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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

地に足のついた働き方改革、あるいはアイディアとは複数の課題を同時に解決すること

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「テクノ大喜利 ITの陣」という連載に何回か投稿した。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の是非など、編集者が出したお題にいろんな立場の人が持論を書いていくナイスな企画だ。「テクノ大喜利」ってタイトルがすごく昭和っぽくて、時代を疾走している感じがたまりませんね。

前回のお題が「働き方改革」だった。僕はDXだの働き方改革だの、バズワードが嫌いなのでそういうのを聞くと、反射的に「ケッ」と思ってしまうのだが、デジタル技術を使ってビジネスを改革すること(DX)や働き方を良くして、働きやすさと働きがいを両立させることは当たり前に重要なので、バズワードが登場する前からずーっとライフワークとしてやっている。
なぜわざわざ新しいラベルをつけるんだろうか・・そうしないとモノが売れないから?

で、原稿を書いている時に、僕らケンブリッジ自身にとっての働き方改革について、これまであまりブログに書いてなかったな、と思い出した。あちらの原稿に書くには少し内輪すぎるので、このブログに書いてみよう。
お客さんとやるプロジェクト事例よりも生々しい所まで書けるので、かえって分かりやすいかもしれない。


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まず前提として、我がコンサルティング業界は働き方がマズくて有名だ。
僕も若い頃は2時、3時まで働いてタクシーで帰っていた。今から考えると、全くお客さんにとってお手本にはならない。
なぜそんなに残業するかと言えば、
a)正解がない、終わりがない仕事
⇒デザイナーや漫画家などと似ていて、どこまでやっても「十分」とは言えない。キリがない。
b)クライアント次第のサービス業
⇒お客さんの意向に振り回される部分がある。
c)納期が厳しい
⇒ビジネスはスピードが重要。困難な意思決定を短時間で導くため、短期でプロジェクトを走らせることが多い。

などなど、長時間労働になってしまう言い訳のオンパレードみたいな業界なのだ。業界他社社員のツイッターなんか見ると、今でも深夜までバリバリ働いている人が多そうだ。
うちの会社も昔はひどかったが、今や夜9時頃にはオフィスはガランとしている(仕事柄、中途採用チームだけが面接していたりするが、彼らはその分、朝遅く来たりしている)。
さて僕らはどんな風に仕事のやり方を変えてきたのか?


【1】納品成果物に時間をかけるのをやめた(2005年頃)
2000年ごろのケンブリッジは、プロジェクトの検討資料をすべて印刷し、バインダーに閉じてお客さんに納品していた。仕事でほとんど紙を使わなくなった今となれば、それだけもウンザリする。当時は更にプロジェクトでの検討資料とは別に、「納品のためだけの資料」を山ほど作っていた。
そういうのって、お客さんは納品されても読まないよね。お客さんだって暇じゃないんだし。じゃあいったい何のために作っていたんだろう・・。
しかも誤字脱字や表記ゆれのチェックに執念を燃やしていた。例えば、
「○○、あるいは××」はOKで
「○○あるいは、××」はNGとか。意味が分からない・・。
下っ端メンバーだった僕は、プロジェクトの最終日には毎回、キンコーズという印刷屋さんに行って大量のコピーをしていた。もちろん深夜4時とかそういう時間帯に。

これを改めた。
まず紙で納品するのをやめた。資源の無駄だ。更に納品専用の資料自体を一切作るのをやめた。
その代わり、日々の検討の質を高めるのに時間を使うようにした。そうすれば、「打ち合わせでの検討結果を書いた資料」を積み重ねていけば、プロジェクトは進んでいく。
打ち合わせ資料はお客さんも議論の時にチェックしているので、改めて検収する手間もいらない。
これが働き方改善の第1段階だった。


【2】会議資料を作り込むのをやめた(2010年頃)
僕らはファシリテーション型コンサルタントとして、会議の前には入念な準備をする。会議で使う資料(パワーポイントやExcel)を何日もかけて検討し、作り込んで臨んでいた。
若手が作った資料が先輩に真っ赤に直されるのはコンサルタントあるあるだ。

これも改めた。
正確に言えば、会議資料を作るのに時間をかけるときと、資料を一切作らない時のメリハリをつけるようになった。
きっかけは、1日4つくらいの会議を1人でファシリテーションせざるを得ないプロジェクトをやったことだ。こうなると、資料を作り込む余裕なんてない。その代わりに20分くらいじっくり時間をかけて、
・いま決定すべき論点はなにか?
・それを決定するために必要な情報、必要な参加者は誰か?
・1時間の枠内で、何をどういう順番で議論すれば結論を導けるか?
みたいな「会議のシナリオ」を検討することにした。そして考えたアウトプットである、会議のゴールやアジェンダを板書して、会議に臨む。

