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思考停止の諸類型、あるいは人は思考をサボる言い訳を探している件

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思考停止という現象に興味があり、以前からそれについてのアンテナを立てている。

人間は本当に思考を面倒くさがる。だから思考停止が許される言い訳ができると、それに飛びつくように見えることすらある。もうそれ以上考える必要がなくなって、ホッとしているみたいに見える。

注意深く観察していると、「ああ、この人は思考停止しているな」というのはわりあい分かるものだ。
ただしそれはあくまで「他人から見ると分かる」という話であって、当人にとっては全く逆だ。なにしろ思考が停止しているので、「今、ひょっとして、思考停止している?」とは中々気づけない。もちろん僕自身もそうだ。
だからこそ、思考停止は怖い。知らず知らずのうちにきちんと考えることを放棄し、その場の空気なり、決定事項なりに流されてしまう。そうして、後々問題が起きてから「あの時もっと良く考えておけばよかった」と後悔する。または上司に「これくらいのこと、考えておけよ」と怒られて、歯噛みする。


思考停止は自分では気づきにくいけれども、人が思考停止に陥る癖みたいなものを知っておけば、多少は避けられるかも知れない。そう思って、随分前から思考停止を目にすると、コツコツとiPhoneにメモを残してきた。いつかブログのネタにしようと思って。
記事でいうと5個分くらい溜まったのだが、ネタを薄めて記事の数を増やす趣味はない(閲覧数気にしてないから)。
だから、思考停止にどんなパターンがあるのかを、一気に吐き出してみようと思う。

(うちの会社の人は、白川がこのパターンにハマっている時は遠慮なく指摘してください)




★ルールなので、前例がないので
僕は変革プロジェクトという、前例がないことをやったり、ルール自体を作るのが仕事なので、こう言われても「だから何?あなたの見解を聞いているんですけど?」と思う。けれども、世の中にはこれを言えば相手が黙るとか、自分がこれ以上考えなくて済む、と無意識に思い込んでいるタイプの人がいる。


★それっぽい反省
うちの会社は結構反省会というか、振り返りの場が多い。そうやって仕事の質を上げていこうね、という趣旨なのだが、そこで語られる反省が、改善につながりにくいケースが結構ある。曰く、
「準備不足でした」
「仕事の目的をよく考えずに取り組んでしまった」
「ゴールをみんなで共有しなかった」
「作業見積もりに失敗した」
とか。

そしてこれを言ったことで満足し、これ以上深く考えないケースが多い(思考停止)。
例えば「ゴールをプロジェクトメンバーみんなで共有し、納得する」なんて、本質的に難しいことだ。その難しいことが十分やれなかったなんて、ある意味当たり前。問題は「どうしたらゴールを共有できるか?」であって、そこにこそ改善の余地がある。
でも、難しいからそれ以上考えるのをサボる。


★CS向上を事業戦略に掲げる
どんなビジネスであれ、お客さんに満足してもらうなんて、当たり前に目指すべきことだ。満足してもらわないと売上があがらず、ご飯が食べられない。
だからCS向上を戦略として掲げるのは「それ以上戦略について考えるのをサボる言い訳」だと思う。
本来は、「どの顧客に、どうやって満足してもらうのか?」そのために「どの顧客を諦めて、何に投資するのか?」こそ、考えるべきことだ。

日本企業で一番良くある「CS向上」をやり玉に上げたけど、「思考停止の言い訳として掲げられる戦略っぽい言葉」は他にもある。


★言ってもしょうがないことを言う
例えば、採用やマーケティングについて議論していて「うちは知名度がないからなー」と言うとか。
まあ、単なるボヤキならば聞き流せば良いのだが、「あなた、それを言ったっきり、思考停止してません?」というケースが結構ある。

知名度がない、という現状認識があるならば、
a)知名度をあげるために何に投資するのか?を考える
(時間を投資してPR記事を書いてもらう働きかけをやるとか)
b)知名度が低くてもビジネスが成り立つ方法を考える
のどちらかを考えなければならない。
知名度がないことは、あなたが思考停止する言い訳にはならない。


★作業に没頭する
真面目な人に多い。
例えばプロジェクトを立ち上げる際、「この事業の本質的な課題はなんだろうか?」「何を変えたら業務が劇的に良くなるだろうか?」をとことん考え尽くす必要がある。
でも、何度も言うように人は考えるのをサボりたがるので、逃げる。逃げるために何をするかというと、手当たり次第調べるのだ。

「とりあえず現場の意見を聞け」
「まずはアンケートやってみよう」
「今やっていることを片っ端から棚卸ししてみよう」
とか、聞いたことないですか?

