AppleのARM採用の噂に関する考察
「「MacBook」「MacBook Pro」、ARMベースチップに移行予定か」にMacBook系でx86ではなく、ARM系採用の噂が流れています。私は、以前にMacBook AirにARM採用しても良いのではないかと予想しましたが、現実味が出てきたかも知れません。
この噂はありな方向でしょうか。
ARMのロードマップは、Cortex A-15まで出ています。Cortex A-15はCortex A-9(iPad2に採用されている)に対して、周波数あたり40%前後速くなります(Cortex-A9が2.5DMIPS/MHzでCortex-A15が3.5DMIPS/MHzのため)。また、A5は45nmで製造されていますが、Cortex A-15は、32/28nmがターゲットです。1回のシュリンクがあるため、同じ消費電力ならば周波数もしくはコア数が増えるでしょう。
このため、2012年終わりから2013年に登場予定のCortex-A15の性能は、現行のCortex-A9のチップから比べると、周波数あたりは40%増加し、プロセスのシュリンクで2倍(コアを倍増する)になるとすると、現行の約2.8倍は最低限伸びるでしょう。
現状分かっているARM系とx86の性能差に関しては、CoreMarkが有力です。
CPU | CoreMark Score |
Core 2 Duo 1.6GHz | 10,483 |
Tegra 2 (dual&1GHz) | 5,148 |
Karl-El | 11,352 |
Core i7 2600 | 99,562 |
Core i7 2820QM(*1) | 67,350 |
*1:これはCore i7 2600から周波数比で求めた。CoreMarkにはない値。
MacBook Airに搭載されているCPUと似ているCore 2 Duo 1.6GHzと2011年に出荷予定のNVIDIAのKarl-Elが大体同じ性能になっています。
ただし、Sandy Bridge(Core i7 2600)では、それらは9倍以上も性能差になっています。モバイルにはここまで高性能なものを積まないため、現行のCore i7 2820QM(2.3GHz)換算では、67,000前後でKarl-El の6倍も違います。Karl-Elクラスが一度シュリンクしてCortex-A15になり3倍の性能アップしても追いつかない計算になります。
このため、MacBook Proに搭載されているCPUには、2013年になってもCortex-A15系は性能的に追いつかない計算になります。ただし、ARM系は製造メーカによって修正も許容されているため、Apple&Samsung連合のARM系チップはCortex-A15よりも高性能な可能性も否定できませんが、現時点(2011.5)でのSamsungのアナウンスを見る限りそのようなことはなさそうです。
このため、MacBook ProにARM系を乗せるには割りに合うとは思えません。ですが、性能を期待していないMacBook Air/MacBookの廉価カテゴリに搭載するには2013年時点のCortex-A15の性能を考えるとそれほど突飛な発想とは思えません。
また、CPUを変えた場合の問題に関しても考えてみましょう、PowerPCからx86への移行したときのようにRosettaで対応しました。このときのオリジナルとの性能差は50~80%だと言われています。
この性能比はCore 2 Duoとハード性能が高いCPUに移行して実現した値です。ARMへの移行は性能向上はほとんどないでしょうし、シングルスレッドに関して低下する可能性もあります(CoreMarkの値はマルチスレッドベンチのため、コア数で割ると半分になる)。このためRosettaの様な方法で実現せずに、ユニバーサルバイナリとして対応がメインになると思われます。
もしくは、ARM系MacBookのOSをiOSにすることで、iOSとソフトバイナリ互換を採用するほうがより効果的です。大量のソフト資産をそのまま流用も出来ますし、ライトユーザにフルOSは実質不要です。2013年頃になれば、ソフト資産の点からMax OS XよりもiOSのほうがより魅力的な可能性もあります。
このように、MacBook Air/MacBookをARMにリプレイスすることは性能差があまりなくて、且つ低コスト・消費電力化が出来るため、良いでしょう。また、CPUがiOSガジェットと共有できれば、コスト競争にも有利になります。もしかすると、それを前提にA4/5をつくり始めたのかも知れません。
2013年以降のARMロードマップ次第ですが、最終的にはx86をARMにリプレイスすることも夢ではないかも知れません(情報が少なすぎて分からない)。
ここで困るのはIntelでしょう。MacBook Air/MacBookの出荷量はIntelにはあまりおいしいところでないかも知れませんが、将来的に上のランク(MacBook Pro/iMac)がARMに置換されない保証があるわけではありません。
CPUの世界は下克上が成功しやすい傾向があります(RISCがメインフレームを追いやり、x86がRISCを追いやった)。このため、ARMがx86を駆逐する可能性がないとは言い切れません。とはいえ、"Intelの半導体技術は世界一ィィ"とも言える為(High-K/Metal-GateやTri-Gateの採用)、Atom系が大幅に省電力化及び性能向上を果たす可能性もあるため、一概にARMはx86を駆逐できるか断定は出来ません。
このため、MacBook系にARM採用は十分に可能性があると推測できますが、MacBook Proへのリプレイスする可能性は高いとは思えません。また、AtomがARM並に省電力化した場合には、Atom採用の可能性も十分にあると思われます。