オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

期待は失望の母、あるいは野菜ソーキそば(野菜抜き)

»

★沖縄で自転車乗ってきました。
先日の連休はケンブリッジのチャリ部で(といっても3人だけ)、沖縄で自転車に乗ってきた。海風が突風レベルでこけそうになったり、ブルベというイベントで200km走ったり、ヘルメットを飲み屋に忘れて危うく出走できなくなりそうだったり、今回も珍道中だった。

5_20110217__2

1日目の夜のこと。那覇でネーネーズのライブを見ながら沖縄料理を散々食べた後、「明日に向けたカーボローディングだ!」とか言いながら別のお店で沖縄そばを食べることになった。
国際通りに面したお店のメニューで沖縄そばは「野菜ソーキそば」のみ。
僕らは全員、注文を取りに来たお姉さん(おばさん?)に「野菜ソーキそば」を頼んだ。

ところが、それを受けたお姉さんが「野菜がなくなったので、野菜はなしです」と返したので、変なことになった。
「野菜抜きだと、いくらになるんですか?」と僕ら。
「野菜は本来サービスでつけているものなので、抜きでも値段そのままです」とお姉さん。
沈黙する僕ら。

この時の微妙な気持ち、想像してもらえるだろうか。
某チャリ部員が「野菜がつかないなら、もう、お店出ましょう!」といい出す。
でも既に夜遅く、開いている店もほとんどなかったので、結局僕らは「野菜ソーキそば(野菜抜き)」を注文した。

この話のポイントは、お店に入る前まで、僕ら3人は「具ナシ沖縄そば」や「ソーキ(バラ肉)入りの沖縄そば」をイメージしていて、誰も野菜のことなんて眼中になかったことだ。
でも、いざ同じ値段で野菜抜きを出されると、全く釈然としない。すごく損した気になってしまう。
もう一つのポイント。もともとお店はサービスで(善意で)野菜をつけようと思っていたのに、顧客である僕らの満足度は下がってしまったことだ。どこにも悪意はない。まずかったわけでも、けち臭かった訳でもない。

★期待値、このあやふやなもの
「期待は失望の母」という言葉がある(大瀧詠一氏の言葉らしい)。
テストの点でも、コンサルティングサービスでも、プロジェクト成果でも、最初にすごく期待されると、そこそこの成果を出しても失望されてしまう(出来杉くんがテストで90点とったら、彼のママは不満であろう)。

つまり、何かに満足するということは、成果の絶対値が高いか低いかとは関係なく、
「あらかじめ抱いていた期待を、成果実績が越えたかどうか」で相対的に判断されるものなのだ。野菜ソーキそばとメニューに書いてあったことで、僕らの期待値は単なるソーキそばから野菜が入ったソーキそばにUpしてしまった。その新しい期待値と比べて、相対的に価値が低いものしか手に入らなかったので、納得できなかったのだ。
高い成果を出すことに躍起になるのはもちろんだが、事前の期待を適正に保ってもらうこともまた、顧客に満足してもらうめには、同じくらい重要である。

★期待値管理はPMBOK第10の知識領域(で良いと思う)
従って、プロジェクトを実施するときは必ず期待値管理が必要となる。僕はリソース管理やリスク管理と同様、期待値管理もPMBOKの知識領域に仲間入りさせた方がよいと思っている。
具体的にやることを書き始めるとキリがないので(少し書き始めたのだが終わらなくなり全部捨てた)、最小限のことだけ書いておく。

1)期待値の設定
設定とは、売り手の都合を押しつけることではない。買い手だって自分で何が欲しいか明確には分かっていないのだから、「プロジェクトに期待値できるものを一緒に探してあげること」という意味だ。
沖縄そばや缶コーヒーであれば、顧客が抱く期待値と店やメーカーが提供する価値はだいたいすり合っているが、コンサルティングサービスや一品モノのシステムの場合、自分の期待値を正確に把握し、表現できる買い手は存在しない。

具体的には買い手と売り手の期待値をそれぞれ文書にして、表明しあう。ずれている場合は議論してすり合わせる。
「あなたはこれこれこういう成果を後で受け取りますよ。品質レベルとしてはだいたいこのくらいですよ」とつたないながらも表現する。

2)期待値の変更管理
検討が進んで、徐々にプロジェクトで作るモノが具体的にイメージできるようになってくると、期待していたものが当初とは変わってくる。文字だけのメニューを見てカレーを食べようと決めたけど、写真付きメニューを見せられてカツカレーにグレードアップしたくなった、みたいな感じ。ひどいときにはカレーからハヤシライスに変わる場合もある。

その場合、「期待値が変わったよ」と明確に宣言すれば、カツカレーやハヤシライスを食べられる(余計にお金がかかることもあるけど)。買い手と売り手が期待値についてこまめに意見交換するのが大事。
僕らコンサルタントの立場では、
「現在のコンサルティングは、あなたの期待値を上回っていますか?」
「もっとこういうことをやってくれると思っていたのに、というガッカリはありませんか?」
とストレートに聞く。
そして期待値がずれていた場合は、当初合意した期待値を満たしていないのか、変わったのかを合意し、別のモノとトレードするのか、大した仕事ではないので追加でやってしまうのか、を決めていく。

★沖縄そばのケース
では、沖縄そばのお店はどうしたら良かったのだろうか。僕も考えてみたが、意外に難しい。

a)メニューに「ソーキそば」と書き、「サービスで野菜を入れましょうか?」と聞く。
b)メニューに「ソーキそば(野菜サービスあり)」と書く。
c)メニューに「野菜ソーキそば」と書く。野菜がないなら代替品(かまぼことか)をつける。
d)メニューに「ソーキそば」と書き、野菜も入れない。
こんな所だろうか。

a)とb)は最初から低めの期待値を設定する作戦。野菜がサービスであることをはっきりさせれば、野菜がない場合の言い訳になる。
c)は期待値の変更管理だ。勝手に変更するのではなく、お客さんに一言かけるのが大事。
d)は身も蓋もない選択肢だが、僕らが受けた待遇よりはマシだろう。

まとめ。
期待値は成果と同じくらい「満足してもらえるか」を左右する。だから設定し、変更管理しよう。
ちなみに。沖縄のお店では、実は厨房に野菜が残っていたみたいで、ちゃんと「野菜ソーキそば」が出てきた。そして「野菜がないならこの店出る!」と言った某チャリ部員は「お腹いっぱいで食べれない!」と、野菜「だけ」を残した。

Comment(0)