するものの多い、汎用性の高い言葉である。
このようなことばを使わなければならないほど、われわれは、自らの手で生み出した化学物質に囲まれて暮らしている。

におわない、だからこそ、おそろしい。

「香害」ということばには収まらない、「日用品公害」。その社会的影響は甚大だ。
しかしながら、前述のように感知しないひとが少なくない。そのため、この問題の重篤性は見過ごされてきた。
いまや、くだんの化学薬品臭は、衣類、日用品、消耗品、紙幣、事務用品など、あらゆる物品に付着するまでになっている。

感知するひとたちは、「におう」と口々に叫ぶ。口を酸っぱくして、解決策を訴えている。においの中に、リスクを読み取るからだ。筆者も、感知するから、このようなブログを書いている。

感知することができずとも、想像力でカバーして理解するひとはいるが、ごく少数だ。
におわないひとたちの多くが、におうとは大仰な、と言う。どれほど熱心に訴えても、伝わらぬ。目の前に迫るリスクに気付かない。
それ以前に、気付こうとしないひとたちもいる。耳を傾けない。気付くことを避ける。

再度、問う。機器への特定の物質の付着に気付くことができず、かといって、気付くひとたちの警告もスルーして、そのまま使い続けたら、どうなるだろうか?

いずれ、無香の製品が徐々に増えていき、香害問題は、終息に向かうだろう。だが、「香らないけれども、におう」物質が含まれる限り、日用品公害の問題はなくならない。香らなくなれば万々歳、ではない。日用品公害の問題は、むしろ、水面下で深刻化していくのである。

((故障した機器を直す)技術者)が故障する、というリスク

視力を失いたくないなら、自衛せよ

厄介なことに、故障するのは、機器だけでない。ヒトも壊れる。

それは、コロナ禍のなかで、患者を治療するはずの医療関係者が倒れるようなものだ。同様のことが、IT業界でも起こりうる。
トラブルに対応するはずのエンジニアが次々と倒れたらどうなるか。トラブルは放置されることになる。
日用品公害の身体への影響は、ある日突然、現れるという。そして、あれよあれよという間に、体調は悪化していくという。これでは引き継ぎすら、できやしない。

おいそれとパーツ交換のできない人体。機器の故障以上に、社会への影響は甚大だ。

「(香害を含む)日用品公害」による不調を訴える声は、ウェブやSNS上にあふれている。それらの情報を見る限り、故障する箇所は、身体のあらゆる部位におよんでいる。
皮膚炎、めまい、嘔吐、咳、腹痛、頭痛などなど。ひとつの症状が現れるのではない。複数の症状が同時多発的に生じる。
人体のセキュリティホールともいうべき、それぞれの個体の脆弱な部分を突いてくるようである。

そのリスクが、視力に及ぶとしたら、ITエンジニアは、平然としていられるだろうか。

昨夏、筆者は、家族への訪問者がもたらす日用品公害の影響を危惧した。そこで家族に、「化学物質が視力に影響を及ぼす。目はマスクでは防げない。直接引っ付く。角膜をやられてからでは遅い.....」と、SNSのメッセージで警告した。
それから1週間後、家族は眼科へ駆け混むことになった。角膜が剥がれたという。さいわい1週間ほどの点眼治療で済む軽症で、完治した。
原因が日用品公害であると診断されたわけではない。そもそも家族は化学物質のリスクを軽く捉えており、室内の空気の状況を眼科医に伝えていない。
この記事の読者に眼科医の方がおられたら、原因不明の疾病については、患者の生活環境にも注意してみてください。

傷つくのは、角膜だけではない。
たとえば、目の周りが腫れる、まぶたが下がるなどの症状が確認されている。これについては、裏付けがある。出所は、2014年のジャーナルだ。化学物質曝露による眼瞼下垂の写真が掲載されている。
随伴症状もある。「呼吸困難と同時に右顔面が下がり麻痺する。口角からよだれがでて呂律が回らなくなり、座っておれず倒れる。口の中はしびれて痛くなり、頭痛、吐き気、下痢も出現する」とある。

