社員が起業したので無償で支援することにした。あるいは複業を認めると何が起こるか?
ウチの会社にワークアウトという制度がある。
元々は10年以上前に「GE式ワークアウト」という本で読んだ制度をまるっとパクったのだが、要は「社員が会社を良くする提案をプレゼンし、経営幹部がその場で提案の採否を決断する」というものだ。
数年前に始めて以来、実際にウチの会社を変える大きな原動力になってきた。ここから生まれた新しい事業や制度は多い。
いつかこれについてももう少し詳しくブログに書いてもいいのだが、今日はワークアウトの話ではない。
数ヶ月前に、ワークアウトである提案があった。簡単に言うと、
・複業として日本酒の会社を起業した
・なのでケンブリッジでの仕事は80%にする
・ケンブリッジ社員に希望者がいたら、彼らの工数を無償で提供せよ
というものだ。
これ、かなり図々しいと思いません?
前半は単に「自分が複業します」という話なんで、複業を許可しているうちの会社としては「ああそうですか」なんだけど、最後の「他の社員の工数も無償でよこせ」は結構な話だ。
だが僕ら経営陣は、この提案を採用することにした。会社にメリットがあるからだ。
うちの会社は元々クライアントの大部分が大企業なので、この話の前から、組織能力を広げるためにかなり意図的にベンチャーを支援している。
こういう文脈の延長線上に、ケンブリッジの方法論を熟知した社長が経営するベンチャーが出現したのだから、それを支援すれば優れたケーススタディが手に入るはずだ。例えば、
・小さな企業のB2Cマーケティングのノウハウ。
・クラウドファウンディングのノウハウ。
・泥臭いチャネル営業のノウハウ
大企業だけと仕事していても、どれも手に入りにくい。
これを手に入れるための投資として、社員数人の20%の工数は決して高くない。
同じことを社員の側から考えると、コンサルタントとして起業を手伝いたい社員は元々一定数いるので、彼らにチャレンジの機会を提供できる。
ただし、完全に無償で支援すると利益供与的な面倒な話になってしまう。そこで「組織能力を広げるための実験投資」という位置づけにした。起業を通じて得た成功や失敗やノウハウは、社長自らが勉強会講師になってもらい、会社に還元してもらうことにしたのだ。
こういう特定の社員に対する支援をやると、
今後もっと多くの社員が起業して、「ウチの会社にも社員の工数を使え」と言ってきたらどうするんだ?
という懸念もあるだろう。それは流石に困るし、だとしたらこの会社だけ特別扱いしていいのか?と。
その懸念が上がった時に、僕は「そう、特別扱いするのだ。だって彼が言い出しっぺだから」と返した。
ウチの会社の経営方針書には、「変化を常に起こすために、言い出しっぺ優遇」という項目がある。最初にやりだした人は、常に資源を優先配分される。悔しかったらあんたも言い出しっぺになればいい。
※写真はケンブリッジ登山部で陣馬山行った時に撮りました
そもそも、この「複業として起業する」「起業を支援したい」という話は、もう一つ別の経営方針にも合致している。
転職しなくても、チャレンジし続けられる環境を作る
社員が新しいチャレンジをすること、ストレッチをすることを推奨したい。推奨するだけでなく、必要に応じてサポートする。
社員が望むなら、チャレンジ案件へのトライや、スピンアウトしてスタートアップを立ち上げるなど、やりたいことをやれる/支援できる会社でありたい。
今回起業した社員は、5年くらい前から「ケンブリッジは大好きだから長く勤めるつもり。でももっと好きな日本酒に絡めた仕事ができるなら、ケンブリッジを辞めてチャレンジすると思う」と言っていた。
会社が複業を認めていなかったら、彼は今回の起業に際して、会社を辞めていただろう。でも複業がOKなお影で、会社は貴重な戦力を失わなかった上に、新たなノウハウを手に入れるチャンスも得た。
社員の側からすると、勤め人として安定した収入を得ながら人生の大勝負ができる。両方にとってハッピーだ。
彼以外にも、友人の起業を週に1日だけ支援している社員や、タレント活動をしている社員、本を書いている社員(僕もその一人だが、印税は個人収入になる)、芸術家、などなど、いろんなヤツがいる。メリット以前に、単純に楽しそうでしょ?
ちなみに今回取り上げた日本酒ベンチャーがやっているクラウドファウンディングはこちら。
https://www.makuake.com/project/hitomaku/
まだ募集し始めたばかりだが、すでに目標金額の数倍が集まっている。
なんでも「圧倒的にカッコいい缶に、本当に美味しい日本酒をパッケージして、野外など今までにはないシチュエーションで日本酒を楽しんで欲しい」というコンセプトらしい。
僕も日本酒は好きなのだが、下戸なので1合ボトルは嬉しい(4合瓶だと飲みきれないから)。
何しろ元々が酒マニアなので、中身の日本酒の味は折り紙付き。付き合いのある蔵元さんに専用のお酒を醸してもらっているらしい。
興味がある人はポチッてください。
***********新刊「システムを作らせる技術」情報
3ヶ月待って、ようやくゲラが上がってきました。
現在チェック中。なんと370ページ。ちょっと厚すぎる気もするが、おかげで「システム構築については、とりあえずこれを読めばわかる」という本になっている。
あと自分で言うのも何だが、ライトな文体なので、ほとんどの人はサクサク読めると思う。