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教員のための仕事効率化 ー授業編ー

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前回からシリーズとして、中学校で教諭(理科担当)をされてきた望月陽一郎 先生に「教員のための仕事効率化」についてお話を伺っています。第2回目は「授業の時短術」を中心にお聴きしたいと思います。

【望月陽一郎先生・略歴】
大分県立芸術文化短期大学 非常勤講師。Forbes Japan 電子版オフィシャルコラムニスト。元公立中学校教諭(理科)。大分県教育センター情報教育推進担当主事・指導主事・大分県主幹等を経験されています。

自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』2.0版」が2019年の第35回 学習デジタル教材コンクールにて「学情研賞」を受賞されました。

望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net

授業で時短できる部分

-デジタル的な時短術、アナログ的な時短術など、いろいろ組み合わせて授業されているかと思います。望月先生が授業で行っている時短術の例を教えてください。

望月先生:一般的な一斉授業(先生が話して説明するという「一斉講義型」という意味ではなく、クラスの子供たちが一緒に授業を受けるという意味)では、

  • 先生の説明の時間
  • 先生が板書する時間
  • 子供たちが板書を写す時間
  • 子供たちが考える時間
  • 子供たちが話し合う時間
  • 子供たちが実験や観察をする時間(理科での活動)
  • まとめをする時間

などが考えられますが、まずは最初の2つ、「先生が説明したり板書したりする時間」を縮めたいですね。この時間を短縮すると子供たちが考え、話し合って実験をする時間をより確保できます。

そのために、板書をできるだけせず、説明をする」ことによって、50分の授業時間の中での割り振りを工夫していました。それが、「教科書を投影し、その画面で説明する」工夫です。こうすることで子供たちは、手元に持っている教科書で説明を確認したり、メモしたりできるので、3番目の「子供たちが板書を写す時間」も結果的に短くなるのです。

板書を極力しないメリットとは

-それでは逆に授業を行う際「これは極力しない」というやり方があれば教えてください。

望月先生:前記のように、板書を極力しなかったことですね。黒板に書くのは、

  • 関連について図示するとき
  • まとめるとき

でした。要は、教科書にあるような項目と項目などを結びつけて考えるとき、といえますね。関連図としてまとめることが多かったです。

また、よく見るような、「授業用のスライド」をつくることもしなかったですね。教科書に書いてあるのに、わざわざ別につくる時間がもったいないですから。また、子供たちが、スライドを見てわかった気分になるのを避けたかったからでもあります。

これは、先生方向けの研修でもよく話したことですが、「スライドは消えるもの(すぐに次の画面に変わってしまう)」ですから、もともと記憶に残りにくいのです。

-確かにPowerPoint等のスライドは便利ですが、教科書と違ってどんどん流れて行ってしまいますね。記憶に残したいものは表示したままにできる形(アナログの掲示物で見せる、板書する等)の使い分けが必要ですね。

望月先生:その通りです。

実物投影機を活用するメリット

-「教科書を投影し、その画面で説明する」は、実物投影機を使われているということですよね。実物投影機を使うメリットを教えてくださいますか。iPadのカメラ機能で実物を撮影してもいいのではないか?と気になったからです。

望月先生:例えば、実物投影機の向きを変えることで、演示実験などを「横から映す」こともできます。iPadのカメラでもできますが、支えるスタンドがないと実験するための両手があかないのです。

教科書やワークシートという平面的なものだけでなく、立体物も映すことができるので「実物投影機」なのです。書画カメラという商品名的な呼び方をする方もいますが、理科で書画カメラと呼ぶのはちょっと違うと思うので(笑)。文部科学省の「学校におけるICT環境整備について」にも「実物投影機」と書いてあります。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/12/1402839_1_1.pdf

-iPadのカメラ機能を使うのとは違ったメリットがあるんですね。どんな場面で実物投影機を使うと子供たちの理解を深めるのに役立ちますか?

望月先生:前記のように、説明したり指示したりするときですね。口で言うよりも「そこにあるもの」を見せる方がわかりやすいですね。

ビーカーに液体を入れるとき、口で説明するよりも「これくらい」と液体を入れたビーカーを映せばよいのです。

-紹介いただいたリンクの資料のように、全教室に実物投影機を設置することが整備方針に入れられたと伺いました。どうしてでしょうか。設置した方が良いと思う出来事、キッカケがあったのでしょうか?

望月先生:以前からある文部科学省の「教育の情報化に関する手引き」でも、実物投影機を使った事例は教科におけるICT活用の第一歩として示されていました。やっと常設が示されたのですが、遅いともいえますね。

OfficeLensを活用するメリットとは

-望月先生は「OfficeLens」というアプリを使ってワークシートを画像に変換する工夫もされているそうですね。AppStoreで確認したのですが、「OfficeLensは簡単に使える便利なスキャナ 」としても使えるんですね。「OfficeLensを使ってワークシートを画像に」するメリットは何ですか?

望月先生:学校に勤務していた頃、iPadアプリ「OfficeLens」を授業でもよく使っていました。

このアプリで机に置いたプリントを撮影しようとすると、そのプリントのふちが自動認識され、撮影した後、画像を平面にひきのばしてくれるのです。ですから、斜めから撮っても「真上から撮ったのと同じような画像」になります。

同じように、黒板を斜めから撮影すると、正面から撮影したような横長の平面的な画像にしてくれます。簡単に使える記録ツールにもなりますね。

-紙の書類や黒板など手書きのデータを簡単にデジタル化できるのは授業する上で多くのメリットがありますね。

-板書した場合としなかった場合で、子供たちの理解はどんな風に違いがありますか?

望月先生:実際子供たちが活動する時間が増えたので、いろいろ考えたりじっくりと実験したりする余裕が増えましたね。毎時間、授業の最後にリフレクションシートを子供たちに書いてもらっていましたが、その時間が確保できているので、じっくり頭をひねりながら考えていた姿を思い出します。

-小学校でプログラミング教育が必修化されるなど、教育とICTの結びつきが強くなればなるほど、どうしてもデジタルな観点が注目されやすいのではないかと思います。しかし、授業全体を見通して時間の配分を考えるアナログな考え方自体も大切だと感じました。こうすることで50分の授業時間を有効活用(結果として時短)できますね。

>>「教員のための仕事効率化 ークラウド編ー」に続く(2019年10月公開予定)

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望月先生がmicro:bit を活用したプログラミング教育について、当ブログで連載した記事のまとめは以下の記事からご覧いただけます。

▼【連載まとめ】micro:bit プログラミングとこれからのプログラミング教育https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2019/02/microbit.html
※連載まとめは、望月先生の連載(5回分)を片岡が再構成してまとめたものです。

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