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ITエンジニアが香害問題を知るべき、2つの理由 ~嗅覚センサーを見直そう(12)~

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一見技術には無関係なことが、仕事に影響を及ぼすこともある。 香り付き洗剤、香り付き柔軟剤、の問題。使用者、使用量がこのまま増え続ければ、ITエンジニアにとって脅威となるかもしれない。 いま自分に健康リスクが生じていなくても、考えてみる必要があるのではないだろうか。

IT訴訟の責任範囲が不明瞭になる(かもしれない)、というリスク

電子部品への香りカプセル付着から、回路を守れるか?

皆さんご存知のとおり、スバルが最大のリコールをした。その不具合の原因は、香り付き柔軟剤など身近な日用品に含まれるシリコンガスだそうな(※2021年リンク等修正)。
そのシリコンガスよりも厄介なのが、香り付き製品で洗った服から放たれる香りカプセルだ。繊維に付着するよう、接着剤の役割をする物質が含まれているという。

電子機器には、設計上、多少の隙間のあるものもある。
身近なものでいえば、PCには隙間がある。キーボード、マウス、USBポート...。
香りカプセルが、その隙間から忍び込み、基板の上を漂い、パーツのアシに付着したらどうなるか。
普段、正常に動作している限り、シャーシを開けて中を見ることなどないだろう。心配になって開けたとしても小さくて見えない。見えたとしても洗浄できない。

どうやら杞憂ではないらしい。現実に起こる可能性があるらしい。
(たぶんtwitterで流れていた)ハードウェア・エンジニアの方のブログ記事を知り、読んでゾッとした。重厚長大系や組み込み方面の方々に、一読してみてもらいたい。わたしは、機器を設置した環境の条件次第では、ありうることのような気がする。

g-hribataブログ「怖いことへの前奏曲かも 芳香性柔軟仕上げ剤」 2018-11-14

どのような形状の部品に、どの程度の隙間があれば、どの程度の量が付着するのか。
付着した場合、どのような環境(室温、湿度)で使えば、香りカプセルは安定した状態を維持できるのか。
どの程度の期間放置した場合に、誤動作を招く可能性が生じるのか。
化学の専門家とハードウェアエンジニアの両方を擁する企業であっても、調査も予測も難しいのではないか。

万が一の事態を避けるべく、IT企業が社員に香り付き製品の使用を禁じたとしても、香りカプセルの社内への持ち込みは避けられない。通勤時の電車内での移香により、社員の服や髪やバッグに付着して持ち込まれる。
ましてやクライアントに、使用を禁じることなどできない。打ち合わせスペースを別に設けて、VOC対応の空気清浄機を設置すれば、蓄積量を軽減することはできるだろうが、ゼロにはできない。
クリーンルームでもない限り、電子機器の設置場所から、香りカプセルを完全排除することは、困難だ。

医療現場での、ラップトップやデバイスの汚染は起こりうるか?

前掲のブログ記事で不具合が生じたのは、試作品のアンプだそうだから、影響は軽微だ。
リスクが増すのは、人命にかかわりかねない現場での、マスプロ品の不具合だ。
宇宙開発、観測基地、研究機関、毒性物質の製造、危険物質の輸送、航空機や船舶、そして何より医療の現場だ。

医療機器が隙間なく堅牢に作られていても、先端医療の現場では、ラップトップやデバイスを持ち込んで連携させることもあるだろう。それらには隙間がある。また、電子カルテのサーバーは別室にあっても、医師のデスクにある端末は、ごく普通の、隙間あるラップトップだ。

そんな現場へ、香り付き製品のパワーユーザーが救急搬送されると、どうなるか。
第3回目に書いたように、香り付き製品には、厄介な二大問題がある。責任の所在と、n次移香だ。
問題は、香り付き製品のユーザーの衣服の繊維にとどまらないのである。「香りがする」ということは、香り物質がそこにあることを示す。10メートル先からでも臭う、あるいは、数分前に通った人の臭いがする、ということは、そこに香りカプセルがあるわけだ。

患者の衣類や持ち物に付着している香りカプセルが、救急車内の機器とストレッチャーのシートと患者に触れた救急救命士の手に付着する。これが、院内ストレッチャーと、看護師の手に移る。医師とチーム医療にあたるエンジニアが、新しいデバイスをスタンバイ。患者を動かすたびに、香りカプセルが空中に舞い、デバイスに付着。
これが何度も繰り返されたなら、数年先には、香りカプセルが、診察室内どころか、ICUや手術室にも蓄積してしまいかねない。

