内向きな組織を作らない為の心構え、あるいは承認をする側の論理
大きな組織で仕事をしていると、「案を作って偉い人に承認をもらう」ということを頻繁に行う。僕の主戦場である変革プロジェクトの計画づくりはその最たるものだし、ちょっとした施策の相談など、ごく頻繁に発生するタスクだ。
で、上申する側ではなく、承認する偉い人の立場として絶対に避けるべきことがある。
a)承認内容ではなく、資料の表現方法に文句を言うべきではない
b)承認内容ではなく、話のもってきかた(検討プロセス)に文句を言うべきではない
どちらもほぼ同じ話だ。
例えばa)を考えよう。
承認する人が
「パワーポイントのこの図が分かりにくい」
「そういうことであれば、こういう書き方をするな」
みたいなことを言うのをよく目にする。
本人は何気ないつぶやきかもしれないし、部下への指導のつもりかもしれない。
でも偉い人がそういうことで、その人に持っていくまでに、見栄えやらなんやらに膨大に時間を使うようになる。
僕はコンサルタントとしてなるべくそういうのに巻き込まれないようにしている。そういう見栄えは偉い人の趣味のことが多いので、価値を出せないから。一般的にコンサルタントは「高級代筆屋」とみなされているので、そういう仕事を請け負っている人も多い。だけど僕自身は好きでも得意でもない。
で、僕自身がやるかどうかは別として、社内資料の見栄えについて、膨大な時間が割かれている。課長や部長がするレビューだって、7割型はそういう観点だったりする。
部下としては、偉い人に指摘される事態は避けたいし、実際に見栄えの話になっちゃって中身に集中してくれないひとなんかもいるから、自衛としてしかたない。
これ全部、内向きの仕事であり、顧客にとって価値がないのはもちろんだが、仕事を前に進める、という意味でも1mmも価値がない。
改めて声を大にして言いたいのは、そういうダメな内向きな組織風土は、偉い人が良かれと思って発する
「このパワーポイントの図が分かりにくい」
「そういうことであれば、こういう書き方をするな」
というコメントが作っている、ということだ。
誤解のないように言うと、僕はプロのコンサルタント/ファシリテーターなので、部下が作った、お客さんの組織内で使う上申資料に対して、見栄えとかわかりやすさの観点で指導をすることがある。これは車メーカーが車のデザインを気にする必要があるのと同じで、商品だからやっていることだ。(本質ではないので、なるべくならやりたくないし、他のコンサルタントに比べると甘い)
でもお客さんの社内で行う変革プロジェクトの計画書とか制度の検討案なんかは、お客さんの会社の商品ではない。ただの内部検討メモでしかない。そこにコンサルタントと同じレベルのクオリティを求めるのは馬鹿げている。
一方で、ウチの会社の経営者の立場で、ウチの社員が考えた施策や計画を検討するときは、見栄えとかわかりやすさについてコメントしないようにしている。中身がウチの会社にとって価値があるかどうかだけにフォーカスする。
人間だれしも、他人が作った資料を見ると、アラが目についてしまう。
それを意思の力で無視するのだ。良き組織風土を維持するために。
こういう方向性で努力をしている管理職は本当に数少ないけれども、必要だ。