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"巨象も踊る"の感想

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"ビジョナリーカンパニー3"にIBMを復活させた話に興味が惹かれたので、当時CEOのルイス・ガースナー氏の"巨象も踊る"を読んでみました。

昔(14,5年前)、IBMは"Company"ではななく"Country"だと言われていました。このため、ガースナー氏がCEOになりたてのころに不要な文化を排除するのにパワーをつかったようです。企業文化と言うのはなかなか難しいところがあると思いますが、集団は保守的(失敗を恐れる)になり、無駄な稼動が増えるものです。リスクとコストを考慮に入れてルールを決めるべきですが、コスト度外視のリスク軽減施策を選択し官僚的になってしまうのではないでしょうか。

買収哲学に関してはガースナー氏の一家言あるようで、買収は顧客獲得がメインのようです。このため、コンパックがDECを買収したときに喜んだようです(DECの買収はコンパックの独立を短くさせた)。

ビジョナリーカンパニー3でも企業が衰えたときに一発逆転を狙って買収した場合は、ほとんど失敗すると書いてあります。このため、衰退傾向を示した時に買収を行う企業はほぼ全てうまくいかないと判断すべきです。ただし、買収にもいろいろな意味合いがあるため、買収=失敗と決め付けられるわけではありませんが。

また、氏の経営哲学・経営方法に関して、興味が惹かれたのは以下の2点です。

・問題を解決し、同僚を助けるために働く人材を求めている。
・速く動く。間違えるとしても、動きが遅すぎたためのものよりも、速すぎたためのものの方がいい。

"個人よりもチーム"を、"拙速は巧遅に優る"を地にいくような経営哲学です。後者は当時のIBMを批判している感じもしなくもありませんが、優先順位を決めかたがシンプルで明確です。たまに、速く・正確に作業を指示する方が見られますが、それは矛盾した指示です。どちらか優先順位をはっきりして指示を出すべきです。

氏は、企業が成功するには、顧客・市場志向と強力なマーケティング組織が必要だと考えたようです。前者は通常の思考なので当然だと思いますが、後者はSamsungはここが強いと聞いたことがあります。メモリ競争でSamsungが日本メーカーを追い落としたのは、安価なPC向けのメモリを作ることで勝ち抜いたそうです。製品が売れるかどうかは、カタログスペックで決まるわけではないことを示唆していると思います。例えば、iPadはメモリ搭載量も少なく、スペック(スペック自体が公開されていない)はよくないかも知れませんが、売れていないわけではありません。これは、IBMの黒歴史の一つであるOS/2にも言えます。

氏のCEO時代ではありませんが、HDD部門を日立に、PC(ThinkPad)部門をLenovoに売却しました。HDD部門(日立グローバルストレージテクノロジーズ)は黒字化に時間がかかったこと考えれば、売却は妥当な判断です。また、ThinkPadの今価格を考えると妥当な判断だと思います。昔のThinkPadの価格を考えると、IBMが今持っていても価格戦争に勝てるとは思えません。メインの部門に集約するあたりは、ガースナー氏の経営哲学が根付いている感じがします。

特に昨今のIBMの収益を見ていると方針が貫いているように見えます。例えば、IBMと同規模のHPの収益と比較すると以下の様になっています(2003年以降にしているのは2002年だとHPはCompaq分が中途半端に入っているため、2003年以降にしました)。単位は億ドルです。

Year IBM
売り上げ
IBM
純利益
HP
売り上げ
HP
純利益
2003 891 76 731 25
2004 965 84 799 35
2005 911 79 867 24
2006 914 95 917 62
2007 988 104 1,043 73
2008 1,036 123 1,184 83
2009 958 134 1,146 77

会計期限(IBMは1月スタート、HPは、2月スタート)が違うため一概に比較はしづらいですが、それでも純利益の割合が違います。例えば、2009年を比べるとIBMは純利益の割合が14%近いですが、HPはその半分の6.7%です。また、3Q'08~2Q'09まで不況で多くの会社は苦しみましたが、IBMは売り上げこそ低下させても純利益は前年から増加させています。HPは他の企業と同じく純利益は減らしています。それほどIBMの体質は強化されたようです。

2002年に書かれた本(日本語版)ですが、決して古臭いイメージはありません。企業の本質(改善ではなく、真っ当な方向性に向けるという意味)に関して書かれている良書だと思います。だからIBMは復活を果たしたのでしょう。

【本】
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