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あなたの仕事はインド人でもできますか?あるいはお仕事の無理矢理4分類

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★「自分のアタマで考えよう」

ちきりんさんの「自分のアタマで考えよう」という本が大人気の模様。僕も発売後すぐに読んだけど、いい本ですね。
言っていることは、これまで「ロジカルシンキング本」にコンサルタントの人が書いてきたようなことがほとんど。例えばMECEやマトリクス思考などなど。僕も職業がら、ほとんどのことは実戦投入している。
でも、この本が他の本と違うところは、全てをゼロベースで考え直しているからか、説明と例が抜群に分かりやすいこと。そして「あんた、ホントはなにも考えてないでしょ」と言うメッセージが強烈。

せっかくなので本の真似をして「社会的なテーマを、自分なりの分析軸で整理する」をやってみようと思う。普段はこういうことやらないけど、いい本を読んだら真似をしてみないと身に付かないしね。

★「中国人やインド人でもできるか?」
僕がやってみたのは、

日本人がやっている全ての仕事を「中国人やインド人でもできるか?」という観点で強引に分類してみよう。

である。

【グループA】
中国人やインド人というより、機械に置き換え可能な仕事。
例えば「インスタントラーメンを袋詰めする」

【グループB】
中国人やインド人でも代替可能な仕事。
例えば「インスタントラーメンを製造する機械を操作する」。
中国の工場でつくって輸入すれば、日本で日本人がやる必要はないから。

【グループC】
本質的には中国人やインド人でも代替可能。
例えば「東京のラーメン屋さんで接客をする」
ただし、「住む場所+日本語を話すこと」が代替のハードルになっているので、グループBほどは簡単に代替できない。

【グループD】
インド人・中国人・日本人といった国籍に関わらず、一部の人しかできない仕事。
例えば「行列ができるラーメン屋さんをプロデュースする」
「インスタントラーメンの製造ラインを設計する」
「インスタントラーメンの粉スープの配合を考える」

どんな仕事でも、上記のどこかに当てはめることができる。
分類上、ちょっと悩ましいのは農業で、多分BとCの間くらいに入ると思う。
例えばニンニクを作る仕事は中国人にあっさり代替される。中国の畑で中国人が働き、成果であるニンニクを船で日本に持ってくればいいから。だからグループBの仕事である。
でも「国産ニンニク」を作る仕事は、日本人が日本の畑でやる仕事である(今のところは)。そして日本人は国産ニンニクに4倍くらいは高いお金をはらう。そう言う意味で、BとCの中間なのだ。

「インド人でもできるか?」とか言うと、インド人の能力の方が低いと言っているように聞こえるかもしれないけど、僕が言いたいのは全く逆。
優秀だからこそ、仕事によってはサラリと代替されてしまう。だからからこそ、この「構造的に代替されやすい仕事なの?されにくい仕事なの?」という問いかけが日本人にとって深刻なのだ。

★各グループはこの先どうなるのか?

今後ますますIT技術も交通も発達するのだから、国と国との壁が低くなることに異論を唱えるひとは少ないだろう。つまり20億人もいて給料が僕らよりもかなり低いインド人や中国人と、僕ら日本人は仕事を取り合うことになる(もちろんベトナム人やタイ人とも)。

それを念頭におくと、AからDまでのグループが今後どういう風になっていくか、おおよそ予想がつく。逆に言うと予想に役立つようなグループ分けとして、この分け方を考えてみた。順に見ていこう。

【グループA】
この仕事をやっていた日本人は、一昔前はいたが今はほとんどいない。

【グループB】
今でもこれを仕事にしている日本人はたくさんいるが、既に大変苦しい状況だし、今後好転することはない。中国人やインド人の方が給料は安いのだから、どう頑張ったって仕事は彼らに取られてしまう。

a)工場が移転して中国人やインド人が雇われる
   or
b)工場は移転しないが、給料が中国人やインド人なみまで下がってしまう
   or
c)工場は移転しないが、中国人やインド人を雇ってモノを作っている別の会社に、会社ごと負けてしまう