この形式で何度もやっていくうちに、重要なことに気づいた。資料を作り込んで臨んだ会議よりも、時として上質な検討ができるし、結果として意思決定の質も高かったのだ。理由は多分2つある。
まず、お客さんに作り込んだ資料を会議で見せると、どうしても「見せられた資料をレビューする場」になってしまう。発想もジャンプしないし、お客さんの主体性も生まれない。
もう一つは、会議のシナリオをじっくり考えて臨むのは、ファシリテーターとして最も重要なことだ。時間が20分しか取れない代わりに、ここに資源を集中投下できた。結果として議論の質が高まるのは当然だ。

僕らはよくプロジェクトを立ち上げる際に「合宿」と称して2日間ぶっ続け議論をする。
この時も、事前にパワーポイントは作らない。その代わりにかなり長い時間をかけて論点の抽出をし、それを議論するための枠組み(マトリクスがいいのか、フリートークがいいのか、付箋で意見表明がいいのか・・)をいくつもシュミレーションして当日に臨む。
そうやってプロジェクトの最初に、最高のチームを一気に作るのだ。


【3】すべてコンサルタントがやるのを諦める(2010年ごろ~現在)
以前の僕らは、お客さんのオフィスにべったり常駐してプロジェクトの推進力を提供するコンサルティングスタイルだった。ヒアリングもやるし、それを資料化するし、集めたFACTを構造化して課題分析もする。それらを全てコンサルタントである僕ら自身がやらないと、プロジェクトは一歩も進まないと思っていた。

だが、以前より小さい組織とお付き合いするようになり、予算制約でコンサルタントをたくさん配属できないプロジェクトをやるケースが増えた。さらにはお金の問題ではなく、「自分たちの手でやりたいんです!」というタイプのお客さんもいる。
これらを通じて、お客さん自身に手を動かしていただくケースが増えた。
当然、お客さんのマンパワーを十分活かすためには僕らがお客さんにノウハウを教え、戦力になってもらわなければならない。プロジェクト中に方法論をレクチャーする機会がグンと増えた。

これらは苦肉の策だったが、しばらくして気づいた。
プロジェクトの成功と同じくらい、お客さん1人1人が変革リーダーとして成長すること、お客さんの組織全体が「変革を乗り越えられる組織に生まれ変わること」ことの価値が大きいことに。
もしかして、僕らが良かれと思ってお客さんのためにアレもコレもやってあげていたことは、かえってお客さんのためになっていなかったのかも・・。
僕らが死ぬほど働くよりも、お客さんと協力し合った方が、もっといいプロジェクトになるのかも・・。
※そういうタイプのプロジェクトを「育つプロジェクト」と読んでいる。詳しくは「リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書」を読んで欲しい。


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紙の印刷からコンサルティングサービスそのもののあり方まで、3つの変化を読んでもらった。
振り返って思うのは、こういう変化は、「若者、変わり者が権力をもたないとやりにくいな」ということだ。
例えば1つ目の事例。
資料に「○○、あるいは××」と書くか「○○あるいは、××」にするかなんて、プロジェクトの成功には一切関係ない。だから若き日の僕はそんなことに時間を使うことに反対していた。だが、上司であるプロジェクトマネージャーが許さなかった。クソだ。
当時は「納品成果物の品質こそがプロフェッショナルなコンサルタントの誇り」みたいな価値観があったからだろう。でも、あなたが大事にしている品質って、そんなプロジェクトの成功に全く寄与しない品質のことなんですか??

結局、こういうどうでもいいことに時間を使わずに済むようになったのは、自分自身がプロジェクトマネージャーとして、品質に責任持てるようになってからだ。コンサルティングサービスの本質的な部分では品質に自信があったから、外野からの文句は無視した。
やっぱり何かを変えるためには、リーダーの腹のくくり方が鍵になってくる。

もう一つ大事なこと。
これら3つの事例は全て、
単に「残業やめろ!」と強制したわけではない。
人事制度を変えたわけではない。
新たなITソリューションは導入していない。

僕らも市場で戦っているので、顧客へのサービスレベルを下げたコストダウン/労働時間の削減をしたわけではない。社員と顧客のメリットが両立している。
3つの事例とも、本質でないことをやめたことで、ケンブリッジ社員にとっては楽になった。
それと同時に、本質的な価値を磨けたり、新たに本質的な価値を発見できた。結果として、お客さんにも大きなメリットがあった。

「アイデアというのは複数の問題をいっぺんに解決することだ」
とは、スーパーマリオの開発者宮本茂さんの言葉だという。
だとすると、「残業が多い」⇒「残業禁止」はアイディアではない。

そうではなく、サービス品質向上と社員の労働時間削減。この2つを高い次元で両立させる方法こそが、アイディアなのだ。この記事で紹介した3つの事例はどれも、後から考えれば当たり前だった。でも当時の凝り固まった価値観を壊す必要があった。つまり大げさに言えばパラダイムシフト。その結果、2つの問題をいっぺんに解決できた。

働き方改革を単なる掛け声に終わらせず、ちゃんとやるなら、些細でもいいから「複数の問題を解決するアイディア」を追求したいものだ。

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