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組織における3つの意思決定スタイル、あるいはボス型意思決定の弱点

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前回のブログでもチラっと触れたけれども、新しい本「社員ファーストで行こう!」(仮題)では組織の意思決定方法にフォーカスを当てている。
僕は組織の意思決定スタイルには大きく3つあると考えており、社員ファースト経営ではその中の「コンセンサスによる意思決定」を徹底している。
以下の文章はその3つを解説したもの。
例によって本に載せるには少しくどいので、バッサリ削ってしまった。書きまくって捨てまくるのが僕の執筆スタイルだから。
とはいえこれはこれで結構大事な話なので、ここに転載したいと思う。
(ちなみに今度の本は、ダデアル調ではなくデスマス調で書いた。地の文章と少し違うので少しストレスがあった)
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会社で意思決定する際には、一般的に以下の3つの方法があります。

① ボスによる意思決定
「経理部の管掌範囲の意思決定は、最終的に経理部長が決める」という方法です。
厳密には経理部長の判断がベストだとは限らないけれども、一旦は経理部長に決定を委ねましょう。その方が組織全体をスムーズに運営できるので、という考え方です。
稟議プロセスが経理部員⇒経理課長⇒経理部長となっているのも、この考え方がベースになっています。

② ルールによる意思決定
「部長以下の社員は出張の時にグリーン車に乗ってはならない。経費規程に書いてあるから」という意思決定です。
多くの社員にルーティンワークをさせるのに効率が良いのが特長。ルールに書いてあることは、いちいち意思決定し直さずに済む、と言い換えてもいいかもしれません。
誰が仕事をしても同じ結果になることが保証されますし。不正防止にも効果的です(ルール違反が明確だから)。
例えば金融業でルールによる意思決定が重視されるのは、札幌支店でも鹿児島支店でも似たような業務を均質的にやる必要があるのと、不正防止が極めて重要だからでしょう。

③ コンセンサスによる意思決定
関係者が集まって「本件はどうあるべきか?」を議論し、コンセンサスを作る方法です。
コンセンサスは「合意」という意味ですが、もう少し正確に表現すると「この場の結論としては、B案を会社方針とする。もし心の底では納得していない人がいたとしても、今後はB案に従って全員が行動をする」という状態がコンセンサスです。
人間ですから議論の結論に100%納得できないことはある。でもチームとして、組織として、一度決まったことに全員で協力しようね、という意味です。
コンセンサスによる意思決定の場合、「A案件とB案件、どちらかしかやれないならどちらを優先するか?」「他社からこんな依頼を受けている。どう対応すべきか?」などを決める際に、関係者が集まり、毎回議論します。
上記①のようにボス1人が決めません。また上記②のように決まったルールや前例を参照する訳でもありません。
議論の結果コンセンサスを作れたら、実行は各担当に任せます。任せてもコンセンサスに沿って行動するので、あまり変な結果にはなりません。


会社の意思決定について、この3分類を意識している人はあまりいないのですが、一度自分の会社を観察してみてください。おそらくほとんどが①と②で意思決定していることに気づくでしょう。
ルーティーンワークはほとんど全部②で処理されています。ルールで規定されていないことがたまに発生すると、上司に伺いをたてます。つまり①です。

③が発生するのは、組織と組織の間でよほど揉めた時くらいです。ほとんどの会社では、経営会議ですら「議論の末にコンセンサスを作る」は行われていません。


ファシリテーションという言葉が世の中に広まりすぎて、「司会術のようなものでしょ」と思っている方もいると思います。私たちはそうではなくファシリテーションを「立場や持論が違う人達を集め、コンセンサスを作ることで、その後のアクションをスムーズにする技術」と考えています。
つまりわたし達が考えるファシリテーション経営とは、上記の①や②ではなく、③を重視した意思決定、つまり「何事にもコンセンサスを作りながら意思決定する経営」のことを指しています。


