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ガラパゴススキルしか身につかない職場、あるいは転職力について

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昨日もある社員と1on1ミーティング(白川と1対1で小一時間、キャリアや今の仕事についてしゃべる場)をした。
「あんまやりたくない仕事ってどんなの?」と僕が水を向けたら、「基本的にどんな仕事でも学ぶことはあるし、楽しんでやれちゃうタイプです。でも、局所的にしか役に立たない知識やスキルしか身につかない仕事は、イヤですねぇ」と言っていた。

とても共感する。
このブログではその手の「局所的にしか役に立たないスキル」をガラパゴススキルと名付け、少し考察していこう。
ガラパゴススキルで分かりやすいのは、金融業界におけるIT特有の知識や習慣などが該当するだろう。セキュリティがガチガチ過ぎて、今どきのSaaSを使った開発から全く無縁、というのもそれに近い。金融ITガラパゴスとでも言おうか。

もちろん金融業界で働くエンジニアの全てがそうな訳ではない(例えば本にもなったケンブリッジと住友生命さんがやった青空プロジェクトは全く違う)。
でも部署によってはガラパゴスどっぷりだったりする。


だがガラパゴススキルが恐ろしいのは、そういう「あからさまなスキル」だけでなく、もっとソフトスキル的なことも含まれることだ。

例えば上下関係が厳しい組織で、上の人に自分の企画を認めてもらって、予算を獲得する能力。もっと露骨に、気に入られて取り立ててもらう能力もそうだろう。
すぐ怒る相手を怒らせないように、何かを説明する技、なんていうのもある。
ひどいケースでは「NOと発音せずにNOを伝える技術」が大事な組織もある。
これらは企業規模に限らず、組織人ならば身につけている人も多いだろう。
この手のスキルがないと、仕事を全く進められない会社が多いから。

だが僕はこれらはガラパゴススキルだと思う。その会社の独自カルチャーに、ものすごく依存するスキルだからだ。
例えばウチの会社の場合、NOというべき時にはNOを明言しないと怒られる(そうしないと、コミュニケーションとしてウザ過ぎるから)。こういう会社では「NOと発音せずにNOを伝える技術」は全く役に立たない。

他にも「役員会を通しやすいパワーポイントの書き方」なんていうのもガラパゴススキルだ。
上申書は全てA3一枚に表現せよ、みたいなルールを課している会社なんかだと、A3というキャンパスに、色々な情報がパズルみたいにぎっしりとはめ込まれている。匠の技を感じる。
でも、そんなの社外では全く役に立たない。特定の上司の趣味や性格でそれらのワークスタイルが決められている場合は、もっとひどい。部署を一歩出ると役に立たないからだ。


なぜ、ガラパゴススキルしか身につかない仕事が良くないのか?
身動きが取れなくなるからだ。
特定の仕事、特定の職場でしか通用しない能力なのだから、部署や会社を移ると、とたんに無能の人になってしまう。
それが怖いから、精神的にも臆病になる。


少し前に流れてきたツイート。
一言でいうと、
・日本人の多くは、自分の職場が好きではない
・なのにそこから出たくはない
・偉くなって職場を変えようとも思わない
・もちろんそこから出るための努力もしていない
ということだろう。
これはとても寂しい、やるせないデータだ。

僕は1人の社会人としても、会社を経営する際にも「いつでも転職できるけど、ここが好きだからいる」が理想だと思っている。
それって、「ここしかいられないので、せめて好きになろう」よりもずっとヘルシーだ。
そしてこのデータが示唆している「ここしかいられないが、大嫌い」は地獄の別名だ。


今一度、「ガラパゴススキルしか身についていない≒転職力がない」の主なリスクを洗い出してみよう。

a)会社が潰れたり買収されるリスク
いくら会社と社員が相思相愛でも、会社自体がなくなったり、別資本に買収されて経営方針がガラリと変わってしまったら、社外に放り出されることはありうる。
そんな時に転職力がないと詰む。

b)上司がヤバい人だった。しかもずっと同じ人が上司
大企業でも、特定部門にずっといるキャリアの方は多い。例えば工場経理と本社経理を3年毎に往復するようなキャリアは大企業の一つの典型だと思う。
こういう場合、7歳くらい年上の上司がずっとついてまわる。
それが素敵な方ならいいのだが、外れだったら、サラリーマン人生は相当ツライ。まさに「上司ガチャ」だ。中小企業は逃げ場がないのでもっと余計深刻だ。
一般的に、組織では上司は選べない。だから転職は最後のカードになる。

c)やらかしてずっと冷遇される
僕が転職した理由の一つはこれですね。
僕の性格とか仕事のスタイルからして、定期的に何かをやらかすはずだ。その結果冷遇されると、仕事がつまらなくなる。でも転職力がなかったら、状況を打開できない。詰んでいる。
(キャリアを構想する時に、自分のやらかしを前提条件にするのはアレだが、実際に前職を辞める前に、自分の結婚式をきっかけにクソどうでもいいトラブルが発生した)

d)やってたことが無価値化
ITエンジニアはこれに敏感だと思う。
・大型コンピュータ+COBOLのスキルしか身についていない
・最初は趣味的に取り組んでいたAWSを使ってのwebサービス構築が引く手あまたに
みたいに、ITの世界だとドラスティックだから。

ITの世界だけではない。例えば、ハウスマヌカンという、お店でお客さんに洋服のアドバイスをしつつ買ってもらう職業の人がいる(服に興味がなさすぎてあまり詳しくはないが)。華やかな職業だし、スキルによって売上の差も大きいようだ。
でも最近は服をネットで買う人が増えたし、そもそもハイブランド自体の売上が減っているので、ハウスマヌカンのスキル価値は随分減ってしまったに違いない。
こういうの、怖いですよね。


と、いくつか見てきたが、大事なことは、これが5年、10年のスパンではなく、20年、30年のスパンで起きることだ。20年ガラパゴススキルを積み上げたあげく、ある日放り出されたりする。
だからといって、20年、30年先を読むなんて、人間にはできない。
皆さん、今から30年前の世の中がどんなだったか覚えていますか?そのころは都市銀行たくさんあったし、山一証券もサンヨーもあったし、携帯ビジネスがこれから盛り上がるところで、日本の電機メーカーの巨大な広告看板が世界のいたるところに設置されていた。
あの頃から30年後の今を予想して、スキルを決め打ちするなんて、できないですよね?


もう一つだけ、違う切り口も出そう。
それは「転職力がない≒会社に対する交渉力がない」という話だ。
世の中には、本人が望んでいない転勤や、塩漬け人事(一つの仕事を10年とかずっとやらせる)がたくさんある。なぜそんなことがまかり通るかといえば、
・社員のためにならないことは、会社としては理解している
・でも、それをやることが売上/利益につながる
・社員を多少雑に扱っても辞めないなら、雑に扱おう
というロジックに経営合理性があるからだ。

一見、社員に優しいと言われているような大企業でも、観察してみると、こういう構図はよく観察できる(それを決定している人たちに、それほど悪気はない。こういうものだと思っているだけ)。
どんなにキレイなお題目を唱えていても、会社に勤めるということは労働力の売買であり、売り手と買い手の間には、暗黙的な交渉が存在している。交渉力を手にしておくべきだ。


あなたが今の会社が大好きなら、とても良いことだ。別に転職する必要はない。
でも30年後もそうとは限らない。
いまの環境がどうであったとしても、常に転職力は高めておくべきだ。それは今の会社にとっても悪いことではない。


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