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スッと「分かりません」が言えますか?あるいは仕事のしやすさを左右すること

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人の優秀さとか、一緒に仕事しやすいか?をはかる目安として「知りません」「分かりません」がすっと出てくるか?というのがある。

★「分からん」がすぐに言える人のいいところ
なんのてらいもなく「分からん」「知らん」が言えるということは、「世の中に自分の知らないことがあるのは当たり前」「難しい問題解決にチャレンジしているのだから、分からない状況は恥ずかしいことではない」という姿勢ができているということ。
これは知的営みをする上でのスタートラインだと思う。

そして仕事の場でも「知らん」を言える人は「オレは知識ではない別な何かで勝負している」という自信が恐らくあるのだろう。知識の価値が低下しているこの時代、悪いニュースではない。
「分からん」を言える人も、かなり自分の知性に自信があるひとだろう。分からないのは自分の知性が不調だから、というよりも別な理由(相手の説明が分かり辛すぎるとか、情報が足りていないとか、本質的に難しいテーマだとか)があるから、と思っているのだから。


★「分からん」が言えない人のダメなところ
まず、自身が何を分かっていて何を分かっていないのか、その境界が曖昧な人がいる。頭の中がとっ散らかっているのだから、思考の準備ができていないということだ。

次に、無駄なプライドが仕事の邪魔をしているケース。
知識の価値が減ったからといって、やはり知らないよりは知っている方がよい。だから知らないと恥ずかしいのは自然のこと。僕だって人と話してる最中に「こういうのを知らないオレ、イケてねぇな」と恥ずかしくなることはある。

それでも知らないと口にするのは、言わないと仕事に支障があるからだ。
話してる相手が「この人は知ってるのだ」という前提で話を続けたらコミュニケーションがうまくいかない。時間の無駄だ。
そのまま仕事を進めたら、失敗する。それは避けなければならない。だから恥を忍んで「知らん」と口にするのだ。

知らないとか理解できてないことを自覚しているのに、それを相手に伝えられない人は、きっと仕事を進めるよりも大事なモノがあるのだ。人から賢いと思われたいとか、恥をかきたくないとか。そういう変なプライドがある人と仕事するのはめんどくさいですよね。



★なぜ「分からん」が言えない人と働くのがダルいのか?
僕がやっている変革プロジェクトは複雑な仕事だ。変革プロジェクトじゃなくても、大型案件の商談など、複雑な仕事にチームで取り組んでいる人は多いだろう。

複雑な仕事では、全てを知り、全ての構造を理解している人なんていない。だからもし「知らん」「分からん」と言ってくれるなら、「じゃ、説明するね」とか「オレも知らんから調べよう」というだけのことだ。そのやり取りは10秒で終わる。

繰り返すけど、複雑な仕事をしているなら、「3年目の社員だったら全員知っている情報」みたいなのってないと思うんだよね。そんな均質的な世界ではなく、Aさんはココを知っていて、Bさんは別のコレを知っている。相手が知っていることを、お互いが完璧に把握しているわけじゃない・・みたいな状況。

だからこそ、「知らない」「今は理解していない」は、実は恥ずかしくないはずだ。それをサクっと表明して、それを前提に話せばいいだけ。なのにそれを言ってくれなかったら、5分話した挙げ句に「あ、分かってなかったのね」と判明したりする。時間が無駄だし、議論が回り道になる。

難しい問題解決をする際には議論をテンポよく積み重ねることが大事なので、この回り道は致命的だし、何よりダルい。サッカーでゴールに向かってテンポよくパスを回している時に、目立ちたいからという理由で無理にドリブルをしてボールを奪われるみたいな感じだ。
このブログの冒頭で「分からん、が言えるかどうかは一緒に仕事しやすいか?を左右する」と書いたのはこういう話。


★「知らん」が言いやすいチーム、言えないチーム
「知らん」「分からん」と言ってくれないとチーム全体の生産性が下がるから、言えよ。みたいなことをここまで書いてきた。
だが「知らん」が言えない責任を、個人だけに負わせるのはちょっとアンフェアかもしれない。

例えば「知りません」と言った人に対して「そんなことも知らないのかよ。お前入社して何年経つんだよ」みたいな罵声を返したら、言わなくなるのは当たり前だ。
最近、「心理的安全性」という言葉がよく使われる。心理的安全性を確保することの意味はいくつかあるが、「知らん」「分からん」が言いやすくなり、このブログで書いているような無駄なやり取りを防げるのもその一つだ。

個人としては「知りません」を躊躇なく言ったほうがいい。
チームとしては自分以外の人が「知りません」を言える環境を作ったほうがいい。


*****************「システムを作らせる技術」の話
7月末に発売して以来、朝日新聞の書評で取り上げてもらったり、「同じ部署の人に勧めまくってます」という方が何人も現れたり、売上的な好循環に徐々に入っていきました。
初めてAmazonのカテゴリー1位になった時には嬉しかったのですが、今や、たいていはカテゴリー1位で、総合でも500位以内が定位置。本当にありがたいことです。

もちろん、最初は売上が好調なことに喜んでいたのですが、最近は怖くなってきました。だってこの本よりも売れている本が日本に500冊しかないんですよ。
怖いのは、この本がいくら売れているからといって、これだけで生活できるような印税額ではないこと。(著者2人で山分けしているとはいえ、単価の高い本なので印税額は多い方なはず・・。それでも)
しかも売上上位の本って、兼業作家ばかりなんですよ(僕もその1人)。芸人が出したお金儲けの本とか、アイドルの写真集とか。
ということは、印税だけで生活出来るような本を書いている人って日本に本当に一握りしかいないのではないか。。
これって出版文化の危機ですよね。どうしたらいいんだろうか。

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