ファシリテーターが持っている「意見を引き出す力」あるいは10割配分法について
ファシリテーションを説明する際に「人々から意見を引き出す」みたいなことが言われる。
課内会議で課長ばっかりいい気分で喋っていて(あるいは怒鳴っていて)、後の人はうつむいて聞いている、という会議に比べて、ファシリテートされた会議は新人からベテランまでまんべんなく意見を言って・・みたいなイメージだ。
その通りなのだが、肝心の「引き出すためのテクニック」について、僕はこれまであまり説明してこなかった。人の意見を引き出すって難しいですよね。
★意見の引き出し初級編
・「○○さんはどう思いますか?」と指名して発言を促す
・「意見を全員付箋に書いて、張り出してください」というやり方で、発信が偏らないようにする
あたりが基本中の基本だ。
これらは主に、発言者の偏りをなくすために使うテクニックだ。
でも、本当に難しく大事なのは、下記の「考えていることの微妙な違いを引き出す」ほうだ。
★考えていることの違いを明らかにするのが、本当のコンセンサスには必要
ファシリテーションというのは「会議の参加者がなんとなく合意した気になること」をゴールにすべきではない。そういうのを僕は「脆弱なコンセンサス」と呼んでいる。
そういう合意形成をしていると、もっとシビアな状況になった時にどうせちゃぶ台返しになる。議論が戻ってしまうのだから、プロジェクトのスピードが落ちる。
だから、なるべくは「硬いコンセンサス」を作りたいし、そのためには
「なんとなく考えていることが一致している雰囲気」
を
「色々と相違点を検討した結果、それでもコレになら合意できるぜ!という状態」
まで、議論を導きたい。
そのためには、「Aさんの考えていることは○○で、Bさんの考えていることは??ですね。この違いはどういう認識や方針の違いがもたらすのだろうか?」という議論が必要だ。
つまり、あえて腹の中を見せあい、違っていることを目で見て分かるようにする。
だけどプロジェクトの立ち上げ段階など、抽象的な話をしている時はこの「腹の中を見せ合う」が結構難しい。そういう時に僕が使うテクニックはいくつかあるが、今日紹介したいのが「10割配分法」だ。
最初に仕事とあんまり関係ない例を2つ、最後に仕事でよく出てくるシチュエーションを1つ紹介しよう。
★10割配分法「スポーツは3つの要素から出来ている」
この例は完全に白川の勝手な持論なんですけど。
スポーツは「身体能力」「テクニック」「戦術」の3つから成り立っている。
例えばサッカーはこの3つが極めてバランスが良く、
・身体能力:3
・テクニック:4
・戦術:3
くらいだと思う。
これがカーリングだと、
・身体能力:1
・テクニック:5
・戦術:4
になる。僕は見るスポーツとしてはサッカーが一番、カーリングが二番目に好きだ。
100m走だと、
・身体能力:9
・テクニック:1
・戦術:0
とかなんですかね?
マニアから言わせれば「相手によって走り方を変える」みたいな世界があるのかもしれず、「100m走なんて戦術要素ゼロでしょ」というと怒られるかもしれないけど、まあ、誤差レベルでしょう。少なくともカーリングにおける戦術の重要性と比べると、ゼロと言っていいはず。
このように、各スポーツで「3つの要素の重要度」は異なる。それを「10点満点をどう配分するか?」で表現するのが「10割配分法」である。
★人間の価値観は3つの要素で表現できる
もう一つ、更にどうでもいい白川の持論。
人間は「メガネ」「おたく」「ヤンキー」の3要素のバランスで表現できる。
「おたく」とは、自分の好きなことに極端に資源を投資して没頭するタイプ。
「メガネ」とは、合理性、知性主義を大事にする傾向だ。実際に合理的かどうかはともかく、「合理的・知性的でありたい、そういう人を尊敬する」というタイプ。
「ヤンキー」は、人と人との絆や上下関係を大切にし、経験からしか学ばない傾向。
こう勝手に定義すると、僕自身の自己評価は、
・おたく:3
・メガネ:7
・ヤンキー:0
かな。
うちの会社は、僕や社長をはじめ、メガネ度が高い人が多い気がする。コンサルティング会社だから、というのはもちろんあるけれども、世の中にはヤンキー度が高いコンサルティング会社もありますよね。どことは言わないけど。
ヤンキー度が低い人が多いのは、多分うちの会社の弱点なんじゃないかな?この意味でも、もっと多様性を高めたい。おたく度が高い人ももっといたほうが良い。
もう少し例を挙げると、このオルタナティブブログでも書いている榊巻はうちの会社としては少し例外で、
・おたく:3
・メガネ:3
・ヤンキー:4
だと思う。
皆さんも身近な同僚の10割配分がどうなっているか、考えてみてください。それを本人に伝えて喧嘩になっても知りませんが。
★仕事で10割配分法を使うと?
さて、話を仕事に戻します。
例えば、プロジェクトの立ち上げ段階で「現場がうまくいっていないんだよね~」「そうそう!」みたいな話で盛り上がったとします。
まだしっかりした調査をする前なので、何がどうマズイのかをデータで示すことは出来ない。でも、プロジェクトメンバーの腹の中を見せ合って、違いについて議論したり、一致していることを確認しておいたほうが良い。
こんな時に、ファシリテーターとしての僕はよく「現場のマズさって、何が原因だと思っていますか?現時点の感覚で構わないので、ざっくり配分してみてください。僕はこんな印象を持っています」などと話しながら、
・役割分担やルールのマズさ:3
・ITのマズさ:2
・教育のマズさ:5
などと書いてみる。
そうすると「いやー、私は3:6:1ですね」だの「うちの問題は教育でしょ。1:1:8くらい!」みたいな意見がどんどん出てくる。そうして、各人がどうしてそう思っているのかを語ってもらう。
さらには「3つのどれでもなくて、経営の問題だ!」みたいな意見も出たりする。
繰り返すが、プロジェクトの立ち上げの段階だと、事実・データをもとに確実なことを言う必要はない。
「オレはこう思っているけど、みんなはどう?」をきちんと見せあい、確認しあい、プロジェクトの肝となりそうなポイントにあたりがつけばいいのだ。
もちろん仮説に過ぎないから、実際に調べてみたらITが腐ってるとか、やっぱり教育らしい教育をせずに「OJTという名の放置」になっているとか、実態が分かってくるから、もっと地に足の着いた議論になる。
でも、プロジェクトとはこうやって立ち上がって、だんだん核心に近づいていくのだ。
僕らファシリテーターがやっている「意見を引き出し、違いについて語りあいながら、人々の意識を一つのゴールに揃えていく」というのは、こういう地道な議論の積み重ねだったりする。
モヤモヤした考え、感覚を引き出すのはおもったより難しいから、この手の引き出しをいくつも持って、場によって使い分けられたら上級ファシリテーターと言って良いんじゃないかな。
※4年後の注釈
この技法、僕は個人的にずっとヘビーユースしているのだが、ウチの社内ですらあんま広がらない。他の技法(例えば前にもブログで書いたshow the flag)に比べてもそうなので、どうしてなんだろう?と思った結果、ネーミングがアレなのかな、と。
そこで 10points / 10 points というバタ臭い名前を新たにつけました。
今後検索しやすい様に書いておきます。