このPDFは公開されている。「皮膚科領域におけるアレルギーと環境因子ー化学物質過敏症への環境医学的アプローチとその皮膚症状について―」
全国でも数少ない化学物質過敏症を診断できる医師、ふくずみアレルギー科 吹角隆之 医師によるものだ。「JStage」は、ダイレクトリンクが不可であるため、閲覧したい読者は、タイトルで検索して、図3を参照してください。

このような症状が現れて初めて、使用製品を見直したのでは手遅れになる。寛解するとしても、時間がかかる。IT業界の秒速で進むプロジェクトにおいて、工期の見直しにつながりかねない疾病は命取りだ。
なにより、こうした症状を抱えて、ベストパフォーマンスを発揮できるはずもないだろう。

特定の化学物質が、総IgE値を押し上げる?

化学物質曝露による人体リスクには、アレルギーと、化学物質による慢性的な中毒症状(≒化学物質過敏症)がある。両者の機序は異なるが、症状には共通する部分もある。

スギ花粉症などのアレルギー検査を受けたひとは、「IgE値」を意識したことがあるだろう。即時型のアレルギーに関与する数値である。

「総IgE値」を、イソシアネートという物質が押し上げている可能性が疑われている。
2019年6月23日、北里大学で開催された日本臨床環境医学会において、かくたこども&アレルギークリニック 角田和彦 医師が、「イソシアネートのIgE値と総IgE値は相関係数0.86と高い相関がある」と発表しているのだ。
「日本臨床環境医学会(2019年6月23日、北里大学) 「猛毒物質イソシアネート(ウレタン樹脂やウレタン塗料の原料)汚染が広がっている」(2019年8月20日)かくたこども&アレルギークリニック 角田和彦」
また、角田医師による「人工香料とマイクロカプセル(2019年1月11日公開、5月23日追加)」も参照されたい。

イソシアネートは、近年、産業用途以外でも広く使用されている。米国では、プロユースの商品を使う一般消費者に対して、安全シートや技術製品情報を確認するよう呼び掛けているが(第7回を参照)、我が国では、一般消費者への注意喚起がなされているとは言い難い状況である。
この物質、しばらく前までは、香料を包むマイクロカプセルへの使用が囁かれていた。SNSや個人ブログ、書籍には、検出の事例も掲載されている。

が、最近は使われていない、ほかの物質に置き換わったのでは......とも言われている。その実態は、あきらかではない。
消費者には分からない。もちろん筆者も分からない。
日用品には、業界団体の自主基準はあっても、詳細な成分の開示義務がない。独立行政法人国民生活センターの公開資料によれば、日本と海外では成分表記も異なるとのこと。

つまり、現行製品の詳しい内容までは、知りようがないのである。そのため、開示をもとめる声が日に日に高まっている。
これについては、日経BP「NIKKEI STYLE]」の記事に詳しい。「自治体で『香害』対応進む 成分開示や基準求める声(2020年2月16日)高橋元気」

特許公報の中に光明をもとめて、丹念に読み解いているひとたちがいる。そこには、子どものおつかいでも買える日用品に使う必然性などない、首をかしげてしまうような物質名が散見される。
特許申請の主目的は権利の保護であり、公開までの時間差もある。そのうえ矢継ぎ早に新製品が出る。「現時点で店の棚に並んでいる製品が」公報通りの素材と製法で製造されているのかどうか、もしその通りでないならば、何が使われているのか、不透明なことばかりである。
日用品公害からの疾病による離職を防ぎ、わが国の貴重な労働力を失わないためにも、各メーカーの真摯な対応を期待したい。

ただし、製品仕様として公開されている物質については、調べることができる。本稿末に、参考になるURIを記載した。自分の使っている日用品に含まれる物質名を検索してみればよいだろう。