業務改革のプロとして言わせてもらうと、何の仮説も持たずに「とりあえず」で現場仕事を調査しても、本当にショボイことしか分からない。Webでアンケートとったりしても、「これ、何に使うの?」というボヤキが大量に集まったりする。
(そうやって活用されていないアンケートの残骸を、後から来た僕らが、活用することはちょくちょくある)

なので「ひたすら情報を集める」みたいな、没頭できる作業に逃避するのは、やっぱり思考停止のサインだ。真面目な人こそそうなるので、指摘はしづらいんだけどね。

「まずは見積を受け取ってから考えよう」
なんかも、これとほとんど同じだと思う。金額は選択の一つの要素でしかないので、見積もりもらう前に考えるべきことって沢山あるし、ひょっとしたら見積もり依頼をしなくてすんだりするのにね。


★ケリが付いたことにする
これ、ちょっと分かりにくいかもしれない。言い方をかえると「モヤモヤという感覚を大事にしよう」になる。プロジェクトで難しいテーマについて議論していると、必ずしも誰もが納得するスッキリとした結論にならない。こういう時に、「何に引っかかっているのか、いますぐ言語化できなくても、モヤモヤしていること自体をまずは表明しよう!」というルールをケンブリッジでは採用している。
だから特に若手メンバーが「ちょっとモヤっているんですが・・」と議論をとめ、それをきっかけにもう一歩深く議論をすることも多い。

逆に、そういう違和感をあまり拾わずに「それは済んだ話だから」とスパンスパンと見切る人もいる。その人が完璧に見通せているならいいのだけれども、「本当は立ち止まって議論した方が良いのだが、もう考えるのをやめたいからケリが付いたことにする」というケースもある。もちろん無意識レベルで。
なので、「それ、もう終わった話でしょ」とか「意見としてまとまっていないなら発言するな」みたいな発言は、実は思考停止への欲望だったりするのだ。

※これ、大事な話なので、そのうち単独の記事として書くかも。


★○○が決まってないので検討できない
例えば、
「予算が決まっていないからスケジュール検討できない」
「システムが固まっていないから業務設計ができない」
みたいに、方針Aと方針Bが「ニワトリとタマゴ」状態になっていることは、プロジェクトではよくある。
方針Aが決まらないと、方針Bが検討できない。一方で、方針Bが決まらないと、方針Aも検討できない。

当たり前だが、そういう場合は無理やりAの仮案を作り、Bに当てはめ、そのフィードバックを元にもう一回Aを考え・・と、往復検討をするしかない。Bの仮案を先に作る場合もあるだろう。

そんなの考えれば誰でも分かることなのだが、AとBの担当者が別人の場合、「○○が決まってないので検討できない」というのが、考えない言い訳として多用される。オイオイオイ。

「方針Aが1に決まるなら方針Bは2、方針Aが3なら4」みたいに事前に考えている人はいない。「方針Bの立場からは、方針Aは1ではなく2であって欲しい」みたいなことを考えている人も稀(もし考えていたなら、ああいう言い訳はしない)。


「準備不足でした」とか「○○が決まってないので検討できない」とか「ルールなので」という言葉を聞くと、僕のアンテナは「思考停止ワードかな?」とピクリと反応する。
繰り返すけど、言っている本人には悪気はないのだ。サボっているつもりもないのだ。単なる習慣なのだ。
でも、それが仕事のブレーキとなる。検討の穴にもなる。

プロジェクトファシリテーターというのは、そういうのを一つ一つ取り除くみたいな仕事でもある。

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