マイクロソフト ビル・ゲイツが運営する ビル&メリンダ・ゲイツ財団の全貌 <その2~国際開発プログラムについて>
前回、ビル&メリンダ・ゲイツ財団をビジネスマンの運営する財団としてお話したが、今回は、財団の活動に焦点を当てたいと思う。
ビジターセンター外観
写真の英語訳「全ての人々が健康で豊かな生活を送るためのチャンスを与えられるべきだ」
財団の活動は、大きく3つのプログラムに分けられる。1.国際開発プログラム、2.グローバルヘルスプログラム、3.米国プログラムの3つだ。今回は、このうち国際開発プログラムを紹介したい。
1.国際開発プログラム
国際開発プログラムは、「全ての人々が健康で豊かな生活を送るためのチャンスを与えられるべきだ」という信念の下、途上国の人々に飢餓と貧困を克服する機会を与えることを目的とし、注目度は低くてもその問題に取り組むことによって大きな成果が見込まれる分野や、いずれは何億もの人々に届くと見込まれる拡張性のある分野にフォーカスしている。
たとえば、ビジネス上のインパクトや利益が少なく注目されない分野の代表として「貧しい農家」に関する問題が挙げられる。世界の極貧層の4分の3を占める「貧しい農家」の多くは、女性によって営まれているそうだ。財団はこの分野に20億ドルを費やし、サステイナブルな土地の管理方や、農民の教育、農民に市場を紹介する等の活動を行っている。また、このような極貧の生活を強いられている人々は、銀行口座や、ローン、保険といった基本的なファイナンシャルサービスを得る機会も無いため、良心的なサービスをマイクロファイナンスという形で他の団体と協力し、提供している。
今年1月に公表されたビル・ゲイツの年次書簡によると、現在世界人口の約15%である10億人の人々が極度の貧困生活を強いられているという。この多くが小規模の農業を営んでいる。貧しい農民にとって、作物を台無しにしてしまう疫病は死活問題であるが、米国で農業に携わる人々の割合はわずか2%にすぎず、米国民の農業への関心は薄い。そうしたこともあり、農業の研究には、主要7農作物について、全世界で毎年たったの$3 billion (30億ドル)しか使われていない。全ての人が農作物の恩恵にあずかることを考えると、もう少し投資されてもいいのかもしれない。
この書簡の中でビル・ゲイツは、1960~70年代に行われた、全世界の極貧を40%から劇的に低下させることに成功した「グリーンレボリューション」という活動に触れている。当時「stem rust」という麦に取り付く菌により、作物が大量に損なわれていたが、「グリーンレボリューション」の発起人であるノーマン・ボーローグ(1970年ノーベル平和賞受賞)はロックフェラー財団の資金を元にメキシコに移り、この菌に対し抵抗力のある新種を開発した。また、「奇跡の麦」と呼ばれる背の低い丈夫な麦を開発し、メキシコでは生産量向上が3倍に増加し、数億人もの食料危機に瀕している人々が救われたそうだ。
しかし、このボーローグ氏も、ロックフェラー財団からの資金を得て、メキシコに実際に移って初めて麦の生産性を高める戦略を生み出したという。今、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、同じように「奇跡」を起こそうと各財団に呼びかけ、様々な団体に資金を提供している。机上の空論ではなく、現地に行って考え、最善の策を練り、変革を起こすためだ。
写真:http://www.impatientoptimists.org/Posts/2012/02/Feeding-the-Farmers-Feeding-the-World
先程も述べた、ボーローグ氏は常に新たな菌の発生を恐れていたが、残念ながら1999年に非常に伝染力の強いUg99という菌がウガンダで発見されてしまう。Ug99は、現在主にアフリカでみられるが、紅海を越え、イラン、イエメンでも見られるようになっており、インドに移るのは時間の問題だ。財団は、科学とテクノロジーを用い、このUg99のような脅威を取り除くための研究を呼びかけている。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団はロックフェラー財団とパートナーシップを結び、「アフリカグリーンレボリューション同盟」を作る為$100 million(1億ドル)を費やす他、小規模農家には決定的な違いをもたらす灌漑システムを開発、促進するために$13.5million(1350万ドル)を費やしている。その他、民間企業との革新的なパートナーシップがあり、民間企業が莫大な予算をかけて作り出した製品の中から適切なものを、ロイヤリティを課すことなく、その専門知識と共に貧しい農民に与えるというものがある。このやり方は将来かなりのポテンシャルがあると見られている。
「今、世界は明らかな選択を迫られている」とゲイツは言う。2050年には世界人口は100億人に迫ると予測されており、今、私たちが活動を起こさなければ事態はさらに手に負えなくなるだろう。前回紹介した財団の15の原則にも入っていたように、ゲイツは科学とテクノロジーが世界の人々の暮らしを向上させる大きな可能性を持っていると信じている。震災の傷跡が癒えない日本、問題の絶えない欧州、相変わらずの滞りをみせる米国経済、寄付を訴えるには難しい時期だ。しかし、それを承知でゲイツ氏は訴える。「世界はこの貧しい人々を助けるために、様々なテクノロジーに投資しなければならない」と。
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