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"ビジネスで一番、大切なこと"の感想

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本書は、ハーバードのヤンミ・ムン氏のブランドマーケティングに関する授業を本にしたものです。

マーケティングだと製品やサービスを作るうえではあまり関係なそうな気もしますが、製品の差別化のポイントに関する考え方に関しては勉強になります。例えば、以下がブランド関係の考え方です。

・プロは違いに注目するが、素人は類似点に目が行く
・選択肢の増加イコール多様化、ではない
・真の差別化は、均整の取れた状態から生じるものではない。むしろ、偏りから生まれる。
・ポジションマップ等で競争力を調査すると、弱みを改善して、平均的な製品になる

ここで現在IT系製品に当てはめるともっとわかりやすくなるのではないかと思います。

スマートフォンを例に考えて見ましょう。iPhone以前のSymbian系 or Windows Mobile 6.5以前は、この市場に関して多くの情報を持っていないユーザには差別化できていたとは思えません。

iPhoneは、登場時から注目されました。多くの弱みを持っていますが、タッチパネルのみで操作できるUIは、他の製品と差別化がされました。BlackBerryも他の製品とはまた違っていました。この2つのブランドが既存のプレイヤーを押しのけて大きくなったのは差別化をうまく図ってこれたからでしょう。それだけとんがった製品でした。

ですが、このような状況からAndroidの登場でがらりと変わりました。iPhone特有のタッチパネル形式は似たような動作ができます(必ずしも全てが同じなわけではありませんが)。またキーボードをつけた製品やネットサービス前提の多くの機能が盛り込まれました。

現在スマートフォンの製品群の中で、一般ユーザにとってiPhoneとBlackBerryとAndroidの区別がどれくらい明確についているでしょうか?ブランドロイヤリティを重視して購入するユーザがどれくらいいるでしょうか?iPhoneは登場時期のブランドロイヤリティを今でも維持できているでしょうか?

本書では、カテゴリが成熟すると製品の差別化できなくなり(キャッチアップや弱点を埋める)、ユーザがブランドに対する思いが、カテゴリ全体に向いてしまうと言っていますが、スマートフォンはちょうどそのような時期に差し迫っているように思えます(たぶん2011年ぐらいにはOSとメーカに関しては気にならなくなるかも)。

この状況から抜け出すのに初期のシンプルなGoogleの検索や、IKEAやレッドブルが行った戦略などを示しています。万人に受け入れられる製品(弱点がない)ではなく、購入してほしい顧客にのみ売る戦略です。この戦略をとることで製品がカテゴリ内で埋没せずに生き残れます。

これを昔からやっているのがAppleでしょう。iPod、iPhone、iPadと新しい製品を次々と出しています。初期のスマートフォンはハードキーボードだと思われましたが、それに迎合せずにタッチパネルメインのiPhoneを作りました。消費者視点で製品を作っていないところが良いのでしょう。

某メーカを見てみると弱点をなくして万人向けの製品を出しているように思えます。これではカテゴリに精通しているユーザ以外には差が見分けられないと思います。多くの消費者はプロではないため、差別化されたところよりも類似箇所だけ浮き彫りになります。

製品の差別化を行いたいと思ったときは本書を手にとって見ると良いかも知れません。作る側が差別化されていると思っていても消費者は案外そんなところには目がいっていないでしょうから。

後、最近大学の授業内容を本にするのが多くなってきているの様に思えます(ハーバード大学の白熱とか、"世界を動かす授業""20歳のときに知っておきたかったこと")。大学の授業内容をネット上に流すことは以前から行われていますが、授業を全て見るのは時間がかかりますし、場所(高速なネット)も限定されます。その両方から開放される本は、大学授業内容をさわりだけ(もしくは要点のみ)を知るにはうってつけのメディアだと思います。ただし、紙である必要性はないかも知れませんが。

【本】
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