日用品とCOVID-19の悩ましい関係

日用品の過度な使用が、呼吸器を弱める可能性

化学物質の曝露では、皮膚接触、飲食、吸入の、経路によってその影響が異なる(本ブログ過去記事も参照)。

たとえば前掲のイソシアネートは、吸入による影響の大きい物質だ。
日本呼吸器学会誌「イソシアネートによる過敏性肺臓炎,気管支喘息の 1 例(日呼吸会誌 41(10),2003)」を見れば、よくわかる。同サイトの規約による書面による許可を得ていないためリンクはしないが、タイトルで検索すれば公開情報を得られる。
また、J-Stageの日本胸部疾患学会雑誌にも、「イソシアネート (TDI) による過敏性肺臓炎の1例」がある。
「イソシアネート 過敏性肺」で検索すれば、いくつもの事例の情報を得ることができる。

人工香料も、呼吸器に悪影響を及ぼす。「人工香料 過敏性肺」で検索してみればよい。
上位に表示されるサイトの中で、子育て中の読者は、こちらのウェブサイト「育児ぎゅっと抱きしめて」が参考になりそうだ(二分法に誤読せず、真意をとらえるようお勧めする)

香料のリスクについては、終了した厚生科研費の研究がある。「家庭用品から放散される揮発性有機化合物/準揮発性有機化合物の健康リスク評価モデルの確立に関する研究」だ。「結果と考察」の最後1行が物語る。高残香性衣料用柔軟剤の揮発成分の気道刺激性について書かれている。また、慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 環境化学研究室では、「日用香料品から放散されるVOCs の分析」も進められているようである。

気道や呼吸器に影響する物質は、数多くある。
イソシアネートであれ人工香料であれ、はたまたそれ以外の物質であれ、近年の日用品には、かつては使われていなかったものが含まれている。
それらは、健康増進に役立つ物質ではない。長期連用や過度な使用の結果も、不透明である。

すくなくとも、生きていくために必須でない物質であることだけは確かである。つまり、不要不急の物質といえよう。
そのような物質を、生活の中に積極的に取り込むことに必然性はあるのか。
「使わなければならない」という思い込みに、支配されているのではないか。
その義務感は、誰の考えなのか。自分の考えなのか。誰かから、もたらされた考えではないのか。

なお、問うべきは、健康の面だけではない。
安価ではあるが支出ではある。ラテマネーだと言えなくもない。10年20年使い続ければ、結構な額になる。
しかしながら、おそらく、コロナ禍で収入が減った世帯でさえ、家計見直しの対象品目に含めていない場合が少なくないのでは、と推察する。

除菌で安心、それとも、除菌は危険?

サッと投げ入れ。スッと一拭き。シュッと一吹き。防臭、消臭、除菌、抗菌。われわれは、どれだけの化学物質を使えば安心できるのだろう?
身近にCOVID-19の恐怖が迫るなか、「これさえ使っていれば安心」という製品をもとめたくなる心理になるのは仕方ない。
が、しかし、その意識が高じて、われわれの衛生観は、バランスを欠いているのではないか。

日用品公害を引き起こすといわれる物質の中で、昨今取りざたされているのが、第四級アンモニウム塩だ。
除菌効果が期待できるかどうか不透明な一方で、使用方法次第では身体にダメージを与えるという。
環境表面におけるコロナウイルスの持続活性と、消毒薬によるその不活化(J Hosp Infect. 2020;104(3):246-251 vol.40)監修 山形大学医学部附属病院 森兼 啓太、ケンエー海外論文 Pickup、健栄製薬」や、「除菌・消臭スプレーは人体に危険!皮膚腐食や筋肉麻痺・中枢神経抑制の恐れ(2017年5月31日)渡辺雄二、食にまつわるエトセトラ、Business Journal」を見るかぎり、ベネフィットとリスクを天秤にかければ、積極的な使用には首をひねりたくなる物質である。

また、次亜塩素酸ナトリウムも、利用方法によっては、アレルギー性肺胞炎になる危険性があると言われている。「『肺に白い影』医師も驚愕...原因はまさかの"過剰コロナ対策(4月21日配信)」これは、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム消毒液の例である。(※配信元へのリンク許可の詳細が見当たらないため、Yahoo!ニュースへリンクしている)

