スマートに発言する<<<とにかく言うべきことを言う、あるいは組織の意思決定をミスリードするのは誰か?
僕が会議で、同僚に一番怒りを感じるのは、発言すべき時に発言しないことだ。
(いま、この記事もその怒りに任せて書いている)
ファシリテーションが下手くそなのはしょうがない。能力の問題だから。
資料がイケてないのはしょうがない。能力の問題だから。
発言の内容がアホなのはしょうがない。僕もアホなことをいうから。
そういう場合、お客さんに申し訳ないと思うし、改善は必要だからアクションはするが、怒りはしない。怒っても能力はすぐに上がらない(むしろ誰かが怒ると、周りの人の能力は下がる)。
でも、発言すべき状況で、情報をもっているのに口を開かないのは、仕事への姿勢の問題だ。
そして、とても危険なことだ。
例えば、プロジェクトではこんなことがよく起こる。
・事実Aと事実Bを考慮した上で、方針βにきめた
・後から、コアメンバー以外の人が「Aという事実があるのだから、βの方針はおかしい。αにすべきだ!」という主張をする
こういう人はしばしば、「Aの事実を掴んだ!」ということで、声高に主張する。
そして、「こんな単純な判断すらできないのだから、プロジェクトチームはおかしい」みたいな流れになる。
(僕だって逆の立場なら、そう言うかもしれない)
この時、「いや、実はBという事実もあり、それを踏まえて議論した結果、αではなくβを選択したんです」という意見を、必ず言う必要がある。
プロジェクトチームのピンチとか、コンサルタントとしてまずいという話以前に、その会社が、誤った情報を元に、誤った意思決定をしてしまうから危険なのだ。
今一度「事実Aと事実Bを考慮した上で、方針βにきめた」という経緯を共有し、「でもやっぱり考え直して、αに方針を変えよう」という話であれば、別によい。
そうではなくて、「事実B」をすっぽり考慮せずに方針αに変えるのは、誤った意思決定だ。(ミスリードと呼ばれる)
声高に主張している人が、偉い人(社長とか)の場合は、「お言葉ですが・・」と発言する難易度が上がる。
声高に主張している人が、怒っている場合は、難易度は更に上る。
それでも、誤った情報、偏った情報を元に意思決定しそうになっているのであれば、きちんと発言しなければならない。
怒っている社長に対して発言すると、発言した人に(理不尽な)怒りが飛ぶことがある。サラリーマンならクビとはいかなくても、左遷くらいはされるかもしれない。それは避けたいので、そういう状況で発言しない人が多い。
強い組織というのは、この手の発言が歓迎される組織だから、本当は左遷などもってのほかなのだが、現実の組織は理想通りではないからね。。。
こういうときのために、僕らコンサルタントがいる。
コンサルタントは部外者だから、こういう場面で発言すると、社員よりも怒りを買いやすい。そして簡単に契約を打ち切られる。
でも、言ってしまえばそれだけのことだ。一生働く会社で、一生冷や飯をくらうよりは、遥かに低いリスクだ。
だからこそ、僕らコンサルタントは言うべき時に、言うべきことを、言わなければならない。
そうでなければ存在価値がない。
会議の後、「あなたのほうが情報をもっているはずなのに、なぜあの時ちゃんと発言しないのか?」と、(怒りをにじませながら)同僚に質問すると大抵「白川さんが先に言ってしまった」という言葉が帰ってくる。
そうかなー。僕の方が情報をもっていないんだから、真っ先に口を出すということは普通しない。でもこれ以上言わないと話がおかしくなる、という時に仕方なく発言しているつもりだ。
そしてもう一つの理由。
「言うべきことは分かっていたが、タイミングを見計らっていた」
あのね、それがいかんのだよ。
「適切なタイミングで、スマートに発言しなければならない」
「お客さんや上司に失礼にならないように発言しなければならない」
という話にも、ある程度は意味があるのだが、「意思決定を正しくするために、適切な情報を場に提供する」ということの大事さに比べれば、鼻クソみたいなものだ。
そういう人は、僕が発言しなくたってどうせ発言しないのだ。そして話題は移り変わってしまう。
タイミングなんて、手を挙げて「あのー、ちょっといいですか」で、流れをぶった切ればいい。
話題が移り変わってしまったとしても、本当に大事なことなら、「あのー、さっきの件に戻るんですが」と切り出せばいい。
そして会議の場の失礼さなんて、プロジェクトを(そうと知っていて)失敗に導くことに比べれば、本当に本当にどうでもいいことなのだ。
第一、どこの会社でも、立派な人物であればあるほど、仕事に真剣であればあるほど、礼儀なんかよりも、きちんと意見を言うことを尊重してくださる。
先日読んだ「最悪の事故が起きるまで人は何をしていたのか?」は、原発や飛行機事などの巨大機械システムの事故についての本だ。
この本の一番最後に、「飛行機の安全にとって、最も重要なのは耳に痛いことを言う副操縦士だ」と書かれていた。
機長が優秀なことよりも、きちんと言うべき時に言うべきことを言う人こそが、大事故を未然に防ぐのだ。逆に言うと、問題の予兆に誰かが気づいていても、「機長がああ言うのだから」「彼がエキスパートだから」といって何も発言せずに、大事故になだれ込む事例が、この本にはたくさんたくさん載っている。
優れた会社はそのことをわかっている。