市場経済である以上、これ以外の未来予想図は考えにくいが、日本人労働者にとってはどれもHAPPYではない。

【グループC】
グループBに比べて、住む場所と日本語というハードルがある分だけ、状況は良いのではないだろうか。どんなにITが進歩しても、ムンバイのインド人は熱々のラーメンを東京に住んでいる人に提供することはできないからだ。

それでも日本語を勉強した中国人によって徐々に日本のサービス業は職を奪われている。今やマクドナルドのお姉さんは日本人女子高生よりも中国人の方が多いと思う(あんまりマクドナルド行かないからホントは良く知らないけど)。

だが、日本政府が移民や外国人の就労をかなり制限していることで、このグループは持ちこたえている。海外からの圧力や少子化でこの政策を転換したら、グループCもほとんどグループBと同じ、厳しい戦いを迫られる。

【グループD】
国を問わず一部の人しかできない仕事。国を問わないのだから、その能力は日本国内だけでなく、中国やインドでも活かせる。活躍のしどころが一気に広がるのだ。
つまり需要と供給のバランスでいうと、需要がやたら高い状態。市場経済ではこういう場合、給料がものすごく高くなる。世界が一体化するにつれ、今後も高くなり続けるだろう。
例えば日本の大学生がiPhoneアプリを作り、世界中でウケ、いきなり億万長者になるとか。

もちろんグループDの仕事ができるインド人中国人もたくさんいるので、ここでの競争もすさまじいことになる。

★整理してみて分かったこと
自分のアタマでこの整理を考えてみて、僕自身はグローバル経済への見通しが良くなった気がする。
このグループ分けでどこに入るのかと、勤めている会社が製造業なのかサービス業なのかということは、あまり関係がない。同じインスタントラーメン製造会社に勤めていても、グループBの人もCの人もDの人もいる。
勤めている会社がどんな業界であれ、「やっている仕事、できる仕事が、他の人(特に給料の安い海外の人)には取って代わられないような種類の仕事か」が大事なのだ。

★NYのデモをこの整理から考えてみる
NYを占拠するデモをこの観点からみると・・

「1%の人が富を独占しているのはけしからん」
⇒1%の人はグループDの仕事をしてる。倫理的にいいかどうかは別として、経済学的には彼らが高給をもらうのは、ごく納得のいく現象

「なぜ大学を出たアメリカ人の自分に仕事がないのだ」
⇒アメリカ人にとってグループCのはずだったコールセンターでの仕事は、ITの発達によってムンバイに住んでいるインド人に奪われてしまった。アメリカは移民も多いので、グループCにあたる仕事自体がほとんどないのだ。

★日本のシステム業界で考えてみる
さっきはラーメンで説明したが、他にも当てはめられる。例えばシステム業界だと・・

単純プログラミングはグループB。残念ながら、日本での職はなくなっていく。「オフショア」は典型例。
ユーザーと会話するSEは、グループC。システムを作る上ではコミュニケーションは大事だし、日本人がお客さんの場合は日本語を話せるというのはかなり有利。ただし日本語ペラペラな中国人SEに負けてしまう、ということはそこいら中でおきている。
(もちろん、日本の産業自体が沈没して、日本人がお客さんの仕事が激減する、という問題もあるのだが、ココではいったんおいておく)

★で、どうすんの?
結論めいたモノを書くならば「グループDの仕事ができればいいんでしょ。頑張りましょう!」なんだけれど、世界中見渡してもほんの一部しかできない仕事を目指せ、というのはしんどいですよね・・。

むしろ給料が中国人やインド人なみに下がっても楽しく暮らせるようになろう、という発想が良いのかも。車買わなくても、100km先まで旅をしたくなったら自転車で行けばいい。
そう考えていくとやり方は色々ある気がする。
救いがない話ですみません。

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