大気中のマイクロプラスチックを研究している、早稲田大学・大河内研究室によれば、「過剰な使用は、アレルギー性肺胞炎になる危険性。次亜塩素酸ナトリウム(水溶液)は細胞膜、タンパク質、核酸に酸化的損傷を与えて殺菌(2020年4月22日ツィート)」とのことである。使用にはじゅうぶんな注意が必要だ。

さらに、「クレベリンゲル」など10商品も、空間除菌に有効とばかりに、使用するひとが後を絶たない。複数の日用品によるダメージの上塗りとなっている。その効果に、疑問符が付いているにもかかわらず、である。
空間除菌」根拠なし 消費者庁、17社に措置命令:日本経済新聞(2014年3月27日付)」「 独立行政法人 国民生活センターによる情報

COVID-19は、血管壁を痛めるのはもちろん、呼吸器系統にもダメージを与えると言われている。
日用品公害で呼吸器を痛めたうえに感染してしまったら、二重の苦しみを負うことになってしまう。
この時期に、呼吸器にダメージを与える可能性のある日用品を積極的に使用すると、本末転倒になりはしないか。

嗅覚センサーの機能している「におう」ひとたちは、重複使用による生体リスクを危惧している。

ところが、清潔志向に拍車のかかるこの状況下で、 経済産業省と製品評価技術基盤機構(NITE)が、界面活性剤によるウィルスの不活性化の有効性に言及。また、北里大学大村智記念研究所は、日用品による不活性化のテスト結果を発表。さらには、使い方まで指南している。
次に発表資料を挙げておく。
新型コロナ、台所用洗剤で消毒可能? 専門家ら検証へ(2020年4月15日)日本経済新聞」
医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について(2020年4月17日)北里大学」
新型コロナは『市販洗剤でも消毒できる』と判明...実生活での注意点を北里大学に聞いた(2020年5月4日)FNNプライムオンライン、msnニュース」

エタノールが入手しにくい中で、このタイミングでの公的機関や大学の情報ともなれば、消費者の心は吸い寄せられる。しかも、テストに使われた製品はどれも簡単に手に入るものばかり。とりたてて深く考えることなく使う気にもなるだろう。

だが、一呼吸おいて、情報を精査してみてほしい。
経産省も北里大学も、消毒効果が期待できる市販製品を対象として、ウイルス不活化を評価した結果を述べているだけである。ウィルスの不活性化というベネフィットを伝えてはいるが、製品に含まれる物質を吸入することのリスクには触れていない。使うかどうかは、ベネフィットとリスクを天秤にかけて判断すべきであろう。

メーカーにとっても、新型コロナウィルスの除去は、製品企画段階では想定していなかったであろう用途にちがいない。
P&G Japan 公式サイトの「使用方法・保管方法」には、次のような回答が掲載された。「消毒や殺菌を目的とした製品ではなく、その効果も確認できておりません。」「マスクへのファブリーズのご使用はおすすめできません。ご遠慮ください。」

メーカーに直接問い合わせてみたという記事もある。
「(コロナ対策としての使用はおススメしておりません」という回答だったとのこと。ファブリーズやイソジンは新型コロナ予防に効果はあるのか」(3月25日配信) 日刊ゲンダイ」。
ただし、この記事では、そうした日用品の消費を肯定しているようにも読める。使うべきか、使わざるべきかーーーウェブ上の情報を見れば見るほど、消費者の悩みは深くなりそうだ。

界面活性剤を含み、安く、簡単に、手に入る日用品といえば、おそらく合成洗剤を思い浮かべるひとのほうが、マジョリティだろう。前述の北里大学での研究に使われた製品は、そうした消費者のニーズを反映している。

そこには、せっけんの四文字はない。「手洗い用せっけん液」「固形せっけん」「せっけん洗剤」も、該当するにもかかわらず、だ。そして、せっけんには、リスクと呼べるほどのリスクはない。つまり、ベネフィットとリスクを天秤にかけると、ベネフィットの方がはるかに大きいのである。