従来通りの処置をしている最中に、不具合が発端となって緊急事態への対応を強いられ、執刀医が頭を抱えることにならなければいいのだが。(それ以前に、その後、同じ救急車両を使って、化学物質過敏症者をそれと知らずに搬送したら、たいへんなことになるのだが)

その昔、昭和の時代、町工場でパソコンが使われ始めた頃は、気温や湿度や、ネズミの排泄物などによる誤動作が、ごく稀に報告されていた。当時は、機器の処理速度も遅く、スタンドアロンだったから、誤動作に気づいた時点で報告を受ければ、メーカー側で対処することができた。

だが、いまやIoTの時代。一昔前とは違う。誤動作に気付いてから対処したのでは手遅れになる。ハードウェアのトラブルをソフトウェアから切り離すことは難しい。いまの時代に合った危機管理がもとめられる。
目に見えない物質の付着を、いかに予測し、いかに避ければいいというのだろう?

万が一日用品が原因の不具合が生じた場合、ITエンジニアは責任を負うのか?

仮に、万が一、香りカプセルが原因の不具合が発生した場合、そして、それによって人命にかかわる事態が生じた場合、あるいは人命にかかわらずとも高額な機器やシステムに損害が生じた場合、責任の所在はどうなるのだろうか?

不具合の発生源となった機器は、パーツが焼き切れでもしない限り、特定しにくいだろう。そのうえ、香りカプセルを付着させた原因が、分からない。 救急搬送で、においの強い衣服を記憶している看護師や救命士が、あの患者かも?と内心おもったとしても、測定記録が残っているわけではない。それまでの日々の蓄積が原因である可能性の方が高い。ましてや、香り付き製品の商品まで絞り込めるはずもない。洗濯の都度、複数のメーカーの複数の商品をブレンドして使っているユーザーもいる。

そうなると、スバルのリコールで同社が責任を負っているように、不具合を起こした機器の関係者が責任を負うことになるのだろうか?
カプセル付着の動作不良で、洗剤業界 VS IT業界、なんて構図は、誰しも考えたくもないだろう。

機器を点検して使用した医療関係者や、医療器材や電子カルテシステムのデベロッパー、治療の現場にラップトップやデバイスを持ち込んだエンジニアが、責任を問われるのではたまったものではない。(それ以前に、影響を受けることになるであろう無香の患者さんたちが、たまったものではないわけだが)
タダでさえハードワークのITエンジニアや医療従事者に、責任問題が降ってわいたら、その対応で、過労死しかねない。
あらゆる機器メーカーは、ナノサイズの隙間すらない製品の、設計・製造をもとめられるようになってしまうのか。それは不可能だ。

要人や、人類に多大な貢献をする科学者や、神の手を持つ医師、影響の大きい芸能人。そして、洗剤メーカーの中の人や、その家族や友人たち。
誰でも年を取る。天災や事故に巻き込まれる可能性はゼロではない。救急搬送される可能性、最先端医療を必要とする可能性は、ゼロではない。
むしろ、裕福なひとの方が、経済的な事情がないぶん、先端医療へのハードルは低いのではないだろうか。企業幹部や高額所得者ほど、機器の故障リスクに晒されることになるような気がする。

高度且つ大人数の関わるモノづくりでは、影響が大きくなる

将来的なトラブルも考えられる。
散歩していたら宅配ドローンに追尾される。空飛ぶ車が停止、頭上から降ってくる。香り付き製品ユーザーが多数乗った宇宙エレベーターが途中で停止。香り付き製品の持ち込みを禁じた宇宙居住区移住者に人類の存続が託される。そんな未来は想像したくもない。

プラントや重機から家電まで、完成までに多くの人が関わって作り上げるシステムに、100%の安全を期待することは難しい。
研究者が理論上100%だと言っても、それはあくまで机上の話。設計者が完全な設計をして、完全なプログラミングがなされ、完全な部品が納品され、完全に製造され、完全に据付試運転され、完全に維持管理され......と、すべてが完璧でなければならない。もし、ITエンジニアの関わる工程が完璧であったとしても、サイレントチェンジや取り付けミスがひとつでもあったなら、不具合が発生しないとはいえない。
これ以上、不具合を発生させる要素が追加されたら、モノづくりは、立ち行かなくなる。近年、ユーザーはリコールやトラブルに慣れすぎているきらいがあるが、本来、あってはならないこと。トラブルになりそうな要素はできるだけオミットした環境で、開発・製造・運用が行われる方がいい。

