Intel Investor Meeting 2011の感想
Intelが投資家向け会議「Investor Meeting 2011」の資料を読んでの感想です。出展は全てIntelの資料です。
消費電力に対するターゲットの変更ですが、少し面白いです。
ULVとAtomの間のカテゴリ(10~20W)と1W以下もIntelは注力するようです。Pentium M以降の最も消費電力が少ないタイプは以下になります。ただし、Arrandale/Sandy Bridgeは、メモリバスとGPUを搭載しているため、以前のCPUとそのまま比較はできません。Yonha/Merom/Penrynはデュアルコアとシングルコアの両方を記載しています。
Bainas:7W
Dothan:5W
Yonah:5.5/9W
Merom:5.5/11W
Penryn:5.5/10W
Arrandale:18W
Sandy Bridge:17W
ULV系は下限を決めてそれ以上踏み込んでないように見えます(注:上の画像の消費電量はどこの箇所を言っているのか分かりません。CPUオンリーならば既に存在しています。全てのチップセット込みではないかと)。一番気になるのは、10~20Wクラスがカテゴリの必要性です。<1Wははスマートフォンカテゴリで、ARM対策としては必須です。
ULV系は電車でノートPC持ち運び大好きな日本ならばうけました。ですが、ワールドワイドではそれほどだと言われています。このため、10~20Wにどの程度需要があるのでしょうか?メディアタブレットに入れる(ぎりぎり入る?)ことはできそうにないので、どうしてもこのカテゴリに注力するのかわかりません。
普通に考えれば、Chromebook系対策ではないかと思われますが、Atomの高性能版を出したほうがコスト的に見合うように思えます。10~20Wカテゴリが成功するか分かりません。ただし、性能は既に一般ユーザには飽和しているので、10~20Wカテゴリでも十分だと思います。
今回の資料で一番驚いたのは、RISC MIGRATIONのページです。"Source: IDC World Wide Server Tracker Q4'10, system revenue"とあるのでサーバの出荷金額だと思います。
x86がRISCサーバを侵食した成功話と見るよりも、2002年($49.6B)と2010年($52.8B)の金額がほとんど変わっていないことの方が重要です。現在のRISCの低迷は、x86を止めることが出いなかったことよりも、市場開拓しなかったことの方が影響は大きいのではないかと思えます。
Atomの性能向上のグラフですが、いくつか疑問があります。
以前から、IntelはAtomのCPUの性能をSPECcpu2000を使っています。SPECcpuは既にSPECcpu2006にチェンジしています。なぜ、古いSPECcpu2000を使っているのかわかりません。SPECcpu2006を使用するのに都合が悪いことでもあるのでしょうか。
ベンチマークを脇において、Atomは2013年に大幅に性能向上を果たします。Atomのロードマップ的には、Silvermont登場時期です。
ただし、マルチスレッドベンチだとコア数が増えるとリニアに性能向上を果たすため、微妙です。最もマルチコアで効果があるアプリはゲームです。デュアルコアまでは多くのユーザにとって効果を得ることは簡単ですが、それ以上になるとユーザに体感できるケースは減ります(一時期的に周波数を上げるパターンぐらいか)。
もしくはTri-Gate導入(22nmから)による消費電力低下=周波数向上の影響もあるのかもしれません。最近のCPUは周波数向上させるよりもマルチコア化に進むため(消費電力のため)、Atomの性能向上もマルチコア化ではないかと思われます。そうなるとシングルスレッドの性能向上はあまりないのかも知れません。
IDF Beijing 2011でも主役はAtomでした。Investor Meeting 2011も主役はAtomに見えます。現在のIntelの弱点は、スマートフォン・メディアタブレットに入り込めないこととAMD/NVIDIAに対するGPU及びHPC向けヘテロジニアスマルチコア化でしょう。
後者は、驚異かも知れませんがHPC向けサーバの需要、現在のIntelのサーバシェア、ヘテロジニアスマルチコアの固定化の遅れがあるので後回しでも問題ないのでしょう。ですが、前者の問題は大きいです。現在スマートフォンOSのCPUシェアは、Intelはほとんど0に近いです(注:LOOX F-07Cがいるので0%ではない)。
スマートフォンCPUシェアを奪う必要性に関しては、いろいろな意見があるでしょう。メディアタブレットがトレンドだからというわけではなく、将来的にARMのPC市場へ進出を抑えるためにもIntelは打って出るべきです。守って勝つケースよりも攻めて勝つケースの方が多くあります。Windows 8でARM版が出るならば、x86(Atom)版Androidを出すほうが効果的です。
このため、Atomへの注力なのでしょう。決してメディアタブレットの興隆に追いつこうという近い将来の対策ばかりではありません。特にCPUの開発スパン(4年ぐらい)が長いだけに、1、2年後を予想して行動するわけにはいきません。
投資家向けの耳に聞こえが良いメディアタブレット・スマートフォン市場への進出するための力強いロードマップ公開ではなく、将来のx86を脅かすライバルに対する挑戦状の様なイベントだったと思います。