次に、せっけんの効果に関する記事をあげておく。

消毒はせっけんでOK、漂白剤よりいい理由とは、新型コロナ対策(3月23日配信)ナショナル ジオグラフィック日本版」
なぜ、石鹸はウイルスに効果的なのか?(3月28日配信)ライフハッカー[日本版]」
コロナにも? 自然素材石けんは合成洗剤の「1000倍のウイルス破壊力(2020年5月1日)」山根一眞、講談社」

企業はニーズを満たすよう研究開発を進め、商品を提供している。研究者は、実情に沿った研究を行う。
その姿勢自体は、何ら間違いではない。

ところが、それらの商品によって、苦しむひとたちがいる。
それは、われわれ消費者のニーズが誤っている、ということを意味するのではないだろうか。

ウィルスの拡散を、マイクロカプセルが手助け?

現行の日用品で懸念されるのは、含まれる合成化学物質だけではない。ナノテクノロジーという厄介な問題がある。
小さすぎる物質をトレースすることは難しい。気付かぬうちに、環境中へ拡散し、長く滞留する。昔の香水や日用品に比べ、その影響の大きさは桁違いだ。

川崎医科大や国立環境研究所による「PM2・5の空気中の濃度が高まると、国内で心臓停止のリスクが高まる」という研究報告がある。
PM2.5は、2.5μm。マイクロカプセルは破裂すると、それよりさらに小さくなる。つまり、PM2.5並みかそれ以上に、吸入しやすくなるのである。そのマイクロカプセルが、健康に「全く」影響を及ぼさないなどといえるだろうか。
この危険性については、ハーバー・ビジネス・オンラインの記事がわかりやすい。
香りブームの裏で、懸念される『香害』と『マイクロカプセル』による健康被害(2019年7月17日)」鶴田由紀」
記事中で述べられているように、「人体への害は未知数」なのである。

さらに、「PM2.5は体の奥深くまで侵入して高血圧、心臓病、呼吸器障害、糖尿病を悪化」させ、「新型コロナウイルス感染症を重症化させる」という研究まである。
新型コロナの死亡率、大気汚染で悪化と判明、研究(2020年4月11日)NATIONAL GEOGRAPHIC」

PM2.5に限定されないものの、大気汚染とコロナ禍の関係についての記事もある。「大気汚染、致死率に影響か コロナ感染、欧米で調査(2020年5月3日配信)共同通信」

「におう」ということは、日用品に含まれる何らかの微小な物質が、大気中に漂っていることを示す。そのような環境に生きるわれわれは、呼気から、微小な物質を取り込んでしまう。
そして今、大気中には、新型コロナウィルスまでもが漂っているかもしれないのである。

想像してみてほしい。もし、マイクロカプセルの漂う大気中に、ウィルスが撒き散らされたとしたら?
マイクロカプセルが、ウィルスの運び屋になってしまう可能性はないのだろうか。

前出の早稲田大学・大河内研究室の研究によれば、「この記事によると、マイクロカプセルの主成分はメラミンホルムアルデヒド、ポリウレタン、ポリウレア」であり、「都市の大気でもポリウレタンのマイクロプラスチックが検出」されているという。「これから香害の視点でも研究をすすめます. 」とのことである(2020年1月19日、大河内研究室のツィート)。
そして、ウィルスの付着したマイクロプラスティックを「大気中バイオマイクロプラスチック」と名付け、「存在しうる」と言う。 「大気中でマイクロプラとウィルスが衝突する確率は低い」としつつも、より長く遠く拡散する可能性を示唆している(2020年2月28日、大河内研究室のツィート)。

CDCの発表によれば、新型コロナウィルスは、プラスティックの表面に付着した場合、何時間かは生きるという。「プラスチックの表面では2時間以上、米当局がウイルス生存力に注目(2020年2月28日)REUTERS」
そして、マイクロカプセルは、広義のマイクロプラスティックなのだ。