ここに書いてあることが杞憂でしかなく、誤動作の可能性はゼロである、そう確信して、安心したいものだ......。

未来のITエンジニア候補がつぶされる、というリスク

数学が学年トップの学生、香料に将来を奪われる

「僕は数学が得意で学年で1位でした」

中学3年の時点で、数学が学年トップ。そんな学生が身近にいたら、エンジニアになって、IT業界を担ってほしい、と一声かけたくなるというもの。

ところが、この学生、その後、どうなったか。

僕は数学が得意で学年で1位でしたが、一時は6+9が解けなかったそうです

喘息の既往があり、委員として先生の喫煙室に出入りしていたという。そんなとき、机に香水をつけられる事件が起きた。これをきっかけに、化学物質過敏症を発症したとのこと。

普通の暮らしができない。香料で倒れます
ほとんど家の中での生活で学ぶ機会がなく、ひきこもり同然の暮らしを強いられています(引用)

(「香水がきっかけで、学校にも通えず」岡山県、無職、男性、29歳)
出典:「マイクロカプセル香害 柔軟剤・消臭剤による痛みと哀しみ」古庄弘枝著、2019年4月25日、ジャパンマシニスト社)

たとえ保護者や周りの者が喘息に気配りしていたとしても、ひとつのできごとで、化学物質過敏症を発症してしまう。 回復に時間がかかり、働けない状態になってしまう。 数学が得意だったとしても、委員として教師との連絡係を務める学生であったとしても、その才能を生かすことが「何年間かは」できなくなってしまう(いつか、回復すると、期待したい)。喘息の既往があっても香料がダメでも、今はリモートで働けるから、なにごともなく成人していれば、得意の数学でキャリアを積むことができていただろうに。

AIが進化し、量子コンピューティングが本格化すると、エンジニアは三つに分かれる。
数学、物理学、情報工学など複数の分野の専門に通じて、技術開発の基盤を支えるエンジニア。
インフラを維持管理する、エンジニア。ヒトが使う以上、ヒトの手になる管理は残る。
そして、既存技術を業務や生活の中で利用するエンジニアだ。エンジニアというより、パワーユーザーに近い立場になるだろう。

このケースのように、数学の得意な学生は、技術開発の基盤を支えるエンジニアを目指してほしいものだ、いや、目指すすべきである、と言いたい。
貴重な人材を、「香料」のために、失ってもいいものだろうか。IT業界にとって、損失であると考える。
そして、このようなことは、ひとりでは済まない。香害が野放し状態である限り、続発する恐れがある。

問題は、マイクロカプセルのサイズにあり

マイクロカプセルの殻が、機器に影響を与える「かもしれない」こと、マイクロカプセルの中身にも使われている人工香料が、人体に影響を与えることは、書いたとおりだ。では、マイクロカプセルそのもの(殻+香料)が人体に取り込まれた場合、どのような影響が考えられるのか。

呼気から取り込まれたマイクロカプセルは、肺から血中に取り込まれる。香り被害者によるウェブサイト「無香料生活によれば、「血液脳関門を突破し、脳の中で破裂して香料をばらまき」とある。「マイクロカプセルが血液脳関門を突破できるかという疑問ですが、先日、北里の専門医に伺ったところ、突破できるだろうとのことでした。(引用)」
愛媛産業保健総合支援センターの「産業保健コラム(臼井繁幸 産業保健相談員、2013年08月もあわせて読むと、怖くなる。

とにかくサイズが小さすぎる。薬剤を詰めて運ぶぶんには治療になるのかもしれないが、健康なヒトの身体は要らぬものを取り込みたくないわけで、何らかの影響が懸念される。処理速度の低下なのか、判断力の鈍化なのか、制御能力の喪失なのか、どのような影響を及ぼすのかはわからない。
開発者の作業効率を低下させたり、コーディングミスを誘ったり、機器を運用するヒトの判断を鈍らせたり、抑止すべき行動をとれず暴走する可能性など、考えたくもない。脳機能へのダイレクトな影響が生じないことを祈りたい。

香り付き製品のユーザーは、嗅覚が自分の衣類の香りに慣れて麻痺しているので、移香の重大性に気付かないかもしれない。あるいは、洗濯を外注あるいは家庭内で代行してくれる人がいる場合も、気付かないかもしれない。
だが、自分で、移香落とし作業をしたことのあるエンジニアなら、頷くだろう。これは、重大な問題だ。

