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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

装置産業という自覚はあるか?あるいは、自社のシステムに関心と誇りを持てないのは悲しい

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★工場見学は楽しい
製造業のお客さんと仕事をすると、自分たちの工場を大切にしていること、誇りを持っていることを強く感じる。

僕は自分がやっているプロジェクトに関係なくても、お客さんの工場を見せていただくことがある。
日野自動車さんの工場では、ラインの端っこでは鉄骨のフレームだけだったのに、ラインに沿って歩いて行くとアレよアレよとパーツが取り付けられ、逆の端では20tトラックが走りだす。ああ、モノづくりってこういうことね、という実感がある。
古河電工さんの工場では、どろどろに溶かした銅が、精密機械の配線に使われる微細な線や条になっていく。明治の一時期、日本の輸出額の6割が銅製品で、その銅製品の6割を古河電工日光工場で作っていたという。まさに富国強兵の最前線だったわけだ。

僕らを案内してくださるのは、たいてい職場長にあたるような方々。印象的なのは、皆さんが自分たちの工場を清々しく「自慢」することだ。
・機械が最新鋭で、特別な加工ができる
・ラインがいかに効率的にデザインされているか
・どのような工夫で生産性を高めているか
「これが俺たちのラインだ、どうだ見てくれ!」という誇りが伝わってくる。

「装置産業」という言葉があるが、製造業にとってはやはり、工場(機械設備や生産ラインのデザイン、働きかたのノウハウなど、広い意味での工場)は莫大な時間とお金を注いで練りあげてきた、利益の源泉なのだ。



★今や、ほとんどの業界が装置産業?
先日、銀行に勤めている友人が飲んでいる時に面白い事を言っていた。

「銀行にとってシステム投資って、BSへもPLへも影響が極めて大きい。お客さまへサービスが提供できるかも、システムで決まる。社員の生産性ももちろんシステムによって決まる。結局僕らも、装置産業なんだよね~

例えば、新しい金融商品を開発するのには大きなお金が必要となるが、その殆どがシステム開発費用である。ATMの様なユーザーの目に触れる所は分かりやすいが、その裏に、ビジネスロジックがびっしり詰まったシステムが控えている。

それは結局、製造業にとっての工場と同じような、利益を生むための「装置」である。いかに投資の意思決定をし、構築し、メンテナンスし、使いこなしていくか?このことが、ビジネスそのもの、経営そのものなのだ。

具体的なモノやサービスを売っていない金融業は一番分かりやすい例だと思うが、流通業だって、多くのサービス業だって、同じようなものだろう。その会社の独自性やノウハウが、システムの形で固定化されているのだ。
(重要なビジネスロジックがシステムのプログラムソースの中にしかなく、解析しないと分からない、というケースを聞いたことありませんか?)



★装置産業のわりには?
多くの会社で、システムが装置産業的にビジネスの命運を握っているにも関わらず、システムを作って使いこなしていく事が、ビジネスの本流だと思われていない気がする。
そして残念なことに、システムやシステムに関する仕事に誇りを持っている方も少ない。

a) 特殊技能を持つ社員だけが関わればよい、特殊なもの

「本音を言えば、厄介で関わりたくない。安くてバグのないシステムをさっさと作って欲しいよ」
という話をよく聞く。

これを製造業に置き換えると・・
「ウチは自動車メーカーだけど、クルマづくりには関わりたくない。安くて頑丈な車をさっさと作って欲しいよ」
そんなの、あり得なくないですか?

b) 請負契約の名のもとに、ベンダーさんに丸投げする

「システムについては、システムベンダーさんにお任せしているからよく分からないねぇ。データが簡単に取り出せないのは勘弁して欲しいよ」
という話をよく聞く。

これを製造業に置き換えると・・
「ポテトチップスのメーカーですが、工場で使う機械は機械屋さんにお任せしてるからよく分からないねぇ。他社に比べてパリッと仕上がらないのは勘弁して欲しいよ」
そんなの、あり得なくないですか?

c) 優良企業でも自社のシステムに誇りを持っていない

「業界No1企業のシステムって言っても、こんな感じなんですよ。お恥ずかしい限りで・・。他社さんどうしているんですかね?」
という話をよく聞く。

これを製造業に置き換えると・・
「ウチは世界一のオーディオだけど、ウチの工場はひどくて、とても人様に見せられないよ・・。なんだか知らないけど生産性も低いし・・」
そんなの、あり得なくないですか?

同じ「装置産業」であっても、製造業における工場の位置付けに比べると、システムの位置付けは残念な扱いだ。
もし製造業で、これだけ工場に関心がなく、ビジネスのコアだと思われていないのであれば、いっそのことファブレスメーカー(工場を持たない製造業)になったほうがいいよね。もちろんその場合は、デザインなのかマーケティングなのか、他に強みがなきゃいけない訳ですが。

★じゃあ、どうすれば良い?
業務とシステムのつなぎを仕事にしている者として、お願いしたい事がいくつかある。

1)作れなくてもいいです
半導体の技術者だといっても、必ずしも半導体製造装置のエキスパートとは限らない。半導体製造装置は別に優れた会社があるからだ。

2)でも、もう少し関心は持ちませんか?
経営者は、システムに関わるお金・人・構築プロジェクトの成否について関心を持って欲しい。ミドルマネージャーとしては、自分の業務がシステムに規定されていることについて関心を持って欲しい。
それぞれの立場で、もう少し関心を持ってくださった方が、ビジネスがうまくいくと思います。

3)要望を考え、話す事には責任を
システムを作れなくても、もちろん構わないのですが、
・システムの使い方を考える
・システムへの要望を考える
ことは、全てのビジネスパーソンに責任があると思う。
影響をこうむるのだし。

4)そして・・
もし可能であれば、自社のシステムへのチョッピリの愛と誇りを。





皆さん、今年も当ブログをお読みいただき、ありがとうございました。冬休みの間はネット断ちをします。
そういえば去年も、ネット断ちをしていたら
「6×8は正解でも8×6はバッテン?あるいは算数のガラパゴス性」 のコメント欄がとんでもない事になっていたんだった・・。

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