日用品に含まれるマイクロカプセルの滞留するところで、無症状感染者が咳をしたら?大声で話したら?―――ウィルス単独よりも、やっかいな結果を招くことになりはしないだろうか。

弱った身体を、COVID-19が襲うとき

以上のような健康リスクは、特定の日用品の使用者のみに現れるものではない。
煙草に受動喫煙や三次喫煙があるように、日用品公害の被害は、無関係な他者に及ぶ。
そして、その数は、急激に増えているのだ。

一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センターが昨年twitter民を対象に行ったアンケートによれば、「化学物質過敏症は、ここ5年の間に爆増している」という。(参照:「化学物質過敏症 発症年齢と発症時期 ツイッターアンケート」(2019月11年18日)) 同センターでは、さまざまな原因を考察しているが、その中で、ここ5年のあいだに激変したことと言えば、マイクロカプセルを含む日用品の消費の増加ではないのか。

匿名可のtwitterでの回答結果を信用しない向きもあろう。だが、消費者庁の「事故情報データバンクシステム」で、「柔軟剤 洗剤」をキーに検索すると、執筆時点で、160件の結果が得られるのである。そこには、健康被害の訴えも見られる。特定の日用品が健康リスクに関与していることは確かである。

そして今、コロナ禍による在宅勤務の増加により、家庭で使われる日用品の量が増えてはいるのではないかと懸念する。 保護者による日用品の選択は、未成年の子の健康に直結する。最もリスクが大きいのは、逃げることができず、もの言えぬ乳児だ。親がよかれとばかりに使った日用品が、わが子の呼吸器を弱めてしまう恐れがある。
参照:「家庭用洗剤でぜんそくが増加!? カナダの追跡調査で判明(2020年3月7日)鶴田由紀 、ハーバー・ビジネス・オンライン」

嗅覚センサーの機能しているひとたちは、外出先で、室内で、健康リスクのある物質の存在に気付く。
だが、困ったことに、気付いた時点で、すでに吸い込んでしまっている。あらかじめ活性炭入りマスクなどを装着していても、完全に防げるわけではない。
「におう」ひとたちですら回避行動が間に合わないのだ。におわないひとたちが、避けられるはずもない。回避行動をとらないまま、危険な大気の中で長時間過ごしてしまうことになる。彼らの子どもたちは、避けられない。

この国の大気事情は、この10年、とくにここ数年で、様変わりした。
自宅と交通機関と勤務先のすべてで継続する日用品公害に晒されているひとたちがいる。あるいは強い日用品公害のある地域に住み、疲れ果てて移転もかなわないひとたちがいる。かれらは、室内ではマスクを付けず意識することなく息をする、という、ヒトとして当たり前の権利を奪われている。以前はあったはずの空気をもとめて、逃げる場所をもとめて、しかし、探しあぐねている。

彼らの叫び声に耳を塞ぐひとたちは、知らぬ間に、自らをも危機に晒している。

本来、呼気として取り込む必要のない、ヒトの手により作り出された合成化学物質。生体が歓迎するはずもないだろう。
そして呼吸器の弱ったわれわれに、マイクロカプセルという水先案内人を得た「かもしれない」ウィルスは、容赦なく襲い掛かろうとしている。

日用品公害によるリスクを訴える声が、全国各地で上がり始めている。

機能する嗅覚センサーを実装されたひとたちは、社会のセンサーだ。
神経質なわけでも、幻臭を訴えているわけでもない。
「におう」というつぶやきは、リスクが身近に迫っていることを示す。
そのメッセージを真摯に受け止めて、リスク回避の行動をとることが、長期的には、社会に安全と安心をもたらすのである。

いま一度、衛生観念、健康観を、見直してみよう。
ポストコロナの時代の日用品に、過剰な機能は要らない。われわれ消費者も、シンプルな生き方に、立ち返ってみようではないか。

では、この危機を、ITエンジニアたちは、避けることができるのか。
いま、われわれの身に、何が起ころうとしているのか。
それは、次回【後編】で。

日用品に含まれる物質に関する資料

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