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"不合理だからすべてがうまくいく"の感想

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行動経済学で有名なダン・アリエリー氏の二作目です。私は一作目の"予想どおり不合理(今、増補版を手にとっています)"を読んでいませんでしたが、非常に面白く読めました。

最近では給料が高額であることは仕事のモチベーションに寄与しない結果が発表されるようになりました。これは、給料の過多=プレッシャーの増加になり、それほどメリットがないそうです。以前は、平等主義や日本の安定志向の給料体系は批判されていましたが、今は見直されています。

このことを実験しています。ただし、日欧米のように賃金が高いところで行えないため、インドで行ったそうです。そこでは一定の金額が超えると作業者に過大なプレッシャーを与えることになり作業の効率化(集中力が違うところにくる)が著しく悪くなるそうです。これはインドのような低賃金のところだけではなくエンロンの破綻も同様なメカニズムだと思われます。エンロンは優秀な人間が集まったと言われていますが、それでもこのようなことが起きるのですから、高額な収入はいいことばかりではないのでしょう(ただし、これはいろいろな条件がありそうですが)。

人間はシンプルには出来ていません。同じものでも、ちょっと自分で手を加えると突出してよく見えます。これを実験で検証しています(ものによっては価格の跳ね上がり方は違うとおもいますが)。

このことを身近で感じるのは自作PCや本をPDF化する自炊でしょう。私は自作PCをメインにしているため、その意味を強く感じています。手を入れることで自分の苦労が評価に上乗せされるためかも知れません。逆に言えば、手を加えることを前提とした製品を出すことで製品価値を上乗せさせることができることを意味しています。

これは何も身近な製品だけに言えるわけではありません。これは仕事のモチベーション維持にも似たような傾向があるようです。自分で手を加えたわけではありませんが、他人から高い評価を受けるとモチベーションがあがります。逆に、けなされれば低下します。それは当然です。ただ、評価はなにもダイレクトに伝えられるだけではありません。

例えば、ブログではPVが一つのモチベーションにつながります。本ブログは、2009年秋までそれほど多くはありませんでした。ですが、あるエントリを境に急激に上がっています(30位内に入った)。これを境に、書くほうもモチベーションがあがりそれ以降エントリ掲載ペースは上がっています。エントリが増えればPVも上がるためさらにやモチベーションが高いまま維持できています。このようなサイレントな評価をでもモチベーションは維持できます(ネガティブなコメントをもらうと相当へこみますが)。

復讐と謝罪に関する考察も面白い結果が出ています。現在は医療ミスによる訴えは、ミスのレベルに依存するわけではなく、医師の態度(誠実かどうか)に依存すると言われていますし、データも出ています。実際問題そんなものなのです。

順応に関して面白い考察がされています。大きな怪我・病気を経験した人は、他の人よりも痛みに対して鈍くなる傾向があるそうです。これは順応と言う言葉を使っていますが、私には相対評価による基準(下限)が変わったためだと思います。

私は著者ほどではありませんが、短くない時間(一年未満)を病院のベットで暮らさざる得ない経験をしたことがあります。その経験から二つのことを学びました。一つ目は、今体験している苦痛が時間さえ経過すれば改善されるものならば耐えることは容易であること。二つ目は、男性よりも女性の方の痛みに強いと看護婦さんが言っていたことです。

前者に関しては達観したというのもあるのかも知れませんが、今でも苦痛を感じるときは数分から数時間後の状態を予想して苦痛を紛らわせる方法を会得しました。また、苦痛の上限は相当あがったと思います。ただし、これには一つ条件があります。それは恐怖心は簡単には拭えないため、過去の恐怖をフレッシュバックされる苦痛に関しては許容上限は緩和されていないと思います。

後者に関しては、著者の師匠が女性は出産を経験すると痛感閾値と許容限度が高いと言う発言と同じになります。本当のところの理由は分かりませんが。ただし、看護婦さん曰く、女性は痛みに強いけど文句が多いとも言っていましたけどね(同姓による良いやすさからかも知れませんが)。

感情に関しては非常に面白い考察がされています。感情が合理的な決断の阻害になる傾向にあることです。また影響は、その物事と直接関係がない感情でも十分に影響を与えるようです。このことを巧みに利用し募金やゲームをコントロールすることができそうです。これは人間をハックする一つの方法です。

本書の内容は説得力があるように思えます。それは擬似的な環境の実験結果を提示しているためだと思います。本書の中身とは反して感情に訴えていないにも関わらず説得力がある理由は、今まで思っていたことの常識を覆していて驚き(もしくは新鮮)と共に結果を提示しているからも知れません。

私は本書で紹介していることを人間をハックできるのではないかとさえ思えます。自分を良い方向にコントロールするために、ハックするのもいいのかも知れません。

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