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不測時対応計画あるいは日本軍の悪弊

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★不測時対応計画(コンティンジェンシープラン)とは?

プロジェクトもいよいよ佳境に入ってくると、くそ忙しい合間をぬって、コンティンジェンシープランをプロジェクトのコアメンバーみんなで作る。
舌をかみそうな言葉なので普通はCPと呼んでいる。

CPというのは
「予想外の事態が起きたときにどう行動すべきか、あらかじめ定めておく計画」
のこと。

例えばシステム開発であれば、
・本番稼動の直前になって、移行データがうまく入らない
・何かの締め切り(例えば決算締め日や給与計算日)までに、数字がどうしても合わない
などなどが、予想外の事態になりうる。
先日もみずほ銀行が大きなトラブルを起こしたが、典型的な「不測の事態」である。

こういうことが起こらないように、事前に念入りにテストはしてあるわけだが、それでも不測の事態は起こりうる。可能性は0にできない。
起きてしまってからバタバタしても、できることは限られている。だから事前にどうするか、充分計画を立てておこう、という考え方だ。

★日本人はCPを作るのがキライ?
名著「失敗の本質」は面白いだけでなく勉強にもなるので、何度か読み返している。旧日本軍がいかにして負けたか、を分析した本だ。

プロジェクトワークを仕事にしてから読み返すと、
「旧日本軍は絶対にCPを作らない(作れない)文化だったんだなぁ」
ということがとても印象に残る。

CPは「まずいことが起きたとき」を想定して作る。旧日本軍で言えば「敵の野営地を奇襲攻撃したのだが、準備万端で待ちかまえられ、撃退された」など。
旧日本軍ではこういう仮定は「あってはならないこと」「あったとしても気合いと根性で覆すべきこと」とされていた。だから、奇襲が成功しなかったときにどう撤退するかを考えること自体、卑怯者のすることだ、という発想になってしまう。

CPを考えられないこの体質は、野営地攻撃の様な作戦レベルから、戦術レベル、戦略レベルの全てにおよんでいた。戦いは相手のあることだし、常に不測の事態が起こる。でもCPを用意していないから、状況に適切に対処できずにひどい負け方をする。
いちど崩れ始めると体制を立て直せない。

「失敗の本質」の冒頭で、著者陣が執筆の動機として、こんな意味のことを書いている。
「国力が違いすぎるので、どんなにうまく闘っても、いつか負けただろう。でも、もうちょっとましな負け方はできたはずだ。どうしてこんな負け方をしたのかを理解したかった」
ひどい負け方の一つはこの、不測の事態への考え方だろう。

ちなみに、3/11以降多くの方が指摘しているが、この話を原発に置き換えても、そっくりそのまま通じそうだ。
原発についてCPをきちんと検討すると、「絶対に事故は起きない」ことが疑われてしまうのではないか。だからあまり検討しない。集団性盲目。

「事故が起きる確率が高いか低いかということ」と、「万一事故が起きたときの対処を検討しておくこと」は全く別の問題である。だが、今更いっても遅い。組織での日本人の思考パターンって、70年たってもなかなか変わらないものですね。

★プロジェクトでのCP
幸いなことに、僕が関わったプロジェクトでは「CPを発動せざるを得ない」となった経験はない。でも、これまで難しいプロジェクトをやってきたので、ギリギリまで追い込まれたことなら何度かある。いくつか例を挙げよう。

【プロジェクトA】
経理システム構築のプロジェクトで、稼動日が近づいてもテストで勘定があわず、CPとして3パターンの将来像を検討した。
・無事、予定通り稼動できるパターン
・1ヶ月稼動を遅らせるパターン
・3ヶ月稼動を遅らせるパターン
経理の場合、四半期が一つの業務単位になるため、1ヶ月だけ遅らせる、というしのぎ方では業務がうまくいかないことが多い。
この時は1ヶ月、3ヶ月それぞれのシステム的・業務的な対応方法を緻密に検討して、1ヶ月だけ遅らせればなんとか決算業務をやりきれることが分かった。

【プロジェクトB】
大きなシステムをビッグバン的に稼動させようとしていたとき、「もし、システムの一部で問題が見つかったら、他の領域は予定通り稼動させられるか」がCP検討の焦点になった。
もちろん、問題が見つかる領域によって影響範囲は変わってくるので、いくつかのパターンで未来予想図を検討した。

【プロジェクトC】
非常にスムーズに開発が進んだので、プロジェクトメンバーから
「CPを発動させないといけない状況が想像できない。CPなんて作らなくて良いんでは?」
という声が挙がった。

でもちょっと待って欲しい。タイタニックだって「絶対に沈まない船。沈む理由が想像できない」という思いこみが被害を大きくしたのだ。原発もね。
「うまくいかないことが想像できない」ことは、CPを検討しない理由にはならない。

★CPは作ることに意味がある
時間をかけて検討しても、結局は毎回使わずに済む。それでも、忙しい中でCPを検討するのはなぜか。大きく2つの理由がある。
・今まで使わなかったからといって、今後もないとは言えない。備えよ、常に。
・CPを検討することで、プロジェクトの問題点が洗い出される。

後者の意義はとても大きい。「どんな事態が起きうるのか」「どこまで進めたら元に戻せなくなるのか」などを調べていくと、プロジェクトに潜むリスクがどんどん出てくる。CPを発動する前に、そういうリスクはあらかじめつぶしておけばよい。
CPを作るからこそ、CPが必要な事態にはならないのだ。

まとめ。
「最悪の事態」「不測の事態」を想定し、CPを作ろう。
CP作りをさぼる理由を思いついたとしても、たぶんそれは誤っていて、単なるさぼるための言い訳だ。
今日はここまで。

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