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評価制度を通じての育成は傲慢か?あるいは王道か?~事例で考える~

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少し前に、こんな趣旨のツイートが流れてきた。(誰のツイートなのかはもう忘れてしまったが・・)

「評価制度を通じて人材を育成する」って言うけどさ、評価で人の成長をコントロールするって、ちょっと傲慢な感じがするんだよね。人事部がやれることってほとんどないでしょ。

なかなか深い。共感する部分と、反論したい部分の両方がある。

まず、共感する部分。
うちの会社の感覚だと、育成について、人事部門がコントロールできることって10%くらいしかない。残りの90%に人事部門はタッチできない。僕は育成部門の責任者もしているので、これを認めるのは悔しい思いもあるのだが。

例えば、座学のトレーニング。これは人々が思っているよりも役に立たない。
・そもそも、トレーニングで教わった内容はほとんど記憶に残らない
・座学で学んだことを実際の仕事に適用する橋渡しは本人任せ
・上司や同僚が学んだことを知らないこともあり、使う環境がない
といったあたりが、役に立たない理由だ。

それでもウチの会社でも毎週のようにトレーニングが開催されるし、何十人も受講している(特にオンライン化してからは受講者が増えた)。
だが、ウチの会社のトレーニングって人事部門が主催するのではなく、現場で仕事をしている社員が(勝手に)開催するので、「人事部門が育成をコントロールしている」という感じではない。

そして人を育てるために一番大事なのは、プロジェクトの現場で手取り足取り教えること。座学よりも、現場の文脈で現場で使えるノウハウを直接教えるのが一番効果的だ。これももちろん人事部門は手を出せない。

元々のツイートは「評価制度を通じて人材を育成する」に異を唱えている。
多分、具体的には「企画力が評価される会社なので、企画力を伸ばそう」みたいなことって、実際にはありえないよね、という意味だ。
またはそうやって人事部門がコントロールすることへの拒否感。僕もそうやってコントロールされるのは好きではないので、よく分かる。
ここまでが共感する部分。


一方で、反論したいこともある。
それは先程「人事部門がコントロールできることって10%程度でしかないよ」といったものの、「ゼロではなく、着実に影響がある」という話だ。それが10%かどうかは知らんが。

学校での勉強に例えると、「大学受験の問題によって、高校生が何を勉強するかが決まる」という話は、受験経験者は頷いてくれるだろう。
例えば僕が受験した大学の世界史の問題は「○○について400字で論ぜよ」が3問だけなので、トリビアクイズみたいな知識暗記は全くしなかった。逆にある級友は「江戸時代の出版社の数は?」みたいな問題を出す大学を受験するために、教科書の隅々まで暗記していた。

それと同じように、「評価制度でチェックされる」と意識すると、人々の行動は変わる。
例えばウチの会社の評価制度には、以前は「周りの人の成長に寄与したか?」という項目がなかった。元々それは大事にしていたのだが、単純に忘れていた。
10年ほど前に、そのことに思い至り、項目を追加した。

そして、5年くらい経った時に気づいた。社員の行動がはっきり変わったことに。
元々は「部下をちゃんと育成するマネージャーがかっこいい。だから公式に評価しよう」という趣旨だった。従って、これまで以上にマネージャーが部下の育成を意識するようになった。
そして驚いたことに、入社2,3年しか経っていない社員ですら、「周りの人の成長に寄与したか?」を意識するようになった。新人もマネージャーも、同じ人事評価シートを使っていたためだ。
評価シートに書いてあるのだから、毎回「周りの人の成長に寄与したか?」を評価される。若手のうちは評価対象外にしても良いのだが、「お客さんのコアメンバーに○○をわかりやすく教えることができていた」「同僚にきちんとフィードバックしていた」など、プラスの要素があれば評価シートに記入される。そしてマネージャーから説明をうける。

プロジェクトのたびにこうやって評価される。若手のうちから、そこを強みや弱点と認識している社員もいる。自然と行動に影響がある。
いまではこの項目を追加して本当に良かったと思っている。以前のように「成長に寄与したか」がないままの会社と、今の会社とでは確実に別の会社になっていた。


個人的には、「評価制度によって社員の行動をコントロールしようとするなんて、人事部門が傲慢だよな」と思わなくもない。管理部門ってそういう傲慢さと無縁ではいられないから。
だが、やはり「社員にはこうなって欲しい」とか「こんな社員が我社の理想像だ」という意志を込めた人事評価制度にしている会社は強い。漠然と評価項目を決めている会社とでは、長期では相当な差がつくのではないだろうか。

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白川が喋るのはこれ(この記事とも関係がある、育成についてです)
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