日本医師会も、香料による新たな健康被害について言及している。

日本医師会 日医ニュース No.508「香料による新しい健康被害も―化学物質過敏症―健康ぷらざ平成30年10月5日

化学物質過敏症は、ある日突然発症する。健康な人でも避けられない。

人類が生き残るために必要なスキルを持つひとびとが、コミュニティを形成するに足る人口を上回るひとびとが、化学物質への耐性を高め、無害化する処理能力を獲得して、宇宙に出ていく。それが確実視されていて、人体にとって必要な変化だというなら、何も言うまい。わたしも含め、香害に困っているひとは、未来の環境に適応できない生命体だというだけだ。

また、ひょっとしたら、化学物質耐性のある者が、耐性のないカナリアたちを駆逐し、しかし、化学物質を使いすぎて倒れ、化学物質を多用する者たちが消え、浄化された地球に、ふたたび、カナリアたちが生まれて子孫を遺す。変わる植物群生のように、そうしたサイクルができて、人類が存続していく可能性も、考えられなくはない。

しかしながら、わたしは、どちらの可能性も低いと思う。このままでは、いずれ、耐性も処理能力も持たないひとの方が増えて、マジョリティになる。生物が、10年20年の短期間で、多数の化学物質の処理能力を獲得できるだろうか。自然災害、事故、事件、疾病、後遺症、ますます労働力は減っていく。AIとロボットで代替しても、宇宙に出ていくよりも前に、現行の社会システムを維持できなくなる可能性の方が高いと考える。

化学物質過敏症は、ある日突然発症する、という。そして、一度発症すると、その生活は困難をきわめる。
YouTubeに、本ブログで紹介した、北海道の美味しい菓子店「お菓子のふじい」が登場している動画があった。

テレメンタリー2018「カナリアたちの叫び」(化学物質過敏症)

香料マイクロカプセルが、製品段階から「マイクロ」であることの環境負荷。

twitterで、「化学物質過敏症」「香害」「柔軟剤」「マイクロカプセル香害」「マイクロプラスチック」などで検索すると、膨大なツィートが表示される。それだけ、香り付き製品に健康を脅かされているひとびとが多いということだ。その事実を確認し、いま何が起ころうとしているのかを知ることは重要だとおもう。(もっとも、リアルタイムで流れていくSNSが苦手で、twitterほぼ初心者の、わたしが言うべきことではないのだが)。

柔軟剤の香りの何が魅力なのか、ハマる理由は何なのか、それを知るべく、某SNSで「柔軟剤」をキーにコミュ検索してみた。
数百件のコミュのうち、無香派は、数件でしかない。圧倒的な参加人数の差がある。それだけ、香り付き製品は、魅力的で、人気があるのだ。香りで体調を崩さないひとにとっては、日常生活の癒し要素となっている。メーカーが販売するのも頷ける。
おそらくその中には、化学物質過敏症のことを知っているけれども使いたいひともいる。だが、化学物質過敏症について知らないひと、稀な体質のひとの特別な病気であって自分は発症しないと思っているひと、も、いるはずだ。情報に対して、何を考え、どのように対処するかは本人の自由だが、知らずに使い続けているひとに対して、知らせる必要はあるだろう。

このままでは、化学物質過敏症者は増え、喘息患者も増え、この国の労働人口は減り、大気汚染は進み、香りカプセルによるマイクロプラスティックの海洋汚染も進み、砕けて風に乗って空に舞い上がり山野も汚染されてしまう。他国の環境にまで影響は及ぶにちがいない
使い捨てプラスチック容器やフリースの洗濯による繊維による海洋汚染だけに目を向けても、マイクロプラスチック問題はなくならない。むしろ、砕けて小さくなるのではなく、「製品の段階から小さい」マイクロカプセル、最初から小さくて環境流出しやすい物質への対処の方が困難だとおもわれる。参照:msnニュース「海のプラごみ50年流出ゼロ目標 政府、G20合意目指す(共同通信社 2019/06/01 15:01)」

これ以上、辛いおもいをするひとびとを増やさないように、自身や身近な人が化学物質過敏症に倒れないように、次世代のIT人材を失わないように、香りカプセルによる機器への影響を排除するために、地道に情報を伝え、拡散していくしかない。納期に追われるなか、技術革新が速く、技術情報を追うだけでも手いっぱいなのは重々承知している。そんな中でも、もし、すこしの時間を作ることができるなら、この問題について考えてもらえれば、と願う。

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