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秒単位の頭の回転で優秀さを判定する習慣やめませんか?あるいは採用面接で見えることと見えないこと

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いま、新卒採用の最終面接に結構時間を割いている。
未来の同僚を選ぶわけだから、最大級に重要な仕事だ。
面接をやる時期は、普段に増して「僕らにとって頭の良い人材とは?」「それをどうやって見極めるか?」を考える。
一番悩ましいのは、「面接の場で軽妙にやり取りできる人は頭が良いのか?」ということ。

なぜなら、面接というのは制限時間が実質3秒くらいしかないキャッチボールだからだ。
そして僕は「持ち時間によって、頭の良さの質が変わる」と思っている。


【持ち時間1秒】
サッカーを見ていると、頭が良い選手とそうでもない選手、が存在する。別に試合後のインタビューで気の利いたことを言うとか、そういう話ではなく、プレーに表れる知性の話をしている。
「そのタイミングでそこにパスを出すか」
「とっさにこちらの方向にダッシュしたからうまく守備できた」
みたいな感じ。
この時にサッカー選手に与えられる「思考の持ち時間」は0.2秒とか、せいぜい1秒だ。熟考するのではなく、とっさに最適な行動を選択する知性。


【持ち時間1分】
1:1の会話とか、少人数の議論での持ち時間は、3秒から長くて1分くらいだろうか。
それ以上考え込んでいると、1:1ならば「会話が成立していない」「相手がお客さんや上司なら失礼」という状態だろう。数人でのミーティングでも、考え込んでいると話題は移り変わってしまう。
だから、数秒から1分以内で気の利いたことを言わないと、場に貢献できない。


【持ち時間1時間】
課長さん部長さんくらいになると、思考の持ち時間は1時間くらいはあるかも知れない。何かを決裁したり、企画を練ったり、部下の指導方法に悩んだりする様な場面だ。
毎回1時間考える贅沢はないと思うが、重要テーマであればそれくらいは許される。
プロジェクトが大きな岐路に立たされているような時は、1ヶ月位悩んだ末に決断することもある。
(僕も今、1ヶ月以内に意思決定すべき重要テーマを持っている)


【持ち時間1年以上】
経営者は、日々かなりの数の意思決定をしている。ほとんどのものは即決するのだが、部長と一緒に1ヶ月悩む場合もあるでしょう。

そして、ロジカルには決められない、本当に大事な経営判断は時に年単位で考えることもある。
例えば僕の場合、
「会社をどれくらいのペースで成長させるか?」
「人事評価体系をどう改良すべきか?」
「どういうお仕事をやり、どういうお仕事はお断りするべきか?」
みたいなテーマは何年も抱えながら、ずーっと考えている。
そしてその時々の暫定的な結論にもとづいて、日々判断を下す。
もちろん、本を書く時は数年に渡って考えてきたことを、半年くらいかけてアウトプットする。だからかなり長めの持ち時間での思考力が試される。



さてここまで、「一口に判断力、思考力と言っても、与えられる持ち時間には随分と幅がある」という話をしてきた。
そして、人には得意不得意がある。例えば僕は、サッカー選手的な瞬間的な判断力には全く自信がない。ジムでエアロビに参加したことがあるのだが、コーチの指示に頭が追いつかないので、全く楽しくなかった。体が追いつかない訳じゃないので、運動効率も悪い。瞬間的な判断が苦手なのだ。

同様に、1時間1ヶ月単位の思考が得意で、難しい問題解決に冴えを見せるような人がいたとしても、面接だと持ち時間が短すぎて、持ち味を発揮できないかも知れない。面接での会話のキャッチボールというのは、明らかに「1分以内の短い持ち時間での頭の回転」を見極めることに適したフォーマットだから。

僕らコンサルタントというのは、「お客さんとの会話(持ち時間数秒)が上手に出来るか?」が一見大事に見えるが、それだけではタダの口先マンである。
結局信頼されるコンサルタントというのは、1日から1ヶ月くらいのスパンでしっかりものを考えられる人なのだ。だから、面接ではそういう意味での頭の良さを見極めたい。
突拍子もない話を質問し、即興の回答の面白さだけを見ても意味がない。

僕が心がけていることは2つある。

まず、その人がずっと抱えている様なテーマについて話を聞くこと。

もう一つは、あるテーマについて自分の頭でこの場で考えてもらうこと。

もちろん、分単位の持ち時間は差し上げる。
そして、その考えた結果について会話する。ここでもなるべく待つ。

そうして、僕との会話を通じて考えが深めていける人は、将来伸びる気がする(現時点の仮説だが)。
そういう人を採用したいと思っている。
なかなか見極めるのは難しいけどね。


さて、この話、採用面接に限らない。僕らは基本的に、短い会話の積み重ねを通じて他人の優秀さを判断する傾向がある。結果として1分未満の思考力を過剰に重視しているのではないか。

担当レベルであれば、何かテーマを担当してもらい、数日後に持ってきた「思考結果」の良し悪しが大事なはずだ。
管理職であれば、その能力は
・5年先10年先を見据えたビジョンの見識の高さ
・その人が年単位で取り組んでいる組織やプロジェクトの成果
などで判断すべきだ。

だが、実際には上司や経営陣との会話で気の利いたことを言えたか?で判断されてはいないだろうか?
僕自身もそういう傾向がないわけではないので、気をつけたい。

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