Googleの逆襲 ~こんどはOpenAIが「コードレッド」を宣言
いやあ、歴史は巡ると言いますか、因果応報と言いますか。ChatGPTが世界に衝撃を与えてからちょうど3年、ついに立場が逆転しました。Gemini 3.0の猛追を受け、OpenAIが社内に緊急事態を宣言したと言うのです。
Gemini 3.0が公開されて以降、その優秀さから「OpenAIを凌駕した」という評価が飛び交いましたが、ついにOpenAI自らがその事実を認めてしまったようなものです。Googleにとっては、逆転ホームランといったところでしょうか。
記事によると、サム・アルトマンCEOは自律型AIエージェントや広告など他のプロジェクトの進行を遅らせる方針を示した上で『「コードレッド(非常事態)」を宣言し、ChatGPTの改良に向けて「総動員」で取り組むよう求める社内メモを送った』ということです。
「コードレッド」というと、覚えている方も多いでしょう。2022年11月30日にChatGPTが公開され、世界的な大反響を得た際に、Googleは検索広告ビジネスへの影響を恐れ、12月に社内にコードレッド(緊急事態)」を宣言したのです。あれからたった3年しか経っていませんが、Googleは見事に逆転ホームランを放ったと言えるでしょう。改めて、この業界の変化の激しさに圧倒される思いです。
Transformerの生みの親であるGoogle
当時GoogleはAI開発の最先端に居ましたが、ChatGPTによって「出遅れた」との烙印を押されてしまいました。しかし、当時も今も技術力についてはトップクラスです。事実、現在の生成AIが採用しているTransformerというアーキテクチャは、元々Googleのエンジニアによって開発されたものです。(もちろんChatGPTも使っており、GPTのTはTransformerのTです)
ChatGPTが世に出たとき、Googleも同じレベルのLLMを開発する力はあったはずですし、実際にいくつか試験的なものも発表されました。しかしそれらがうまく行かなかったのは、Googleの売上の大半を占める検索広告ビジネスへの影響を恐れたことで、実力を出し切れない中途半端なサービスに留まったからではないかと言われています。あるいは、「チャット」という新しいUIへの適応に時間がかかったこともあるのかも知れません。しかし今年の春くらいから、Googleは「本気のサービス」を出し始めたように思います。何時までも検索への影響を心配していられませんし、新たに検索に導入した「AIモード」も、良い方向に働いているようです。
開発の方向性は「精度」から「使い勝手」へ
これはまた、生成AIの開発の方向性が変わる可能性を示唆しているのかもしれません。GPT-4からGPT-5への移行の際に問題になったように、LLM自身の性能向上よりもUIの変化の方に興味があるユーザーも増えているようです。これは言い換えれば、LLMの性能自身はもう満足できるレベルに達しているという見方もできます。OpenAIはこれまで、ベンチマーク上での性能向上を優先してきたとされますが、GoogleはLLMの改良もさることながら、NootbookLMのような、AIを実際に活用するためのアプリケーションも豊富に提供し、ユーザーの利便性を高めてきました。
今回Gemini 3.0が好評価を得ているのは、精度の向上だけで無く、こういったトータルの利便性向上にもあるのだと考えられます。OpenAIもそれを感じ取ったからこそ、「ChatGPTの改良」に舵を切ったのではないでしょうか。