★ボスによる意思決定の弱点
誰かに権限を持たせて一任する方法(上記の①ボス型)や、あらかじめルールを決めてしまう方法(上記の②ルール型)に比べて、毎回コンセンサスを作る意思決定は明らかに手間がかかります。でもそれを超えたメリットがあります。それは①や②の弱点を補う事ができるからです。ここでは①の弱点について考えてみましょう。

★ボス型の弱点1) 組織またぎに弱い
営業部と経理部の両方に関係ある課題を「組織またぎの課題」と呼んでいます。これを解決する際に悩ましいのは、営業部長と経理部長のどちらに決定権があるのか不明確なケースです。ボス型が支配的な会社だと、こういうケースで途端に麻痺状態になり、意思決定が滞ります。
組織と組織の間のテーマをお見合いしてしまう様子を、一昔前は野球に例えてポテンヒットと呼んでいました。読者の皆さんが中間管理職ならば、「これって誰がYesと言ってくれたら前に進められるの?」と戸惑った経験があると思います。
このような会社で組織またぎの課題を解決するには、より上位の人(人事と経理が揉めたら、管理本部長とか社長)にゆだねて、その人が決めるしかないのです。

★ボス型の弱点2) 組織の縦割りが進む
「他の部署に口を出すのがタブーになる」という現象もよく観察できます。他部署は他のボスが権限を持っている「他人の城」だからです。
例え部長同士であっても、他の部長が権限を持っている領域に土足で踏み込む行為を、日本人はよほどのことがない限りしません。相手と今後もずっと仲良く働かなければならないからです。こうして組織は縦割りになっていきます。

★ボス型の弱点3) 部下が忖度し始める
ボスがなんと言うか?で意思決定するということは、ボスの意見が絶対になっていきます。こういう状態が続くと、部下が上司の考えを忖度し始めます。
「部長はきっと快く思わないぞ」などと課長が部下に言って、部長が耳にする前に、アイディアを潰してしまうケースです。「この書き方だと部長がYesと言ってくれないから・・」などと言いながら、延々資料を書き直す様子もよく見ます。
わたしはこういうことが起きている組織で、当の部長と話をして驚くことがあります。部下の方々が忖度している内容とは全く別の意見を持っていたり、「いいから早く自分のところに話を持ってきてくれ」と思っていたりします。つまり行き過ぎたボス型の組織では、ボス本人の意向とは無関係に、仕事が進まなかったりねじ曲がったりするのです。


ボスが意思決定するタイプの組織で起こりがちな3つの弊害を挙げてみました。
読者の皆さんも、これらの麻痺状態や縦割りを自分の組織で観察できるでしょう。こういう硬直的で非効率な組織になってしまうのは、理屈よりもボスの一言が重視される意思決定の弊害です。

わたしはお客様の変革プロジェクトをリードする仕事をしているので、こういった状態を特に頻繁に目にします。
変革プロジェクトとは、普段部署ごとに仕事をしていても解決できない課題に、全社をあげて取り組む活動です。自然と「組織またぎで意思決定すべきこと」「お互い他部署に口を出しながら、協調しなければ前に進めない状況」ばかり発生するのです。

変革プロジェクトだと、部下による忖度の弊害も大きくなります。変革では前例がないことばかり決定していくので、部下による忖度予想(部長はこう思うに違いない)がたいてい外れるのです。でも長年染み付いた行動は、プロジェクトに配属されたからといって変えられません。

この様な理屈で、ボス型の意思決定が幅をきかせている組織は、はっきり変革下手だと言えるでしょう。
近年、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。しかし掛け声だけは大きい割に、DXがちっとも進まない会社ばかり目に付きます。
それはデジタル技術をうまく扱えないからではありません。こうした意思決定スタイルが染み付いているためにトランスフォーメーションが苦手だからなのです。
今の時代、コンセンサス型の意思決定の重要性が増しています。わたし達が仕事でファシリテーションを重視するのも、ファシリテーションがコンセンサスを作る技術だからなのです。

※逆に、コンセンサス型の意思決定の弱点として「スピードが遅い」ということが良く言われる。
でも僕らはそうは思ってないし、実例も多い。
本にはその理屈について書いたが、このブログで触れるには余白が足りない。
気が向けばこのブログでも書きます。

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